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第17話
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レインが死んで半年が過ぎたが、悲しみが癒えることはなかった。
「運、今日はお父さんはお仕事で遅いみたいだから外で食べようか?」
「うん」
「何が食べたい?」
「何でもいいの?」
「いいわよ、でも1,500円以内よ」
「じゃあ『樺林』のチーズ・ハンバーグ定食がいい」
「わかったわ、じゃあ夕方、混まないうちに少し早く行きましょう」
瑠璃子と運は隣町のアーケードに食事に出掛けた。
付け合わせのホクホクのじゃがバターを食べていると、運のフォークが止まった。
「レイン、お芋が大好きだったよね?」
「お母さんが作っている傍でお座りして、じっと待っていたもんね?」
「ボク、もう犬は飼わないよ」
「お母さんもダメだなあ。可愛くて賢い子だったもんね? レイン」
「もうあんな哀しい思いはしたくないよ」
「そうね? でも命あるものはいつかは死んでしまうものよ」
「どうして人は死ぬんだろうね?
お母さんもお父さんも、死んだら嫌だな・・・」
「人は辛い事や悲しい事、そしてたくさんの過ちを死んであの世で償うのよ。そしていつかまたすべての記憶を消されて甦る、別人としてね?
だって運、ゾンビみたいに生き続けるのはイヤでしょう?
私たちは神様のご意志によって死を迎え、そして再生するの。
レインもきっとどこかでまた、しあわせに暮らせると思う。
運、人はね? 良く死ぬために良く生きなければならないのよ、生まれることと死ぬことはセットなの」
運はやさしい子供に育ってくれている。
それはやさしい夫の健介のお陰だ。
偉くなって欲しいとか、お金持ちになって欲しいなんて思わない。
健康でやさしい大人になってくれればそれでいい。それが私と夫の願いだ。
ところがそんな親子を店の奥の席からじっと見ている男がいた。
運の本当の父親、直人である。
(瑠璃子と息子? 随分と会わないうちにより円熟味を増してさらにいい女になったなあ。
でもあの子供、どこか俺に似ている)
直人は心が躍った。
(間違いない! あの男の子は俺の子供だ!)
直人はそう直感した。
それは親子であるが故の運命の悪戯だったのかもしれない。
直人は敢えて瑠璃子たちに話しかけなかった。
食事を終えた瑠璃子と運が店を出て行くのを待って、まだ下膳されていないそのテーブルから直人は運の使っていたストローをこっそりとハンカチで包み、ポケットに入れた。
遺伝子解析をするために。
2週間後、直人と運の親子鑑定の結果が郵送されて来た。
99.4% 直人の子供であることが判定された。
「俺はずっと騙されていたんだ」
瑠璃子が買物に出掛けようと家を出た時だった。背後から声を掛けられた。
「瑠璃子さん」
聞き覚えのあるその声に、瑠璃子は恐怖のあまり振り向くことが出来なかった。
「お久しぶりです瑠璃子さん。ちょっとお話があるんですがよろしいですか?」
「私にはないわ。もしまたこんなことをするようなら警察に被害届を出すわよ」
「構いませんよ、僕は別に。
でもそれで困るのは瑠璃子さんの方ですけどね? うふふ」
「どういうこと?」
「息子さんのことでお話があります。ここでは拙いでしょうからクルマで話しませんか?」
瑠璃子は仕方なく直人のクルマに乗った。
いずれにせよDNA鑑定でもしない限り、運が直人の子供だという事実を証明することは出来ない。
とにかく二度と瑠璃子や家族に近づかないように釘を刺しておく必要があった。
そうしなければこの男は、今度は私の大切な家族に付き纏うかもしれないからだ。
「少しドライブしましょうよ。瑠璃子さんは相変わらず綺麗ですね?」
「もう50のオバサンよ、直人は結婚したそうじゃないの?」
「別れるつもりです」
「どうして?」
「瑠璃子さんと結婚したいからです」
「バカなこと言わないでよ」
「元々俺たち夫婦はデキ婚なんです。
女房とは子供が出来たので仕方なく結婚しました。
僕はずっと瑠璃子さんが好きでした。そして今も」
「止めて頂戴! もう終わったことよ!」
「イケメンですね? 息子さん」
「当たり前でしょう? 私と旦那の子供なんだから」
その時、直人はニヤリと笑った。
「それは嘘です。
あの子は僕の子供ですよね? あの時の」
「何を根拠に言っているの? あの子は私と旦那の子供よ。
言いたいのはそれだけ?
