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「──キアト様?どうなさいました……?」
「ああ!ルーシェ、良かった。目覚めた時に君がいなかったから……邸に戻ってしまったのかと思って……」
ルーシェの姿を見つけたキアトは、安心したようにほっと胸を撫で下ろすと表情を綻ばせる。
そして、ルーシェが出てきた部屋を確認すると、一瞬悲しそうに眉を下げてから「赤子の所に居たのか」とぽつりと呟く。
「ええ、そうなんです……。ジェームズさんに案内して頂いて、乳母のクレアさんと一緒に赤ちゃんと遊んでいました」
「そうか、ありがとう。ここ最近慌ただしく、この家の皆はあまり赤子に構ってやれなかったから」
「それよりも……キアト様お早くお部屋に入って下さい。そのような薄着ですと、体調が悪化してしまいます」
ルーシェは焦ったようにキアトにそう告げるとキアトの腕を引っ張って二人で室内に入室する。
二人が入室してくるなり、キアトの格好にギョッと目を見開いたジェームズが急いで上に羽織れる物を用意し、ナタリーが暖かいお茶を用意し始める。
キアトはジェームズとナタリーにお礼を告げてルーシェと共に赤子の元へと向かう。
赤子は、先程までルーシェやナタリーに遊んで貰い満足したのか、満足そうな表情でプスプスと鼻を鳴らしながら眠っているようだ。
キアトはそっと赤子の緩く開いた手のひらに自分の手を伸ばすと、赤子がキアトの指をきゅっと握る。
その行動に、キアトはムズ痒いような何とも言えない表情を浮かべると、隣に居るルーシェをそっと自分に抱き寄せた。
「──この子には親が必要だ……母親を亡くしてしまったこの子には、父親である兄上が絶対に必要で……だから俺は絶対に兄上を見つけて連れ帰らなければ……」
「ええ、そうですね……。けれど、お兄様を無事連れ帰るにはキアト様の体調が万全でないと……お兄様に心配を掛けてはいけませんもの」
ルーシェの優しい声音に、キアトも優しく微笑み返す。
「ああ、大丈夫だ……。しっかり休む必要があるのは理解している……。今日、明日はしっかりと休む事にする」
キアトは安心させるようにルーシェに向かって微笑み、そう口にすると自分の指をきゅっ、きゅっ、と握る赤子に視線を戻してそっと頭を撫でた。
翌朝。
ルーシェの父親が手配した捜索隊が、キアトの指示に従い、ルールエの町付近を捜索していた所数日前に大怪我をした男性を町で保護したらしい、と言う話を得た。
その報告は直ぐにキアトのフェルマン伯爵邸に届けられ、キアトは自室で休んでいたが「確かめに行く」と急ぎ動き出した。
伯爵家の当主が見つかったかもしれないのだ。
その報せに、ルーシェもジェームズもキアトを止める事はしない。
キアトの兄であるキラージが本当にその町で保護されているのであれば、キアト自身が確認しに行く必要があるし、キアト自身自分が兄を連れ帰りたい、と考えている。
キアトが捜索隊へ合流する為に支度を始めると、ルーシェもその手伝いをする。
上着を羽織る手伝いをしていると、キアトが徐に唇を開いた。
「──ハビリオン伯爵家の捜索隊から入った報せには、大怪我を負っている男は俺と同じ白銀の髪色をしているらしい。……兄上達と共に出た者達の中に、白銀の髪色をしているのは兄上だけだ……ほぼ兄上だと思って間違いないと思う」
「……!そうなのですね……!お兄様である可能性が高いのは、喜ばしい事です!」
「ああ……。一時はどうなる事かと思ったが……」
キアトはそこで口を噤むと、ルーシェに向き直る。
「ルーシェ、兄上と思われる男性が見付かったルールエの町は遠い。直ぐにこの邸に戻って来る事は出来ないから、君はハビリオン伯爵邸に一度戻った方がいい」
「──いえ……。お兄様がお戻りになったら、人手も必要になります。少しでもお手伝い出来るように……ご迷惑で無ければキアト様とお兄様がお戻りになるまでお待ちしてます」
キアトの言葉に、ルーシェはキッパリと告げると、真っ直ぐキアトの瞳を正面から見詰めた。
ルーシェが残ってくれるのであれば、助かるのは本当だ。
恐らく、人手が必要にはなってくる。
元々伯爵家にいる使用人達にキラージの世話を頼む事になると元々必要最低限の人員で回していた邸の仕事に支障が出てくる。
なので、ルーシェの申し出はありがたいのだが。
「ルーシェがそう言ってくれるのは、ありがたい……だが……大怪我を負っているんだ……病などの看病とは違い、見たく無いものを見る可能性もある……」
「充分承知してます……お兄様は大怪我を負っているのですもの。ですが、お兄様の事を家族だと思っております。家族の無事を祈り、そしてこの目で確認し、フェルマン家のお手伝いをさせて頂きたいのです」
「……分かった。だが、無理だけはしないでくれ」
「ふふっ、それは私の台詞ですよキアト様。お兄様をお迎えに行くのに急いでお怪我等しないで下さいね」
心配そうにそう言葉を返してくれるルーシェに、キアトは苦笑しながら「ああ」と頷く。
「──では、兄上を迎えに行ってくる。帰りは馬車で戻る為、帰宅は明後日になるかと思う……。ルーシェも、体調には気を付けてくれ」
「はい、キアト様ありがとうございます。……お気を付けて行ってらっしゃいませ」
ルーシェの言葉を聞くと、キアトは再度頷いてからフェルマン邸を後にした。
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