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最終話

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何て事をしてしまったのだろうか。

動き出した馬車に揺られながら、セレスティナは先程からジェイクの隣で真っ赤になってしまっている自分の顔を両手で覆って俯いていた。

先程から隣のジェイクが何度もセレスティナの名前を呼んでいるが、その声に答えられる状況じゃない。

「あんな、あんなに人の目がある場所で……っ」

羞恥で思わず自分の声が震えてしまう。
いくらジェイクと会えた事が嬉しくても、周りが見えなくなって人前で口付け合ってしまった事にセレスティナは穴があったら入りたい衝動に駆られる。

「何だ、人の目が無ければいいのか?」
「──え?」

ジェイクの声が自分の耳元から聞こえたと思った瞬間、ぐいっとセレスティナの腕をジェイクが引っ張るとジェイクの方へと振り向かせられて抱き込まれ、噛み付くように唇を塞がれる。

「──っ!?」

セレスティナは、自分の瞳を驚きに見開くとジェイクに掴まれていないもう片方の腕でジェイクの後頭部の髪の毛を掴むと思い切り引っ張った。

「いっ、いててててて!セレスティナ……っ、分かった、分かったから!もう急にしないから……っ!」
「ジェイク様っ」

セレスティナは真っ赤になった顔でジェイクを睨み付けるが、ジェイク本人は嬉しそうに表情を緩ませていて怒っている事が通じていない。

「セレスティナだってキスは二年後だ、って言ったじゃないか……人目につかない場所だったらいいんだろう?」

自分の後頭部を撫でるようにジェイクは微笑みながらセレスティナに視線を向けると、セレスティナはジェイクからつん、と視線を逸らして唇を開く。

「だ、だからってこんな、急に……っ!」
「じゃあ、次からはこれからキスする、ってセレスティナに事前に言ってからがいい?」
「そ、そんなの聞かないで下さい!」
「ははっ、じゃあやっぱり慣れて貰わないと」

ジェイクは瞳を細めて幸せそうに笑うとそのままもう一度セレスティナに一瞬だけ口付ける。
セレスティナが何か言う前に、馬車が目的の場所に到着したのだろう。
ガタン、と音を立てて止まり、御者から到着を告げられる。

「──?あれ、邸じゃないのか」

ジェイクがひょい、と馬車の窓から顔を覗かせて外の景色を確認すると不思議そうに唇を開く。
セレスティナは溜息を吐き出すと、用意していたバスケットとストール、敷布を手にすると馬車から降りる準備をする。

「ええ。今日は、ジェイク様と……その、デート、がしたくて……」
「──っデート!」

セレスティナが恥ずかしそうにそう呟くと、ぱあっと瞳を輝かせたジェイクが嬉しそうに破顔する。
二年前、いつも繰り返していたようにジェイクが先に馬車から降り立つと、セレスティナに向かって自分の両腕を差し出す。

「え……?」

今までだったらジェイクが自分の手のひらを差し出してセレスティナが降りるのを手伝ってくれていたが、何故か今セレスティナの目の前に居るジェイクはにこにこと笑顔を浮かべながら自分の両腕を広げている。
これではまるでジェイクの胸に飛び込んでこい、と言うようなポーズで、セレスティナは困惑して馬車のステップに片足を掛けたままぴたりと止まってしまう。

「セレスティナ、ほら。早く」
「えぇ……」

急かすようにジェイクが自分の腕をぶんぶんと上下に振り、待っている。
セレスティナは周囲に視線を巡らせると、誰も人がいない事を確認してからジェイクから視線を逸らして唇を開く。

「お、重くって転んでしまってもしりませんから」
「はは、セレスティナは羽のように軽いから問題ない」

セレスティナは「もう」と呟くと、意を決してジェイクに向かってぴょん、と飛び込んだ。

「──ほら、軽い」
「わっ、わ……っ高いですっ」

ジェイクに向かって飛び込んできたセレスティナを、危なげなく受け止めてそのままぎゅうっと抱き締めると、いつもより視界が高くなったセレスティナが思わずジェイクに縋り付く。


騎士団で過ごした二年間は、ジェイクを鍛え学園で過ごしていた時よりも筋肉が付き、がっしりとした体格になっている。
二年前よりも身長も伸び、青年と言うイメージだったジェイクが突然「大人の男性」に見えてしまってセレスティナは自分の鼓動が早くなって行くのを感じる。

「──っ、はは。セレスティナの心臓、凄く早くなってるのが俺にも伝わってくる」
「高くて、怖いんですっ早く下ろして下さい……っ」

セレスティナがジェイクの肩をぺしぺしと叩くと、ごめんごめんと笑いながらジェイクがセレスティナを地面へと下ろす。
そのままジェイクに手を取られ、バスケットやストール、敷布を馬車の御者からジェイクが受け取ると湖畔へと歩いて行く。



土と、芝が綺麗に整えられた湖畔には今は誰の姿
も無く二人は舗装された道をのんびりと歩きながら湖畔の淵へと辿り着くと、そこに敷布を敷いて並んで腰を下ろした。

春先になればボートの貸出なども行われる為、人が多いが、今は秋口。
寒い日がある時期の為、気温が上がってくる前の午前中からこの場所に来る人は少ないのだろう。

ジェイクは、ストールを広げると自分で羽織りセレスティナを抱き込んだ。

「──暖かい、ですね」
「ああ。俺は体温も高いから、セレスティナも暖かいだろう?」

二人はお互い視線を合わせるとくすくすと笑い合う。

離れていた二年間、顔を合わせたら色々と話したい事は沢山あったのだが、何故だか今は二人で寄り添っているだけで幸せで、満ち足りた気持ちになれる。

セレスティナは、自分の頭をジェイクの肩にコツン、と預けるとジェイクは一瞬驚いたが、嬉しそうに笑うとそっと自分の頭を傾けてセレスティナに口付ける。


二人はぽつりぽつりと会話を零しながら、思い出したように時々口付けを交わして、ゆったりとした時間を過ごした。

誰も人がいない湖畔で、二人は互いの体温でぽかぽかと心まで暖かくなりながら、幸せそうに笑いあった。




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