【完結】★寺子屋『ひまわり』(作品250818)

菊池昭仁

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第13話

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 夕食を終えるとみんなで後片付けをする。そしてその後は90分2セットの学習時間となる。
 勉強のカリキュラムは学校と連動してはいない。其々の子供の個性と進捗具合によってグループ分けがされ、授業が行われるシステムだった。わかるまで、出来るまでやらせた。
 ゆえに小学校三年生でも中学1年の勉強をすることもあれば、中2でも小学校6年生の勉強をすることもあった。
 『寺子屋ひまわり』では文科省の教科書のガイドラインのような無理やり統一した勉強はさせなかった。
 これにより落ちこぼれがなくなり、勉強が好きな子供はより高い学問を目指し、さらに勉学に励むようになっていた。
 いい学校へ入ってしまえばそれで勉強が終了するのではなく、一生勉強が桃香たちの信条だった。
 
 芸術やスポーツについても同じだった。才能はあっても環境や指導者に恵まれない子供は多い。
 学校での体育や図工・美術は意味がない。嫌々やっている部活顧問の放課後のクラブ活動もそうだった。
 運動能力についても国体レベルのコーチや監督が子供たちの指導に当たっていた。
 音楽や絵画、文学等についても個人レッスンをさせたりもしていた。

 文武両道。もちろんそこで重要になるのがメンタル、精神力である。
 入浴洗面の後、就寝前の30分は読書タイム。そして10分間はヨガを実践させた。
 もちろんテレビやゲームは禁止である。
 積極的に社会見学も実施していた。やはり最も効果的な勉強はその道のプロの仕事ぶりを見せるのが一番だからだ。


 22時消灯。その後は『寺子屋ひまわり』のスタッフたちのティータイムになり、問題点の共有やその解決策、今後の方針や連絡などの時間に当てられていた。

 1ヶ月前からスタッフになった五十嵐由紀夫は元進学校の高校物理の教師だった。定年退職を機に『寺子屋ひまわり』の趣旨に賛同し、講師になった男である。

 「最初は半信半疑でした。そんな教育の理想が成立するのかどうかと。
 つまりここでは学校という組織維持のために子供を無理やり合わせるのではなく、子供の無限の可能性を引き出すための教育がなされている。
 英語のEducationとは「教える」ではなく、本来はラテン語の「引き出す」が語源だと言われていますが、まさにそれを証明されていることには驚きでした」
 
 薫子が言った。

 「私も最初はそうでした。でも子供って凄いですよね? スポンジみたいにどんどん新しい知識やスキルを吸収して会得してゆく。
 でも教育者と呼ばれている人たちはそれに目を背ける。「そんなの出来るわけがない」とか「生徒に合わせる教育なんてありえない」「そんな面倒なことをするために公務員になったわけじゃない」と。
 将来性のある子供でも親の身勝手によってその夢が絶たれてしまう。それはあまりにも悲惨です。
 確かに財政的には大変ですが、子供たちもみなさんも頑張っていただいている。
 私たちのやっていることはまだまだ足りませんが、よりもっと多くの子供たちの可能性を引き出してあげたいものです」
 「子供たちは日本の宝ですからね?」
 「そして子供は親や私たち大人の後ろ姿を見て育っていくわけですからね」

 みんなが大きく頷いた。
 桃香から通達があった。

 「実はテレビ取材の申し込みがあり、最初は迷いましたがお受けすることにしました。
 お金のためです。テレビに取り上げられることで支援を期待したいからです。
 いつもはテレビのこと、散々悪く言っているのにね。ごめんなさい」

 桃香とみんなは笑った。

 「いいんじゃないですか? 子供たちのためですもの、テレビでもなんでも利用出来るものは何でも利用しましょうよ」
 「最近はクラウドファンディングも頭打ちだしね?」
 「僕たちも賛成です」
 「取材は来週の木曜日になりますのでみなさんよろしくお願いします」
 「たいへん、美容室を予約しておかないと」
 「イブニングドレスとか着て?」
 「女子アナに負けないような膝上5cmのスカートとか履いてですか?」
 「それもいいかも。あはははは」
 「あはははは」
 「その番組を見た大金持ちからどんどんお金が集まるといいですね?」
 「まああまり期待しないで子供たちの現状を見てもらいましょう」




