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約束事
しおりを挟む成人の舞踏会まであと2週間、という時期に成人前の子息や令嬢が最後に参加する夜会がある。
子供でいられるのはもう最後、今後は社会から立派な大人として判断される。
だから、その夜会では最後に羽目を外して遊びたい、というやや不穏な輩も多く参加している。
そんな場所にミュラーを参加させるのは些か不安だが、ミュラーを愛して病まない父親も、従兄弟も連れ立って参加している。
通常、婚約者がいる子息や令嬢ならばその婚約者にエスコートをされながら夜会に参加するのだが、ミュラーには婚約者がいない。
その為、いつも両脇にはしっかりと彼女の父親である伯爵と、従兄弟が周りを威嚇するように控えていた。
身内に成人を迎える者がおらず、レオンがその夜会に参加する事は叶わない為、自分でミュラーを護れない事にレオンは歯噛みする。
「アウディがあと1年遅く生まれて来てくれてたら…どうしてお前は18歳なんだ」
「─うわ…やめてくださいよ、生まれる時期なんて僕にはどうする事も出来ないじゃないですか」
そんな詮無きことをじろっと睨まれながら言われて、アウディは心の中であーもうやだ!と悲鳴を上げる。
そこまで気になるなら参加しちゃえばいいのに。周りからはほぼ兄であるレオンがミュラーの婚約者だと認識されているような物だし、参加してても不思議ではない。
まあ、正式な婚約者では無いことから夜会のルールとしてはアウトだが。
「成人前の女性と、少女の間の危うい色香を纏ったミュラーが夜会に参加して、父親である伯爵とはぐれた隙に暗がりに引き込まれてしまったらどうする…、あの柔らかそうな唇を、女性的な蠱惑な身体を暴かれてしまったら俺は…」
うああ、とレオンは頭を抱えて蹲る。
俺だってまだ口付けた事がないのに!他の男に唇を奪われたらその男を殺してやる!
と想像上のミュラーの唇を奪った男に憤慨し、今にも殺しに行きそうな雰囲気の自分の兄に、アウディはいつもの事ながらここまで拗れた兄の愛情を一心に受けるミュラーの今後の身を案じる。
「そうやって、兄上がミュラーを昔からおかしな目で見てるから伯爵に危険視されて婚約を許されなかったんですよ」
「だが仕方ないだろう!いつでも俺はあの柔らかそうな唇に食らいつきたいし、肌を暴いて心ゆくまで全身舐めしゃぶりたいし、俺の物であの美しい顔を白濁に染め上げたい…!!」
レオンはこの数年間、拗れに拗れきった重い愛情を持て余していた。
それもこれも、ミュラーの父親である伯爵に過度な接触を禁じられたせいだし、ミュラーの気持ちに成人する時まで答える事を禁じられたせいだ。
昔、ミュラーから初めての告白をされてから数年、可愛らしい少女に何故か自分は欲情してしまった。
相手はまだ幼い女の子だ。その可愛い女の子に告白される日々を過ごしていたレオンは、ある日ふと考えてしまった。
あの最初の告白から、アルファスト侯爵家へと頻繁に訪れるようになったミュラー。
元々ハドソン伯爵家とは交流のあった家同士だったが、ミュラーの告白事件から訪れる回数は格段に増えた。
レオンを見つけると、嬉しそうに笑顔で走りよって来て、いつも通り「大好き」と告白される。
大きな瞳で上目遣いで、ふっくらとした桜色の柔らかい唇を見て、いつもだったらすぐ「ありがとう」と返事をする所だったのだが、その日は何故かそのミュラーの姿を見下ろしながら「その唇に自分の性器をぶち込みたい」と思ってしまったのである。
ミュラー10歳、レオン17歳のある夏の日であった。
その一瞬、レオンの瞳に現れた性的で、邪な気配を瞬時に感じ取った伯爵は朗らかに笑っていた表情から一変、さっと表情を無くしじっとレオンの反応を伺っていた。
等の本人、レオンは自分がそのような感情を幼い少女へ抱いた事に当時は大層ショックを受けたのを覚えている。
自分は性に対して淡白なのだと思っていた。
朝などの生理現象で「そうなる」事はあったが、どんなに魅力的な女性を見ても、肉感的な女性を見ても男として反応した事がなかった。
同じ年頃の男性同士で話していると、そういった話題になる事が多いのだが、レオンはそこまで興味を惹かれる事も無かったし、きっと自分はそこまで性欲が強い方ではないんだな、とどこか他人事のように考えていた。
いつか迎える結婚や跡継ぎが必要な際に必要最低限そういった行為をすればいいか、とどこか他人事のように考えていた。
そう考えていたのに、
自分は今、幼い少女になんて事を考えた…!?
と狼狽え、自分の顔を掌で覆う。
こんな無垢な少女に不埒な考えを起こすなんて、自分は少女趣味でもあるのか、と戦慄した。
だが、それは杞憂で終わる。
レオンがそういった感情になるのはミュラーただ1人だけで、それ以外の同じ位の少女達を見ても何も感情は動かない。
ミュラーにだけ、この少女にだけ自分は欲情している。
その何とも言えない気持ちを持て余しながら、ミュラーとのそのいつものやり取りを繰り返していたある日。
変わらずミュラーにムラっとした後、徐に近づいて来た彼女の父親に別室に呼ばれた。
そこで、ミュラーへの邪な感情を見抜かれた。
レオンの気持ちが本気なのであれば、ミュラーを嫁がせる事に異論は無い事を告げられ、喜んだのもつかの間。伯爵から約束して欲しい事があると言われた。
伯爵からの「約束」は3つ。
・ミュラーからの告白に彼女が成人を迎えるまで答えてはいけない
・過度な接触はご法度
・婚約はさせない
伯爵はきっと、レオンのミュラーへ向ける異質な愛情、執着を見抜いていたのだろう。
幼い少女に欲情する男だ。婚約を許せば、娘が成人するまでに純潔を散らしてしまうと危惧したのかもしれない。
確かに、レオンはもし婚約を許されたら自分が我慢出来たかわからない。そして、一度その体を知ってしまえば欲望に抗えず、何度も求めてしまっていただろう。
そうしてしまえば、彼女を身篭らせてしまっていたかもしれない。
婚約段階での妊娠等醜聞でしかないのだ。
貴族社会でつま弾かれ、将来彼女に悲しい思いをさせてしまう。そうなってしまうのは本末転倒だ。
レオンだってミュラーを大事にしたい事は本当だ。
あと7年、ミュラーが成人するまでのあと7年位耐えてみせる。
例え口付ける事が出来なくても、想いを返す事が出来なくても耐えてみせる、耐えた先にあるミュラーとの幸せな時間を思い、レオンは伯爵へと了承した。
結婚後の幸せの為に、レオンは7年の地獄のような時間を耐え切る事を選んだのであった。
そして、その日にレオンははっきりとミュラーの事を可愛い女の子から愛しい女の子だと自覚した。
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