それだけならここで降ろして、バカバカしい」
「証拠ならここにありますよ」
「どんな証拠? いい加減なこと言わないで!」
「見たくないですか? 息子さんが僕の子供だという証拠」
「見せてみなさいよ! そんな物があるなら!
さあ、早く見せなさいよ!」
直人はクルマを路肩に寄せ、ハザードランプを点灯させてクルマを停め、カバンの中から書類を取り出し、瑠璃子に差し出した。
「良かったら差し上げますよ。それ、コピーですから」
直人は自信に満ちた表情で薄笑いを浮かべていた。
それを見た私は心臓が止まりそうになった。
そこには99.4%、親子であるとそのDNA鑑定書には書かれていたからだ。
「どうしてこれを・・・」
「二週間前、息子さんとレストランで食事をしていましたよね? 実は私も偶然あそこで食事をしていたんです。
そしてあなたたちが店を出て行った後、息子さんの飲んでいたコーラのストローで鑑定を依頼したわけです。
DNA鑑定をするために。
だってあまりにも僕にあの子が似ているもんだから。あはははは」
瑠璃子は頭の中が真っ白になった。
すると直人が私のスカートの中に手を入れ、キスを迫って来た。
「何をするの! やめて!」
抵抗する私に直人は言った。
「これ、旦那さんにお届けしましょうか? それともイケメンの息子さんにします?」
直人は再びクルマを走らせ、近くのラブホテルへと入って行った。
そして直人はいきなり瑠璃子をベッドに押し倒すと強引にキスをし、瑠璃子の胸を激しく揉んだ。
「瑠璃子さん、僕はあなたが忘れられないんだ!
あれからずっと、あなたのことだけを想って生きて来た!
だから旦那さんと別れて3人で一緒に暮らそう! 人生を遣り直すために!」
「やめて! やめなさい! 本当に警察に言うわよ!」
「そんなことをしてみろ! お前たちの家族に俺はすべてをぶちまけてやるからな! おとなしくやらせろよ! 昔の淫らなお前のように!」
「こんなオバサンを抱きたいなんて、あんたどうかしているわ!
落ち着きなさい! あなたのしていることは犯罪なのよ!」
直人はそれでも行為を止めようとはしなかった。
瑠璃子は言った。
「どうせ夫はそんなの信じないから!」
「わかりました。では息子さんにこれを見せましょう。「僕が君の本当のお父さんだよ」ってね?」
瑠璃子は直人の頬を思い切り拳で殴った。
「そんなことをしたら、あんたを殺して私も死ぬから!」
「そんなに怒らないで下さいよ。安心して下さい、またたまにこうして会ってくれれば秘密は守りますから。
ね? 瑠璃子ママ? あはははは」
「こんなことしてあなた、楽しい?」
「楽しいですよ、すごくね?
