★【完結】猫になった銀次郎(作品241122)

菊池昭仁

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第4話

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 毎日が極楽だった。ヤクザの頃は毎日が生きるための闘いだったので必死に生きていた。
 組に収める上納金にはいつも苦労していた。
 近頃では暴対法のおかげで「しのぎ」も難しくなり、みかじめ料の新規獲得も大変だった。
 風俗店のケツ持ちも、チャイナ・ウイルスのせいで大分減った。
 それがここ猫山家に来てからは寝たい時に寝て起きたい時に起きる。そして食べたい時に食べて一平と追いかけっこをして運動する毎日。純連ちゃんとママさんは俺を「猫かわいがり」してくれた。

 「ちくわ大好き!」
 「ゴロニャア~(ワシも大好きニャ、純連ニャン)」

 寝るのはいつも純連ちゃんと一平と一緒に寝る。しあわせだった。

 だがそれが何日も続くと、何か言いようのない虚しさが込み上げて来た。

 「ニャオン?(どうしたちくわ、最近元気がないやニャイか?)」
 「ニャオン(俺は以前、切った張ったのヤクザの世界にいたニャ、緊張感の中で生きていたニャ。だが今は安全な猫山家で何不自由のニャい生活を送っている。生き甲斐がないニャ。朝起きてやるべきことがないニャ)」
 「ニャオニャオ(ちくわ、それは贅沢というもんニャで。こういう生活をするために人間はせっせとバカみたいに働くんニャで。そして老後は僅かな蓄えと雀の涙ほどの年金で、寝たい時に寝て、起きたい時に起きて食べたい時に食べる。一日1,000円以下の食費で生活をするニャ。それが極楽というものニャさかい)」
 「ニャオ?(一平、お前社会保障が充実しているスウェーデンとかフィンランド、北欧諸国に意外と自殺者が多いのを知っているかニャ?)」
 「ニャオン?(そうニャのか?)」
 「ニャオニャオ(つまり人は「パンのみにあらず」ニャンにゃろうニャ)」
 「ニャオーン?(ニャルほど、パンだけやのうてたまにはラーメンも食べろと?)」
 「ニャオニャオ(そうニャない、人間は生き甲斐、ようするに人の役に立たないと生きる気力が湧いてこニャイという話ニャ)」
 「ニャオン?(なんニャよう知らんけど、つまりちくわはこの生活が不満ニャんか?)」
 「ニャン(ワシにもようわからんのニャ。この恵まれた生活に不満を感じてる自分に)」

 銀次郎は悩んでいた。このパラダイスのような何不自由のない毎日に。


 
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