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最終話 ありがとう、愛してる
しおりを挟む2人で手を繋ぎ、ゆっくりと父親とアウディの待つ応接室へ向かい足を進めていく。
2人の間に会話はないけれど、その無言の空間もちっとも苦しくなくて、ミュラーは絡められた自分とレオンの指先にきゅっ、と力を入れた。
「ん?」
ミュラーのその動きにレオンは反応すると、ミュラーへ視線を向ける。
自分に向けられる瞳の優しさにミュラーは頬を染めると、早くこの事件が解決するといいですね。と笑った。
「そうだね、早く解決してもう二度とあんな危ない薬達が世に出回らなければいいと思う。人の気持ちを無理矢理変えたり、体に害を及ぼす危険な物は早くこの王都から消え去って欲しいと思うよ」
「…レオン様は、昔禁止薬物を盛られてしまったんですよね…?」
心配そうにレオンを見上げるミュラーに、レオンは微笑むとミュラーの頬に掛かる髪の毛を耳に掛け直してやりながらそうだね、と呟く。
「俺の油断が招いた事態だったけれど、本当にアウディに助けて貰わないと大変な事になっていた。…それに、あの薬物を摂取した後の解毒薬の副作用が酷く体に影響を及ぼすんだ」
あの時の身体中を這い回る不快感と、頭痛吐き気は思い出したくない、と情けなく笑った。
「きっとあの薬物を常用し続ければ人格が壊れ、廃人のようになってしまう。一時の快楽の為に自分の人生を壊すような真似はして欲しくなかったな…」
あの2人だってまだ年若い若者だ。
薬物に手を染めなければ輝く未来が待っていた。いい人と出会い、結婚し、家庭を作っていけたのだ。
それが、一時の自分の愚かな判断で自分の人生を潰してしまった。
レオンは、彼らより年上な事もありやるせない気持ちになる。
だが、自分達で選んだ人生だ。
しっかりと罪を償いあの牢獄で生を全うして欲しい。
少し沈んだ空気のまま、王城の庭園へと差し掛かる。
このまま渡り廊下を進んで行けば応接室へと戻る事が出来る場所で、示し合わせたかのようにミュラーとレオンの足がその場でピタリ、と止まった。
舞踏会で想いを告げ、受けたあの庭園ではないけれど。あの時と同じくらいに美しい庭園の風景に暫し2人は会話も忘れて風景に魅入った。
自然と繋いだ2人の手のひらに力が籠り、離れないように指先を絡め合う。
今、こうして2人で手を繋ぎこの場にいるのが嘘のようだ。泡沫の夢幻のように今ある幸せが消えてしまわないようにミュラーはそっとレオンに寄り添った。
レオンも、寄り添うミュラーに気付くと微笑んで絡んだ指先とは反対の腕でそっとミュラーを引き寄せ自分の腕の中に閉じ込める。
「レオン様」
「ん?」
ミュラーの問いかけにレオンは優しく答えると、抱き締めた腕でミュラーの髪の毛をそっと梳く。
「私、レオン様と結婚する前にやりたい事が沢山あるのです」
「うん、ミュラーのやりたい事は全部やろうか」
お互い嬉しそうに笑いながら抱きしめ合う。
ミュラーはレオンの胸元から顔を上げると、瞳を輝かせてレオンに伝える。
「レオン様と今人気の観劇にも行きたいですし、王立公園の素敵な薔薇園もご一緒したいですし、夜会等でも沢山レオン様とダンスを踊りたいです」
「うん、全部やろう。今まで出来なかった事を一つづつ叶えていこう。俺もミュラーと美しいと評判の湖面を見に行きたいし、ご家族も一緒に出掛けたりもしたいね」
「結婚する前に、結婚してからだと出来ない事をレオン様と沢山経験したいです」
夫人になってしまったらあまりお転婆な事も出来ないでしょう?
と悪戯に笑うミュラーにレオンは愛しい気持ちが込み上げてきて我慢出来ずにそっと触れるだけの口付けを落とす。
「そうだね、婚約期間に沢山色々な事を経験しよう。これから先ずっと一緒にいるんだ、夫婦になったらお行儀悪い事も見逃される内に沢山しちゃおうか」
「ふふ、嬉しいです。レオン様との未来を一緒に語れる事がとても嬉しいです」
「うん…、これからはずっとミュラーに気持ちを伝えてもらった分、この先は俺がミュラーに気持ちを伝え続けるよ。…もう要らない、何て言わないでね?」
「絶対に言いません、レオン様からの気持ちはいつだって、全部全部嬉しいです。…けれど、時々は手加減して下さいね…?まだ慣れていないんです」
恥ずかしそうに笑うミュラーに、レオンは破顔すると声に出して笑う。
「我慢出来たら、ね。ミュラーが可愛いから愛してる、って何度でも言いたくなっちゃうよ」
そのレオンの言葉にミュラーは頬を染めると「私だって愛してます!」と大きく声を上げレオンに抱きついた。
「ありがとう、俺も愛してるよミュラーっ」
笑い声を上げながらレオンもしっかりとミュラーを抱き締め返し、2人が応接室へ戻った時には「遅い!」とミュラーの父親とアウディに怒られてしまった程だった。
それから、正式に婚約を交わしたレオン・アルファストとミュラー・ハドソンは結婚するまでの2年間、仲睦まじい姿で観劇に出掛けたり湖畔で寄り添い合っていたり、両家の家族と仲良く過ごしている姿が至る所で目撃された。
幸せそうに笑い合う2人の姿は一時期流れた不穏な噂等無かったかのようにいつでも幸せそうな姿を周りに見せていた。
噂では毎日アルファスト侯爵がハドソン嬢へ毎朝一輪の花を贈っている事が令嬢達の間で話題になり、婚約者同士で恋の花を贈り合うのが流行った。それがいつの間にやら恋の花を婚約式に贈り合うとその2人は生涯仲睦まじく暮らせる、と噂が拡大していったとか。
噂の元になった本人達は吃驚していたが、恥ずかしそうに目を合わせて笑ったらしい。
この先に訪れる由緒ある両家の結婚式では、大勢の参列者が2人を祝福する為に集まった。
夫であるレオン・アルファスト侯爵が感動のあまり祝福の為に集まった大勢の前で号泣してしまったという恥ずかしい出来事が起きて、驚いた妻のミュラーが泣き止ませるのに必死になったという情けないエピソードが笑い話としてしばらくの間貴族の間で噂になったが、仲睦まじい2人の姿にその内その話も幸せな2人を祝福するような内容に変わっていった。
泣いたり、笑ったりしながら2人はきっとこれから先も楽しく幸せに過ごしていくのだろう。
この先家族が増え、2人が年老いてもきっと最後まで2人は笑顔でお互いに愛している、と伝え続ける。
願わくば、自分の大事な家族達も自分達のようにいつまでも笑って、幸せな人生を送って欲しいと2人は願ったのであった。
終
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