【完結】パパはエイリアン(作品250621)

菊池昭仁

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第4話

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 こうしてチョモランマ・テレビのED、じゃなかったADとして働くことになったアダムは、先輩のEDでADの田中さんからさっそく仕事を言いつけられていた。

 「オイ新入り、俺たちが今担当している番組はな、『デブの教えたくないデブ御用達の秘密食堂』だ。
 取り敢えずロケ出来る店を探して来い。
 ただし、条件3つある。第一に店はここからクルマで2時間圏内であることと、料理が安くてデカ盛りであること。第二に店主がアホでやたらと自慢話が大好きなこと。
 そして3つ目が店を手伝う跡継ぎが昔、暴走族だったとか黒ギャルだったが、今は真面目に働いていますとかいうのがいい。族時代の特攻服なんかあればなおグッドだ」
 「料理の予算はいくら位でしょうか?」
 「バカヤロウ! この業界はな? カネは貰っても払わねんのが基本だ! それを交渉するのが新人ADのお前の役目だ! 忘れんな!」
 「ではみんなで食い逃げをしろと? あるいはウチの会社にはバックに暴力団がついていて、副業で「いけない宇宙食」も売ってるとか?
 それともよしもとのチンピラ芸人でも使って嫌がらせをするとかですか? ロリコンの今田耕司を使って?」
 「そんなことをしたらまた他局で格好の餌食えじきにされちまうじゃねえかバカ! 今回の中居の野菜グリグリ事件のようにな!」
 「ではお手本を教えて下さい」
 「よし、まず入口の小汚え店を探す。出来れば駐車場の雑草がボウボウの、草毟りもしていないようなだらしない店が狙い目だ。
 そこで店に入り、大きな声で店を褒める。

 「素敵なお店ですね~? 長いんですかあ? このシブいお店」

 すると店主はこう言う筈だ。

 「俺の爺さんの代からだからなあ、かれこれ30年になるかなあ?」

 と来る。そしてそれにわざとらしく驚いて見せるんだ。

 「ささささ、30年! それは凄い! 老舗中の老舗じゃないですか!」
 「まあなんとか今まで細々とやってるよ」

 すかさずここでテスト・クロージングを掛ける。

 「実はご主人、私ね? チョモランマ・テレビの安達アダムと申します、ね? ふざけた名前でしょ?」

 はいここで笑いを取って自分の名前を相手に印象づけるんだ。
 こうしてますは名前を売る。それからこれは歌舞伎町のナンバーワンホストのリュウジから教わっったんだが、人と話す時にはなるべく最後に「ね?」をつけるとより親近感が増すらしい。

 「奥さん、とてもおキレイですね?」

 という具合だ。すると言葉がよりやさしく受け入れ易くなる。
 そして次にこう切り出せ、

 「ご主人のこの素敵なお店なんですがね? 是非取材させていただけませんかねえ?
 テレビで取り上げられたらこのお店はもっと大繁盛すること間違いなしですよ! 大爆発するかもしれませんね!」
 「おいおい、ガス爆発なんて縁起でもねえ」
 「違いますよ、それだけお客さんでお店に行列が出来るということですよ! 『行列のできる結婚相談所』のようにね?
 表に停まっている軽トラ、ご主人のですか? あの軽トラをロールスロイスのファントムに変えちゃいましょうよお~、ねっ!」
 「まあ、いつもテレビの取材は断わっているんだけどよ、安達さんの頼みじゃ仕方ねえやなああ。
 いいよ、取材しても」
 「あざーす! それでねご主人ね、ちょっとご相談があるんですよ、最近では取材費の予算も少なくてですね?・・・」

