【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船

文字の大きさ
22 / 42

一緒なら心がやわらぐ

しおりを挟む

翌日、ミュラーの元へとレオンから一輪の花が贈られてくるようになった。

ぽわぽわとした細い花弁が丸いその輪郭を縁どり、ピンクの色合いがとても可愛らしい。
可愛らしいリボンでラッピングされたその花の名前はスイートサルタン。

リボンはレオンの瞳の色と同じ翡翠色。

その花を贈られたミュラーは朝から頬を染めてベッドに逆戻りして、枕に突っ伏して呻く。


(私の存在が、レオン様を笑顔にさせてるって言うの?)


昨日の恐ろしく感じた感情が嘘のように今では自分の感情がレオンへの気持ちでほわほわとしている。
まるで、タイミングを測ったかのように贈られてきたその花にミュラーはレオン様、近くで見ていないわよね?と自室の窓からそっと外を覗いた。

いるわけがないのに、いて欲しいとも思ってしまう。
その揺れ動く感情にミュラーはどうしていいか分からなくなってしまった。











昨日の、フレッチャー伯爵家の嫡男ニックの突然の訪問に関しては帰宅した父親にすぐさま報告した。
事の次第をミュラーと、家令のトマーから聞いた父親は眉間に皺を寄せると相手の伯爵家に向けて抗議する、と言ってくれた。
フレッチャー伯爵家に関しては父親に任せて大丈夫だろう、とミュラーは判断してこの事は早く忘れようと気持ちを切り替えた。

そう、忘れたかったのに。
今日もそのニックは我が家に突然訪問してきた。

昨日の内に父親が手配していたのだろうハドソン家独自に騎士団を手配し、邸前の城門前に騎士を配置していたようだ。
その騎士達にすげなく追い返されてニックはまたも何か喚いていたようだが、屈強な騎士達に叶うはずもなく短時間で追い返されていた。

その報告を聞いたミュラーは、ほっと息を付く。
今後街へ行く際は必ず護衛を2人程連れていくように、と父親に言われた時は大袈裟だわ、と思ったが昨日のニックの態度と、今日も変わらず突然訪問してきた状態を見てしまうと護衛を連れて歩く必要がある、と考え直した。
もし、自分が1人の時に出くわしてしまったら?
誰も止めてくれる人がいない状態でニックと相対してしまった時の事を考えるとぞっとした。

何をしでかすかわからない。

彼のその尋常ではない態度にそう思ってしまうのも仕方がない事だ。








あれから数日、父親が抗議した内容の手紙が無事先方のフレッチャー伯爵家に届いたのだろう。
あの日から一度もニックはハドソン家へと訪問して来なくなった。
ニック以外の家族は、きちんと常識を持ち合わせているようで安心した。

そして、レオンからもあれから毎朝一輪の花が贈られ続けている。

スイートサルタンに、イベリス、ペチュニア、と贈られてくる花々にミュラーはその度に頬を赤く染めた。
レオンは、花言葉を分かっていて贈っているのだろうか?それとも、単に可愛らしい花達を成人の祝いのつもりで贈ってくれているのだろうか。
レオンの気持ちがまったくわからない。
ミュラーは、悶々とした気持ちのまま友人の舞踏会当日を迎えたのであった。














友人、エリンの邸で慎ましく開かれた舞踏会。
あのお茶会から数日、お茶会ぶりに会ったエリンにミュラーは招待へのお礼を告げる。

「エリンさん、今日はお招き頂きありがとうございます、素敵な夜になるといいですね」
「ミュラーさん!こちらこそ、来て下さり嬉しいですわ。大したおもてなしも出来ませんが、楽しんで行って下さいませね」

ほわほわと笑顔で挨拶をし合い、ミュラーは仕事で来れなかった父親の代わりに付き合ってくれた従兄弟のホーエンスがエスコートをしてくれている。
馬車付近には最近護衛に付いてくれた騎士が1人と、ミュラーとホーエンスから少し離れて付いてくる騎士が付き従ってくれている。

騎士を連れてやってきたミュラーに、最初は驚きの表情を見せたエリンも、理由を聞いて納得してくれた。
そして、逆に心配するようにミュラーの身を案じてくれ、今日の舞踏会に招待してしまってすまない、と謝罪された。
本当は舞踏会を断ろうか、とも考えた。
けれど、あのフレッチャー伯爵家のニックを気にするあまり何故大事な友人の招待を断らねばいけないのか。
断り、家に引きこもってしまってはニックに恐怖し負けてしまうような気持ちがあって、ミュラーは敢えていつも通りの態度で外出した。

「まさか…、あの時のフレッチャー子息がそんな事をなさるなんて…」
「ええ、そうなの…あの時はまだ、その、自信家でぐいぐい来る方ではあったけれど、最低限のマナーも守れないような方ではなかったし、まだ話が通じたのだけれど…」

困ったわ、とミュラーは嘆息する。
エリンは、そんな友人であるミュラーをどうにか元気付けたいのだろう、務めて明るく話題を変えた。

「そう言えば!あの日ルビアナさんがお話してました観劇なのですが、ルビアナさん何とかチケットが取れたみたいで見に行けたそうですわ!」
「まあ!本当に?どうだったのかしら、噂通り素敵な内容だったのかしら?」
「ええ、噂以上に大変良かったみたいです、お話の内容も、演じていらっしゃる方も大変素敵だったみたいですわ!」

感想を聞いたのだろう、エリンはうっとりと瞳を潤ませながら「私もあのお話のようにお花を贈られてみたいわ」と呟いている。

「……っ」

そのエリンの言葉に、ミュラーはここ数日毎朝レオンから贈られてくる花の事を思い出し、頬を真っ赤に染めた。
そのミュラーの様子に、エリンはぱちくりと瞬きをするとどうしたのか、と尋ねる。
言ってもいいものだろうか、でも、どういう意図があるか、自分1人で考えてもぐるぐると堂々巡りの思考に疲れていたミュラーは、エリンにその事をつい話してしまった。

「まあまあまあまあ!」

キラキラと瞳を輝かせ、興奮に頬を紅潮させながらエリンが歓声を上げる。

「凄いですわね、レオン様…!あれ程お仕事が出来る方ですもの、お贈りするお花の花言葉は知っておられるのではなくて?」
「そ、そうなのかしら…」

きっとそうですわ!
ときゃっきゃとはしゃぐ友人の姿に、ミュラーはまたちょっぴり嬉しくなって、はにかむようにエリンに笑った。
しおりを挟む
感想 117

あなたにおすすめの小説

氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!

柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」 『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。 セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。 しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。 だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました

ラム猫
恋愛
 セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。  ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。 ※全部で四話になります。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【完結】愛してました、たぶん   

たろ
恋愛
「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。 「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

処理中です...