【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船

文字の大きさ
39 / 42

答え合わせ 4終

しおりを挟む

「…っ、」

ミュラーの言葉を聞いたレオンは、ぐしゃりと表情を歪めて声にならない声を上げる。

「確かに、レオン様は…その、普通の男性としては性的趣向がおかしかったかもしれません…ですが、レオン様は今も幼い少女にそういった感情を抱くのですか?」
「──っ、そんな訳ない…!俺がそういった気持ちになったのは後にも先にもミュラーだけだ…っ」

縋るようにミュラーにそう告げるレオンに、ミュラーは微笑むと座っていたソファから腰を上げてレオンの元へと歩んで行く。

「ならば…、私としては…確かに吃驚してしまいましたが、レオン様が"私自身"を好いて下さっている事がとても嬉しいです」
「…ミュラー」

そっとレオンの元へと向かうと、レオンの隣へと腰掛ける。
先程からレオンは自分の震える指先を真っ白になる程力強く握りしめていた。
震えるその両手のひらをミュラーはそっと自分の両手で包み込む。

自分のその異常な趣向を好いた人物に告白するのはどれだけの恐怖だったろうか。
きっと、レオンはミュラーが嫌がれば手を離してくれただろう。
そして、一生涯ミュラーの前に姿を表す事はしないつもりだったのだろう。

レオンの話しを聞いていて、彼からの言葉の端々
や表情から自分への異常な執着、愛情を感じ取った。
何より成人するまで自分の父親からの約束を守り続けるなんて事がそもそも普通ではない。
自分だったらさっさと相手に話してしまっていただろう。
大人の男性だったら上手く相手の親にバレないように想いを交わすことだって出来たはずだ。

(私がレオン様を好き過ぎて態度に出てしまう可能性はあったかもしれないけれど…)

もし万が一悟られたら婚約してしまえばいいのだから。
相手は侯爵家当主。伯爵家の我が家の爵位では相手からの婚約の申し込みを突っぱねる事が出来ないのだから。

愚直でまっすぐ歪んだ執着心を見せるレオンにミュラーは堪らない気持ちになる。
きっと今まで汚い手を使いもしただろう。それ程に自分自身を求めてくれていたレオンに恐れの気持ちは抱かない自分にミュラーは心の中で笑った。

「結局、私も一途に10年間レオン様を思い続けた執念深い女ですもの」
「…ミュラー」

まだレオンと色々話したい事がある。
ミュラーはゆっくりと自分の父親へと視線を向けると唇を開いた。

「…お父様…、レオン様と2人きりでお話したいです。出ていって頂いてもよろしいでしょうか?」
「ミュラー…それは…」
「2人きりにしてしまうのが恐ろしいですか?想いを通じ合わした私達が何か間違いを犯すと?…想いを通じ合わせた後の昨日、媚薬で我を忘れた私にレオン様は自分からは指一本触れませんでした。レオン様は自身でしっかりと自分の感情をコントロール出来る大人の男性です、そのような心配は侯爵家当主であるレオン様に失礼に当たる事ではありませんか?」

きっぱりとミュラーに諭されるような強い口調で言われ、ミュラーの父親は言葉を紡げなくなる。
そっとレオンへと視線を向けると「娘を頼んだ」と呟き、静かに扉から出ていった。


「…ミュラー?」
「レオン様、お話をしましょう。…私はレオン様がそれ程まで私を想っていて下さっていた事に気付いていませんでした」
「それは…そうだよ、俺はミュラーにだけは悟られてはいけない、と押し殺していたから」

困ったように眉根を下げて微笑むレオンにミュラーはレオンの手のひらを握っていた自分の手のひらに力を込める。

「その…レオン様が随分前から私を好いて下さっていた事も、驚きはしましたが不思議と嫌悪感は感じません」
「─っ」

ミュラーのその言葉にレオンは怯むように体をびくり、と震わせるとミュラーから視線を外す。

「確かに世間一般から見たらレオン様は異常な感性を持った男性です。ですが…幼い私に無体を働く事もありませんでしたし、数年前、レオン様のお膝に乗ってしまった時もお叱りを受けました」
「…本当にあの年の君に手を出したら父親との約束事以前に俺は犯罪者だ…何より深くミュラーを傷付ける。一時の自分の欲に負けてミュラーの心を深く傷付ける事は出来ない」
「ふふ、お父様もレオン様の性格を全くわかっておりません。レオン様はこんなに誠実な人なのに…」

誠実、だろうか?とレオンはミュラーに言われた言葉を自分の頭の中で反芻すると誠実とはなんなのか、と分からなくなってしまう。

「誠実、とは程遠いんじゃないかな…?俺はミュラーの知らない所で君に近付く男を排除して来たし…もしかしたら排除してきた男達の中には本当にミュラーを心から愛し、幸せな家庭を築けた男もいたかもしれない」
「本当にそうだったとしたらレオン様は私を手放して下さったんですか?」

きょとん、と瞳を丸めてそうミュラーに問いかけられてレオンは低く唸る。

「…無理だ。俺以外の男の隣で幸せになるミュラーを想像するだけで死にそうになる」
「ふふ、私もそうです。一時、本当にレオン様を諦めようとしましたが、きっと万が一誰か他の男性と結婚したとしても…私は本当の意味で幸せになれなかったと思うんです。きっといつまでもレオン様を思い出して、伴侶となった男性とレオン様を比べて…後悔していたと思います」

結局私もレオン様を諦める事なんて出来なかったんです。
そう微笑みながら言葉を紡ぐミュラーにレオンは唇を噛み締める。
そっとミュラーへ視線を移すと、ミュラーもしっかりと自分をまっすぐ見つめてくれていて、レオンは自然と希うように唇を開いた。

「…本当に俺でもいい?ミュラーの伴侶として、君の隣に俺がいてもいい?」

自分の両手を握るミュラーの手のひらをぎゅう、っと力強く握りしめる。
だけれど、その力はミュラーが手を振り解けるくらいの力強さで。きっとミュラーが思い直してレオンの手を振り解けるくらいの力強さ。
言葉とは裏腹に、まだ逃げ道を作ってくれているレオンにミュラーは笑うと反対にレオンの手をしっかりと握り締めた。

「…勿論です、私の気持ちは変わっていません。大好きです、レオン様」

いつものミュラーのその告白。
10年聞き続けたその言葉にやっと自分の気持ちを返す事が出来る。
レオンは自分の瞳から一筋涙が零れ落ちる感触を感じる。

やっと、言える。

「ありがとう、ミュラー。俺も愛してるよ」

泣き濡れた自分の表情を隠すように、レオンはミュラーを引き寄せるとしっかりと自分の腕でミュラーを抱き締めた。
しおりを挟む
感想 117

あなたにおすすめの小説

氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!

柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」 『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。 セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。 しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。 だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました

ラム猫
恋愛
 セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。  ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。 ※全部で四話になります。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【完結】愛してました、たぶん   

たろ
恋愛
「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。 「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

処理中です...