 はい、ここでちらりと上目遣いに店主を見てのクロージングだ。

 「予算がねえならしょうがねえなあ、料理の代金はいらねえよ。何人で来るんだ? 三人か?」
 「いえ、10人です」
 「10人? けっこう来るなあ。それで誰が来るんだ? 沢尻エリカか? それとも萬田久子か? 久本雅美はダメだぞ、アイツ、「めちゃ美味い」しか言えねえバカだからな?
 黒柳徹子もいらねええぞ、もうボケてるからな? 入れ歯が外れそうでヒヤヒヤするしよお」
 「やす子です、あのゴミ売りテレビの『24時間、愛をダシに丸儲け』でワープ・マラソンしたあのやす子です」
 「あの自衛隊の迷彩服を着て「ハイ~イ」ばっかり言っているアイツか? 後輩を虐めて上官には媚びるという」
 「ハイ~イ、そうなんですよねえ。そこでもうひとつご相談なんですが、彼女に払うギャラが足りません、いくらでもいいのでご協力いただけませんかねえ? 視聴率の高いお化け番組なんです、ナイナイの、キャラだけで芸のない岡村隆史もやって来ますのでこれはチャンスですよ、ねっ? ご主人」
 「いくらでもってどのくらいだ?」

 と言われたらためらいがちに人差し指を1本だけ立てる。

 「10万かあ? まあ宣伝広告費だと考えれば妥当な金額だな?」
 「おっしゃるとおりです! さすがは大将! 太っ腹! 話がわかる!
 もしかして東大法学部ですか? この矢沢永吉!」
 「バカヤロウ、俺が永ちゃん? それは昔、俺がワルをやってた頃の話だべさ。まあビールでも飲んで、俺のメシ、YAZAWAスペシャルでも喰っていきな。御馳走してやるからよ、ベイビー」

 とこうなるわけよ。さあお前もやってみろ」
 「わかりました。私、EDでADの田中と申しますが、あのですね?・・・」
 「自分の名前でやれ!この野郎! 誰がEDじゃボケ!」
 「あはははは 鬼の先輩、田中さんをコケにするなんてお前、面白え新人だな?」
 「期待しているわよ、アダム君」

 アダムは入社初日から、すぐにみんなと打ち解けることが出来た。


 帰宅するとアダムは絵葉と麻莉亜にチョモランマ・テレビに就職したことを告げた。

 「凄いじゃないのアダム、チョモランマだなんて、よく途中入社なんか出来たわね?」
 「最初は女子アナたちみたいに野菜売場に配属になるかと思いましたが大丈夫でした。
 すみません、だから家のことが出来なくなってしまいました、家政婦のミタゾノさんか? 家政夫のナギサさんを頼んで下さいませんか?
 お料理は伝説の家政婦、タサン志麻さんにお願いしてもいいかもしれません。でもみんな人気者だからなあ。 
 竹下登、元総理の孫、北川景子の旦那、DAIGOでもいいでしょうか?」
 「心配しないで、私と麻莉亜で家事は分担してするから。
 今までもそうして来たんだし。ね? 麻莉亜」
 「大丈夫だよアダム、私たちのことは心配しないで」
 「ありがとうございます」
 「ねえママ、今日は三人で寝ようよ。アダムは真ん中ね?」


 その日の夜、アダムと絵葉、麻莉亜の三人は初めて一緒に川の字になって寝ることになった。

 「ねえ、アダム」
 「なんでしょうか? 麻莉亜さん」
 「アダムのこと、パパって呼んでもいい?」
 「パパ? バーバ・パパのことですか? それともムーミン・パパ? バカボンのパパとか?」
 「そうじゃなくて私のパパになって欲しいの。ダメ?」
 「いいんですか? エイリアンの私が麻莉亜さんのパパでも?」
 「そんなの関係ないわよ」
 「良かったわね? 麻莉亜。若くてイケメンのお父さんが出来て。
 そうかあ、麻莉亜のパパということは私のダーリンになるということでもあるのね? マイ・ダーリン」
 「けけ結婚するんですか? ボクたち!」
 「そうよダーリン、私たちは「Adam & Eve」になるのよ」
 「パパ」
 「あらパパったら娘の前でココをこんなにカチンコチンにして、まるで金属バットじゃないの~。高校球児の熱い夏が来たって感じ?」
 「ママ、赤ちゃんが出来たら私が育児をするから安心してね?」
 「ありがとう麻莉亜、それじゃあ早速今夜、私と?」

 その日からアダムは絵葉の夫となり、麻莉亜の父親となったのである。


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