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第二十九話
しおりを挟む「それ、は──……今決めないといけない事か?」
「え?あ、いいえ。またお話する機会を設けて頂ければ大丈夫なのですが……」
セレスティナは低く呻くようなジェイクの言葉に戸惑いながらそう伝える。
やはり、フィオナと何かあったのだろうか。
ジェイクの様子がいつもと違いすぎてセレスティナはジェイクを勇気付けようと努めて明るく声を出す。
「そっ、そう言えばレーバリー嬢との逢瀬は楽しめましたか?待ち合わせして会った、と言っても少しの時間ですものね……早くジェイク様が堂々とレーバリー嬢とお会い出来るようになるといいですね」
にこにこと笑顔でそう伝えてくるセレスティナに、ジェイクは泣きそうに表情を歪めるとそっとセレスティナから視線を逸らした。
「──そんなに、早く俺と離れたいのか……」
「……?ジェイク様、今何か仰いましたか?」
セレスティナから顔を背け、ぽつりと小さく呟いた言葉はセレスティナには届いておらず、聴き逃してしまった。と焦るセレスティナにジェイクは微笑みかけると、「何でもない」と呟いて馬車の窓から見える外の景色に視線を向けてしまった。
それから、ずっとジェイクは何か沈んだ雰囲気でセレスティナも無理に話し掛ける事が出来ずに珍しく馬車内の空気が重いまま、伯爵邸に着くまで過ごした。
馬車が伯爵邸に止まり、セレスティナが腰を上げるといつものようにジェイクが先に降りて手を差し伸べてくれる。
セレスティナも普段通りにジェイクにお礼を伝えると、少し気まずい空気のまま伯爵邸の玄関まで送られる。
「──セレスティナ。週末、先程馬車の中で話していた事を改めて話し合おうか。週末の予定は?」
「あ、特に何も入っておりませんので大丈夫です」
「分かった。そうしたら休日の一日目、昼頃迎えに来るよ。昼食を取りながら落ち着ける場所で話そう」
「分かりました、宜しくお願いしますね、ジェイク様」
「ああ……では失礼するよ。また明日」
ジェイクはいつもならセレスティナの指先に口付けを落とすのだが、何故か今日はセレスティナの髪の毛をひと房掬い取ると、その髪の毛に唇を落とした。
ジェイクのその行動にセレスティナはどきり、と自分の心臓が大きく鼓動を打つのを感じた。
突然のジェイクからのその行為は親愛や敬愛を意味する行為だ。
ジェイクがその行為をする意味がわからなくてセレスティナは戸惑い混じりにジェイクを見つめた。
ジェイクが視線を上げると、二人の視線がぱちり、と合う。
ジェイクは眉を下げて何処か悲しそうにセレスティナに微笑むと、そっとセレスティナの髪の毛を自分の手から離して踵を返し、馬車へと戻って行く。
その後ろ姿を見つめながら、セレスティナは恐らく自分の頬が真っ赤になっているであろう事を理解し、その頬を隠すように両手で覆った。
「え、?どう言う事?」
最後に視線が合った時、微かにジェイクの瞳には熱が見て取れた。
それは、見間違いでなければ今までフィオナに向けていたような熱と同種のようで、セレスティナは何故そのような熱が一瞬でもジェイクの瞳に現れているのか、と考え大いに困惑した。
セレスティナは混乱する思考そのままに、去っていくジェイクの背中を困惑顔で見つめた。
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