【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船

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デビュタントボール3

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国王と王妃のダンスが終わり、ホールからはわっ!と歓声が上がる。
次いでこの国の王太子と婚約者様、第二王子と王女様が踊りだし、王族の周りを今日成人する格式の高い公爵家、侯爵家の令嬢達が王族と少し距離を取り踊り出す。

くるくるとターンする度にドレスの裾が広がりとても幻想的なその世界に見入っていると、いつの間にミュラーの側に戻って来ていたのか、父親がミュラーに手のひらを差し出した。
いつものようにミュラーが父親の手に自分の手を重ねようとした時、横からすっと大きい手のひらに掬い取られた。

「えっ」

驚きに目を見開き、掬い取った人物レオンへ視線を向ける。
優しくミュラーの目を見つめるその翡翠の色と視線が合うと、レオンは優しく微笑んだ。

「後で、俺とも一曲お願いします」

恭しくミュラーの手を自分の口元へ掬い上げると、真っ白なオペラグローブに包まれた手の甲に口付けを落とす仕草でダンスを申し込む。
その流麗で美しい所作にミュラーは頬を染めると、たどたどしくも了承の返事を返した。


ミュラーがドギマギとしている中、すっとレオンはミュラーの父親に近付くとその耳元でそっと囁いた。

「ハドソン伯爵から向かって右側…、奥の壁際にフレッチャー家の例の跡取りがいる…ダンス中近付いてくる可能性があるので気を付けて」
「─あぁ、了解した」

レオンのその言葉に、そっと不自然に見えないように指示されたその方向を見やると
そこにはレオンの言葉通り、何処かギラギラとした薄気味の悪い瞳で真っ直ぐにミュラーを見つめるニック・フレッチャーがいる。

先日フレッチャー家に抗議してからというものの、フレッチャー家の家族がいくらニックを窘めようと、説得しようと聞く耳を持たず何度もハドソン家へと来ようとしていたらしい。
言動や行動がおかしいのはフレッチャー家の嫡男であるニックだけで、他の家族はまともな人物だっただけに突然性格が変わったように振る舞う息子にフレッチャー家も驚愕していた。
多少昔から自信家ではあったものの、こんな状態の息子を見るのは初めてのようで対応に混乱してしまっていた。

貴族として、貴族社会で生きていく上には守らねばいけないマナーがある。
そのマナーを、全て破り直接意中の女性に接触を図ろうとするなど言語道断である。


ミュラーの父親は、ニックに一瞬鋭い視線を向けるとエスコートの為再度ミュラーに自分の腕を差し出した。

恐らく、動くとすれば数曲ダンスを踊った後か
ダンスホールから離れたその瞬間だろう。

そっと自分のコートの内ポケットに入っている小瓶に手を触れる。
レオンから渡されたそれは、「自分が離れている際に何かあったら、」と言われ渡された物で、解毒薬だ。
錠剤の物と違い、液体の解毒薬は吸収が早く効き始めが早い。
万が一、の事態に陥らないのが一番なのだが何を仕出かすかわからない人間が狙っている以上最悪の場合の想定はしておいた方がいい。

父親は気持ちを引き締めるとミュラーを伴いダンスホールの中心へと人々を縫うように進んで行った。










即効性の解毒薬。
レオンは自分の胸元にある瓶の感触を指先でなぞりながら壁際の方へ視線を向けた。

先週、一週間程前だろうか。
オリバーとの話を終え解毒薬を都合してもらった後、禁止薬物に関わっていそうなホフマン子爵家を調べた。
ミュラーがリーンウッド嬢のお茶会に参加した際に接触してきたというホフマン子爵家の令嬢はやはり禁止薬物に手を出している事が判明した。
領地運営がうまくいかず、収入が減少し困窮したホフマン子爵家は、国で禁止されている違法薬物をフィプソン伯爵家が取り潰された時に入手しておりそれを培養、領内で売り捌いていた。
禁止薬物が思いの外金になると踏んだホフマン子爵は、売買ルートを王都まで延ばし資金を蓄えようとしている。
禁止薬物が根絶出来ていなかったその事態を重く受け止めたオリバーは、宰相への報告を行い、国の対応を仰いでいる最中である。

(厄介なのはどのルートで入手したのかはわからないがフレッチャー伯爵家の令息がこの禁止薬物を常用している可能性がある事だな)

リーンウッド伯爵家の令嬢から怪しい人物の報告を受けて助かった。
その情報を貰えていなければ、過去に起きた禁止薬物の事件と今回の禁止薬物の事が繋がる事はなかった。
まだ、事件事態は起きていない。
レオンは考え過ぎなのであればそれで済んでくれればいい、と考える。
あの数年前のような事件が再度起こってしまったら。
今は、解毒薬があるから多少安心とは言え解毒薬を使用した際の副作用がとんでもなく辛い。
一日中頭痛と吐き気に苛まれ意識が朦朧とする期間が何週間か続く。
解毒薬の成分が人体に強制的に作用している副作用だと言われたが、あんな思いはもう二度とごめんだ。

ミュラーに執着しているニック・フレッチャー。
釣書のリストにもその名前があった事をレオンは覚えている。
昔からミュラーを手に入れたいと思っていたのだろう。
まだ、ここまで彼が壊れる前に友人達にポツリと零していたらしい。
どうしてもミュラーを手に入れたい、と。彼女と結婚したい、と。
だが、以前のミュラーはレオン一筋だった。
またレオンもミュラーを守るように、彼女の周りに必要以上に接近する者を排除してきた。
それ、が崩れたのが先日の夜会の時だ。ミュラーがワルツの申込を受けた事でニック・フレッチャーは大胆な行動に出たのだろう。
そして、あのお茶会の日に直接ミュラーへ接触した。
マナー違反のその対応から、あの時には既に禁止薬物を服用し始めていたのかもしれない。
何度も何度も繰り返し薬物を使用し、得た高揚感で理性に歯止めが効かなくなったのだろう。
取り返しの付かない事態に陥る前に彼をどうにかしたい。
薬物を常用している証拠が無い為、服用している現場か、その薬物を所持している現場を押さえてしまえば話は早いのだが。
あの時の自分のように、媚薬と禁止薬物同時摂取の状態に陥らなければいい。
体の熱を解放したくてしたくて堪らなくなり、また禁止薬物のせいで幻覚症状まで出てしまい理性が効かなくなる。思考能力も無くなってしまうため、あの時にアウディに助けられなければ自分はあのパトリシア・フィプソン嬢を傷物にした責任から、あの娘を娶らなくてはいけない羽目になっていただろう。
そうならないように防いでくれたアウディには本当に一生感謝してもし切れない。
あらから媚薬への耐性を付けるために、定期的に服用している為昔の前後不覚状態に陥る事はないだろうが、薬物や媚薬にまったく耐性のないミュラーが盛られてしまったら。

(絶対にそんな事は避けなければいけない…)

今日の舞踏会は煌びやかな空気感で、晴れて大人の仲間入りをした女性達の楽しげな雰囲気も相まって少々浮かれた空気感だ。
そんな時は犯罪率も上がる。

レオンは、自分の視線の先で父親と楽しそうにダンスを踊るミュラーを絶対に守らねば、と強く拳を握りしめた。
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