こうして大好きな瑠璃子ママとやれるなら? あはははは あはははは」
瑠璃子は抗うことを止めた。
とにかく今は我慢するしかなかった。
今の幸福な生活を壊されたくはないと。
行為の最中、直人にスマホで動画を撮られた。
「保険ですよ保険。もしヘンな真似をしたらこれをネットに晒しますからね?」
瑠璃子は暗澹たる思いだった。
今ここにナイフや拳銃があれば、躊躇うことなく直人に向けて引き金を引くことが出来るのに。
直人が必死に腰を振っている間、瑠璃子は心のない人形になった。
「運、今日はお父さんはお仕事で遅いみたいだから外で食べようか?」
「うん」
「何が食べたい?」
「何でもいいの?」
「いいわよ、でも1,500円以内よ」
「じゃあ『樺林』のチーズ・ハンバーグ定食がいい」
「わかったわ、じゃあ夕方、混まないうちに少し早く行きましょう」
瑠璃子と運は隣町のアーケードに食事に出掛けた。
付け合わせのホクホクのじゃがバターを食べていると、運のフォークが止まった。
「レイン、お芋が大好きだったよね?」
「お母さんが作っている傍でお座りして、じっと待っていたもんね?」
「ボク、もう犬は飼わないよ」
「お母さんもダメだなあ。可愛くて賢い子だったもんね? レイン」
「もうあんな哀しい思いはしたくないよ」
「そうね? でも命あるものはいつかは死んでしまうものよ」
「どうして人は死ぬんだろうね?
お母さんもお父さんも、死んだら嫌だな・・・」
「人は辛い事や悲しい事、そしてたくさんの過ちを死んであの世で償うのよ。そしていつかまたすべての記憶を消されて甦る、別人としてね?
だって運、ゾンビみたいに生き続けるのはイヤでしょう?
私たちは神様のご意志によって死を迎え、そして再生するの。
レインもきっとどこかでまた、しあわせに暮らせると思う。
運、人はね? 良く死ぬために良く生きなければならないのよ、生まれることと死ぬことはセットなの」
運はやさしい子供に育ってくれている。
それはやさしい夫の健介のお陰だ。
偉くなって欲しいとか、お金持ちになって欲しいなんて思わない。
健康でやさしい大人になってくれればそれでいい。それが私と夫の願いだ。
ところがそんな親子を店の奥の席からじっと見ている男がいた。
運の本当の父親、直人である。
(瑠璃子と息子? 随分と会わないうちにより円熟味を増してさらにいい女になったなあ。
でもあの子供、どこか俺に似ている)
直人は心が躍った。
(間違いない! あの男の子は俺の子供だ!)
直人はそう直感した。
それは親子であるが故の運命の悪戯だったのかもしれない。
直人は敢えて瑠璃子たちに話しかけなかった。
食事を終えた瑠璃子と運が店を出て行くのを待って、まだ下膳されていないそのテーブルから直人は運の使っていたストローをこっそりとハンカチで包み、ポケットに入れた。
遺伝子解析をするために。
2週間後、直人と運の親子鑑定の結果が郵送されて来た。
99.4% 直人の子供であることが判定された。
「俺はずっと騙されていたんだ」
瑠璃子が買物に出掛けようと家を出た時だった。背後から声を掛けられた。
「瑠璃子さん」
聞き覚えのあるその声に、瑠璃子は恐怖のあまり振り向くことが出来なかった。
「お久しぶりです瑠璃子さん。ちょっとお話があるんですがよろしいですか?」
「私にはないわ。もしまたこんなことをするようなら警察に被害届を出すわよ」
「構いませんよ、僕は別に。
でもそれで困るのは瑠璃子さんの方ですけどね? うふふ」
「どういうこと?」
「息子さんのことでお話があります。ここでは拙いでしょうからクルマで話しませんか?」
瑠璃子は仕方なく直人のクルマに乗った。
いずれにせよDNA鑑定でもしない限り、運が直人の子供だという事実を証明することは出来ない。
とにかく二度と瑠璃子や家族に近づかないように釘を刺しておく必要があった。
そうしなければこの男は、今度は私の大切な家族に付き纏うかもしれないからだ。
「少しドライブしましょうよ。瑠璃子さんは相変わらず綺麗ですね?」
「もう50のオバサンよ、直人は結婚したそうじゃないの?」
「別れるつもりです」
「どうして?」
「瑠璃子さんと結婚したいからです」
「バカなこと言わないでよ」
「元々俺たち夫婦はデキ婚なんです。
女房とは子供が出来たので仕方なく結婚しました。
僕はずっと瑠璃子さんが好きでした。そして今も」
「止めて頂戴! もう終わったことよ!」
「イケメンですね? 息子さん」
「当たり前でしょう? 私と旦那の子供なんだから」
その時、直人はニヤリと笑った。
「それは嘘です。
あの子は僕の子供ですよね? あの時の」
「何を根拠に言っているの? あの子は私と旦那の子供よ。
言いたいのはそれだけ?
