★【完結】火炎木(作品240107)

菊池昭仁

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第11話

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 「どうすればいいの?」

 野村は蘭子の両耳を両手で塞ぎ、蘭子の口の中に舌を入れて来た。
 外部の音は遮断され、耳の奥で野村に差し込まれた舌の淫らな音が響く。

 男のキスとは明らかに違う野村の緻密なキス。
 蘭子の小さな乳首を、野村は服の上からでもピンポイントにそれを捉えにかかる。

 私の服をやさしく脱がしながら、自分も服を脱ぎ捨ててゆく野村。
 そして野村の背中を見た時、蘭子は軽く声を上げ、口を両手で押えてしまった。

 「私には翼があるのです。自由に羽ばたけるこの翼が」

 野村の背中には翼のタトゥーが彫られていた。

 「いつこれを背中に?」
 「高校生の時です。当時、お付き合いしていた女性から勧められました。
 「園ちゃん、人間はね? 昔、大空を飛んでいたのよ。
 だから私たちもくだらない常識から自由に飛び立ちましょう」と言われ、私も背中に翼を彫りました。 
 お互いの愛の証として」

 野村はスマホで小野リサのボサノバを流し始めた。
 リサの少し掠れた声が甘美に部屋に広がった。
 蘭子は全裸にされた。

 「シャワーを浴びてくるわね?」
 「その必要はありません」

 野村は蘭子の敏感な蕾に触れ、絶妙な指使いでそこを攻めて来る。
 女でしか知りえない急所を確実に。

 「あっ、はっ・・・」

 蘭子の声が漏れた時、野村が言った。

 「なんだか喉が渇きましたね? ビール、飲みませんか?」
 「ええ、そうね」

 アルコールが入った方が、よりリラックス出来ると蘭子は思った。
 野村は冷蔵庫からビールを取り出すと、冷えたグラスにそれを注ぎ始めた。

 「乾杯しましょう」
 「何のために?」
 「蘭子さんの、美に」

 蘭子は一気にグラスを呷った。
 そしてそれからの記憶が蘭子から消えた。
 野村は蘭子のグラスに、予め強力な睡眠薬を入れていたのだ。


 「私だけの蘭子さん・・・」

 野村は眠った蘭子のカラダを屍姦するかのように隅々まで舐め、キスをし、愛撫した。
 そして自分の敏感な部分を開き、果てしない絶頂に何度も昇天した。

 野村はバッグからアラビアのナイフ、ジャンビーヤを取り出し、その切っ先を蘭子の心臓に当てた。
 乳房からスーッと、赤い糸のように血が流れた。

 「なんて綺麗なの。これ以上の美を私は見たことがない・・・」

 野村は両手でジャンビーヤを自分の頭の上に構えると、蘭子の心臓に狙いを定めた。
 そしてそれを振り降ろそうとした時、蘭子の閉じた瞼から涙が零れた。
 野村はナイフを床に捨て、蘭子に頬擦りをして泣いた。

 「この美を・・・、とても私には壊すことは出来ない!」

 野村はそう言って泣き叫んだ。


 やがて蘭子が目を覚ました。

 「ごめんなさい、私、寝ちゃっていたみたい」
 「とても美しい寝顔でしたよ。
 ありがとうございました。ご自宅までお送りいたします」
 「シャワーを浴びましょうか?」
 「はい・・・」


 翌日、野村は大徳寺の事務所を辞めた。
 大徳寺は彼女を引き留めようとはしなかったという。

 
 
 ようやくプランも決まり、確認申請も下りたので地鎮祭を迎えることになった。
 すばらしい秋晴れだった。
 夫の稔が大徳寺に言った。

 「先生、ありがとうございます。
 いよいよ始まりますね? 先生の作品制作が」
 「もちろん私の大切な作品ですが、これは葛城さんの家です。
 私はその作曲をしたまでです」

 この時大徳寺は、「葛城さんの家」と言った。
 「葛城さんご夫妻の家」とは言わずに。

 「楽しみですよ、この家の完成が。
 蘭子、君の理想の家が出来上がるんだね? ご苦労様」

 蘭子はそれには応えず、

 「あなた、みなさんを由梨子のお店に。由梨子がご馳走を準備して待っているから」
 「ああそうだね? それじゃあみなさん、ご移動をお願いします。ちょっとした祝宴の席をご用意させていただきましたので。神主様もぜひどうぞ」

 この家が完成した時、その時が稔と蘭子の別れの日だった。

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