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第二十五話

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最近、セレスティナとの時間を優先している為か、フィオナと過ごす時間をすっかり取れていない事を思い出し、ジェイクはしまった。と馬車の中で頭を抱えた。

「すっかり後回しにしてしまっていたな……以前はあれ程フィオナ嬢と会うのを楽しみにしていたのに」

ジェイクは馬車の椅子に座ったまま足を組み直すと、この先のスケジュールを頭の中に思い浮かべる。
学園内ではこれからも変わらずセレスティナと共に過ごす時間を大事にしたい。
学園が休みの日、週末も仲の良さを周知させる為に家族は勿論、学園の生徒達が居そうな場所にセレスティナを誘い出掛けようと思っていたのだ。
そこで学園の生徒達に目撃されれば、自分達の関係が磐石なものとなるだろう、とジェイクは考えていた。

「週末も、フィオナ嬢に会う時間が取れそうにないな……」

あれ程、フィオナと時間を共にする為に色々と画策して動いていたのに蓋を開けてみれば考えていた事と真逆な事になってしまっている。
だが、ジェイクはそれが不思議と嫌ではない事に戸惑った。
最近ではセレスティナの笑った顔を思い出す事が増えて、街に出ると「セレスティナに似合いそうだ」とついつい宝石店を覗いてしまう。
セレスティナと話す時間が楽しくて、ついつい時間を忘れて一緒にいてしまう。

特殊な始まりだったからか、セレスティナからは他の令嬢達からのような熱の籠った視線を向けられない事にジェイクはとても安心感を得ていた。
自分を"男"として認識していないようなセレスティナの態度に、隣で共に過ごして落ち着ける女性が居るとは思わなかった。
セレスティナと過ごす時間がとても穏やかで、安心感の得られる時間になったのだ。
それなのに、最近はセレスティナの笑顔を見るだけで自分の胸がざわついてしまう。

先日、休日の日に自分以外の男に見せていた笑顔にとても苦しい思いをしたと同時に酷く嫉妬した。嫉妬、してしまったのだ。
あのセレスティナからの視線は俺だけが得ていたのに、と醜い感情が込み上げて来てそんな感情を抱いてしまった自分にとてつもなく混乱した。

「俺は、なんと言う間違いを──」

本当にどうしたらいいんだ、と頭を抱えたままジェイクは低く呻いた。
今更、気付いてしまった。
先日、セレスティナと一緒にいた男に何故嫉妬したのか。
何故フィオナとの時間よりセレスティナとの時間を優先してしまったのか。
セレスティナと共にいる時間がもっと欲しくて、馬車での送り迎えも邸宅前まで行くようになったのは何故。
セレスティナと触れ合いたくて学園での移動の際は常に指を絡ませ手を繋いでいたのは何故。

「そんなの、全部セレスティナが好きだからに決まっているじゃないか──」

今更、セレスティナに何て伝えればいい。
フィオナにどう説明して詫びればいい。

ジェイクは途方に暮れたように馬車の中で上方を仰いで目を閉じた。










翌日。
セレスティナと学園に登校して、それぞれ自分の机に腰を下ろした後。

ジェイクは自分の鞄の中身を机に入れようと手を入れて、かさり、と紙が自分の手のひらに当たる感覚にふと視線を下ろした。

「何だ……?」

四つ折りにされた真っ白い紙を何の疑問も抱かず取り出すと、自分の手のひらの中でそれを広げた。

「あぁ──……」

手紙には時間と場所が記されており、最後に小さくフィオナの名前が記されている。
以前まではフィオナからの呼び出しに喜びを感じていたが、自分の気持ちに気付いてしまった今、フィオナと会うのが億劫になって来る。
だが、フィオナとは話をしなければいけない。
好きだ、と告白されて友人の延長線上から始まった交際ではあるが確かに一時でも自分はフィオナに想いを寄せていた事は事実だ。
誠実に、正直にフィオナに話して謝罪しよう。

ジェイクは、席に着いているセレスティナに視線を向けると放課後、フィオナと話がある事を正直に伝えようと考えた。





昼食の時間になって、ジェイクとセレスティナは今日も庭園で二人寄り添いながら食事を楽しんでいた。
食事の時間が終わり、食後の紅茶を楽しんでいるとふいにジェイクがセレスティナの耳元に顔を近付けて来る。
びくり、と肩を跳ねさせるセレスティナにジェイクは朝にフィオナから机の中に入れられていた呼び出しの件を伝える。

「セレスティナ。今日の放課後、フィオナ嬢から呼び出しがあった。──私も、彼女には話があったので応じて来るが、帰りは共に帰ろう。昨日のように教室で待っていてくれるか?」
「──レーバリー嬢から……、分かりました。お待ちしてますね。私もジェイク様にお話したい事があるので帰りの馬車の中でお時間を下さいませ」
「話?それは今、この場では駄目な事?」
「ええ……、出来れば周囲に学生がいない場所が好ましいです」

こくり、と頷くセレスティナにジェイクは分かった。と言葉を返すと、そのまま自然とセレスティナの頬を自分の指先で撫でてから離れた。

「──ジェイク様、撫でるのはやり過ぎかと」
「そうか?愛する婚約者相手だったら俺はこうする」

撫でられた箇所を抑えて頬を染めるセレスティナに、ジェイクは愛おしそうに瞳を細めると笑った。





ジェイクはまさか、フィオナとの話の後にセレスティナから婚約解消の日時について相談されるとは思っておらず、上機嫌で昼食の時間を終えた。
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