それだけならここで降ろして、バカバカしい」
「証拠ならここにありますよ」
「どんな証拠? いい加減なこと言わないで!」
「見たくないですか? 息子さんが僕の子供だという証拠」
「見せてみなさいよ! そんな物があるなら!
さあ、早く見せなさいよ!」
直人はクルマを路肩に寄せ、ハザードランプを点灯させてクルマを停め、カバンの中から書類を取り出し、瑠璃子に差し出した。
「良かったら差し上げますよ。それ、コピーですから」
直人は自信に満ちた表情で薄笑いを浮かべていた。
それを見た私は心臓が止まりそうになった。
そこには99.4%、親子であるとそのDNA鑑定書には書かれていたからだ。
「どうしてこれを・・・」
「二週間前、息子さんとレストランで食事をしていましたよね? 実は私も偶然あそこで食事をしていたんです。
そしてあなたたちが店を出て行った後、息子さんの飲んでいたコーラのストローで鑑定を依頼したわけです。
DNA鑑定をするために。
だってあまりにも僕にあの子が似ているもんだから。あはははは」
瑠璃子は頭の中が真っ白になった。
すると直人が私のスカートの中に手を入れ、キスを迫って来た。
「何をするの! やめて!」
抵抗する私に直人は言った。
「これ、旦那さんにお届けしましょうか? それともイケメンの息子さんにします?」
直人は再びクルマを走らせ、近くのラブホテルへと入って行った。
そして直人はいきなり瑠璃子をベッドに押し倒すと強引にキスをし、瑠璃子の胸を激しく揉んだ。
「瑠璃子さん、僕はあなたが忘れられないんだ!
あれからずっと、あなたのことだけを想って生きて来た!
だから旦那さんと別れて3人で一緒に暮らそう! 人生を遣り直すために!」
「やめて! やめなさい! 本当に警察に言うわよ!」
「そんなことをしてみろ! お前たちの家族に俺はすべてをぶちまけてやるからな! おとなしくやらせろよ! 昔の淫らなお前のように!」
「こんなオバサンを抱きたいなんて、あんたどうかしているわ!
落ち着きなさい! あなたのしていることは犯罪なのよ!」
直人はそれでも行為を止めようとはしなかった。
瑠璃子は言った。
「どうせ夫はそんなの信じないから!」
「わかりました。では息子さんにこれを見せましょう。「僕が君の本当のお父さんだよ」ってね?」
瑠璃子は直人の頬を思い切り拳で殴った。
「そんなことをしたら、あんたを殺して私も死ぬから!」
「そんなに怒らないで下さいよ。安心して下さい、またたまにこうして会ってくれれば秘密は守りますから。
ね? 瑠璃子ママ? あはははは」
「こんなことしてあなた、楽しい?」
「楽しいですよ、すごくね?
こうして大好きな瑠璃子ママとやれるなら? あはははは あはははは」
瑠璃子は抗うことを止めた。
とにかく今は我慢するしかなかった。
今の幸福な生活を壊されたくはないと。
行為の最中、直人にスマホで動画を撮られた。
「保険ですよ保険。もしヘンな真似をしたらこれをネットに晒しますからね?」
瑠璃子は暗澹たる思いだった。
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