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第7話

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 寺田は桃子の実家で朝を迎え、パンイチで着替えをしていた。

 「寺田、起きてる?」
 「はい、起きています」
 「開けるわよ」

 桃子が客間を開けると小さく悲鳴をあげた。

 「キャッ、ちょっと早くズボンを履きなさいよ!」
 「あっ、失礼しました」
 
 寺田はあわててズボンを履いた。
 
 (桃子先輩のエプロン姿っていいなあ。デレーッ)

 「朝食の支度が出来ているから、着替えたらダイニングにおいで」
 「ありがとうございます、何かお手伝いすることはありませんか?」
 「大丈夫、いいから早くおいで」

 そこへ優作が寺田に突進して来た。
 寺田は優作に布団に押し倒され、もみくちゃにされた。

 「あはははは あはははは 優作、おはよう! あはははは やめてくれよ、起きられないよお」
 「バウバウ(おはよう寺田! 朝ご飯だぞ! ぺろぺろ)」
 「優作、おいで」
 「バウ!(はーい!)」

 桃子と優作はダイニングへと戻って行った。

 

 ダイニングに行くと桃子のご両親が朝食を食べずに寺田が来るのを待っていたようで、食事をしていなかった。

 「おはようございます」
 「おはよう寺田君、朝食を作るのは桃子が当番なのよ。さあ食べましょう」
 
 みんなが手を合わせ、いただきますをした。
 赤魚の粕漬けと甘い卵焼き。キュウリとカブ、人参の糠漬け、きんぴらゴボウ、そしてネギと豆腐、ワカメの味噌汁だった。

 「美味いです! 凄く美味しい!」
 「そう? 良かった。簡単な朝食だけどね? 寺田はいつもは何を食べてるの? パン? それともご飯?」
 「『ウマいよ棒』と珈琲です」
 「何それ? ダメよ朝はしっかり食べないと」
 「寺田君、彼女さんはいないのかね?」
 「い、いませんよそんな人」

 寺田は桃子を見て言った。

 「そうかあ。中々のイケメンなのになあ。でも良かったじゃないか桃。寺田君にウチの婿になってもらったらどうだ?」
 「やめてよパパ、だから私は年下に興味はないんだってば」
 「そうか? まあいい寺田君、また酒でも一緒に飲もうじゃないか? 桃がいなくても遊びに来なさい」
 「はい、ありがとうございます院長先生。(何だよ、年下はキライだなんて酷いよ桃子先輩)」
 

 朝食をご馳走になり、寺田は桃子をクルマで乗せて会社へ向かった。
 赤信号で停まっている時、寺田は桃子に何気なく訊いた。

 「桃子先輩、前から訊こうと思っていたんですが、どうして犬の名前に「優作」って付けたんですか?
 優作って人の名前みたいですよね?」
 「・・・恋人だった彼の名前よ」
 「恋人だった? 別れたんですか? その人と」
 「死んだの・・・、優作は」
 「死んだ?」
 「そう、冬山でね」
 「ごめんなさい、思い出させてしまいましたね?」
 「ううん、いいのよ、優作のことは一度も忘れたことはないから。そしてそれはこれからも同じ」

 (死んだ恋人の名前をピレネー犬に・・・)

 「寺田、青」
 「あっ、すみません」
 「ボーッとしてんじゃないわよ、しっかりしなさい」

 寺田はアクセルを静かに踏んだ。

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