 木曜日になり、テレビクルーがやって来た。

 「ジャパン・テレビのデレクターをしております村上です。今日はよろしくお願いします」
 「お忙しいところ畏れ入ります」
 「いえこちらこそです。では二見美代子アナとのインタビューからよろしくお願いします」
 「わかりました」
 「よろしくお願いします。本日担当させていただきますインタビュアーの二見です」
 「テレビは慣れていないのでよろしくお願いします」


 インタビューが始まった。

 「早速ですが桜井さんはどうして『寺子屋ひまわり』を始めようと思われたのですか?」
 「それは色々な家庭の事情で犠牲になっているお子さんたちを見たからです」
 「でもそれなら児童相談所がありますよね?」
 「確かに児相の方も一生懸命やっていらっしゃいます。でもその手前で苦しんでいる子供がいるのも事実なんです。
 だから私たちはそんな国の粗いネットからすり抜けてしまった子供たちを救いたいと思ったわけです」
 「つまり子供食堂の拡大版ということですよね? 今、子供食堂については政府も本腰を入れて取り組んでいますからね? こども家庭庁の上原エリカ大臣もかなり支援に前向きですから」
 「今、子供食堂って全国に何件あるのかご存知ですか?」
 「はい、1万件ほどだと伺っております。国としてはそれをさらに増やすことを計画して・・・」
 「それは間違っていると私は思います。子供食堂を増やすのではなく、子供食堂がいらない社会を作るべきなのです。
 日本には欧米人たちのような植民地も資源もありません。あるのは日本人の勤勉さと誠実さなのです。
 そしてそれを支えて来たのが日本独自の教育制度でした。
 魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教えるべきなのです。
 「相手の立場で考える」、それこそが日本人の美徳だったのです。
 それを阻んでいるのが今の日本の貧困問題です。豊かな者はより豊かになり、貧乏な者は貧困から抜け出せない。 
 男女平等? 冗談じゃありませんよ! 母子家庭、父子家庭の生活がままならないから子供食堂が必要なんでしょう? そんなの子供には関係がない話なんですよ!
 給食で飢えを凌いでいる子供にあげるのはご飯だけじゃダメなんです! あの子たちに必要なのはみんなの愛情であり生きる希望、生き甲斐なのです!
 私は作家なので政治のことはよくわかりませんが、本来政治とは弱い立場の人のためにあるのではないのですか?
 お願いします、どうかこの子供たちを救うために資金とお力の援助をお願いします。これからの日本のために」

 プロデューサーの村上がインタビューを止めさせた。

 「はい、ありがとうございました。次に子供たちの生活についての撮影になりますのでよろしくお願いします」


 薫子が桃香に言った。

 「あのインタビューは没にされちゃうんでしょうか?」
 「たぶんね」




 それから2ヶ月後、『寺子屋ひまわり』のドキュメンタリー番組が放送された。
 思いがけないことに桃香のインタビューはそのまま放映されていた。

 「ひまわり先生、いい感じで映っているじゃありませんか?」
 「もう少し派手な服にすれば良かったかしら。あははは」



 そして放送直後から沢山の励ましのメールや手紙、そして資金提供の申し出があった。

 「よかったですね? 桃香先生」
 「世の中まんざらでもないものね?」

 すると一人の老人が『寺子屋ひまわり』を訪ねて来た。

 「桜井さんはおいでかな?」
 「はい、私が桜井ですが」
 「ちょっとお話出来ませんか?」
 「ではどうぞこちらに、どうぞ」

 桃香はその老人を自分の書斎兼事務室に招き入れた。

 するとその老人は背広の内ポケットから茶封筒を取り出して桃香に渡した。

 「これを子供たちのために遣って下さい」

 それは20億円とチェックライターで刻印された小切手だった。


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