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一章
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しおりを挟むリズリットと、ローズマリーは共に邸内の廊下を歩きながら世間話をする。
ローズマリーはちらり、とリズリットに視線を向けるとディオンとはどんな会話をしたのか、と問い掛けた。
「リズリットは、フィアーレン卿とどんなお話をするの? あの方、とても寡黙でしょう」
「えっ? そう、なのですか……? ディオン卿とは沢山お話させて頂いてますよ?」
寡黙、とは? と不思議そうに瞳を瞬かせて返答するリズリットに今度はローズマリーが驚いたように瞳を僅かに見開く。
「あら、そうなのね? 噂では……寡黙な方で、会話が出来たとしても、途切れがちと聞いていたのだけれど……もしかしたらリズリットとフィアーレン卿は気が合うのかもしれないわね?」
「そ、そうでしょうか……? もしそうだったら……嬉しい、です……その……、久しぶりに何も気にせずお話出来る方で……仲良くさせて頂ければ、と思っているのです」
ほわ、とはにかみながらそう告げるリズリットに、ローズマリーは眉を下げて微笑む。
「そうね……リズリットにも、久しぶりに私達以外にも仲良く話せる人が出来て良かったわね──」
リズリットから視線を外し、前を向いて歩くローズマリーの顔は、昔の辛い日の出来事を思い出したかのように悲しく歪んでいた。
自宅へと戻ったディオンは、先程のローズマリーの表情を思い出し、首を傾げながら騎士団の団服を脱ぎ、使用人に渡すとソファへと腰掛けた。
「妹のリズリット嬢を可愛がる余り、過保護になっているだけだと思っていたが……それにしては態度に違和感を覚えるな……」
襟元を緩めながら、ディオンは自分の精霊を呼び出した。
「呼んだか? 主」
「ああ。リズリット嬢のマーブヒル伯爵家……あの家に嫌な気配は無いか……?」
先程、ハウィンツを馬車に連れて行く為に背に乗せた大きな銀狼の姿をした精霊が姿を表すと、ディオンはその銀狼に話し掛ける。
銀狼は、ディオンの足元にぽてっと伏せるとカシカシと自分の顔を前足で毛繕いしながら大きな欠伸をするとのんびりとした口調で答える。
「あの家には特に嫌な気配は無かったぞ。……ただ……、なぁ……。主が夢中になっているあの人間の女性」
「リズリット嬢か」
「ああ、リズリット嬢。その子に何だか我々と同じ……? 同じ種の気配があったんだよな……あれはなんだろうか……?」
「同じ種……? だが、リズリット嬢は精霊の祝福を受けてはいないぞ。最近、俺達がリズリット嬢を見守ってるから気配が移ったんじゃないか?」
「いや、そうではないんだよ。主と契約をした我々の気配は同一だから、リズリット嬢に染み込んでいる気配が我々と同一であれば違和感を覚えない」
「──? ならば、ハウィンツや、ローズマリー嬢の精霊の気配では無いか? もしくはご両親とかな」
「いや。あの坊ちゃんと嬢ちゃん、両親は中級精霊だろう。使用人達の殆どは下級精霊だからあそこまで濃く気配が残る事は無い」
精霊の言葉を聞いて、ディオンは不穏な気配を感じ取ると腰掛けていたソファから荒々しく立ち上がる。
「──それならば、リズリット嬢に危険な気配が染み付いていると言う事か……!?」
それならば、こうしてはいられない! とばかりに再度リズリットの邸へ行こうとするディオンを精霊は慌てて止めながら口を開く。
「待て待て待て! まだ、その気配が危険な物かも分かっていないのだ! 行動に移すには早い、今後も主の言う見守りを続けて気配の確認をした方が良いだろう!」
精霊の言葉に、ディオンは「そうだな……」と小さく答えるとすごすごとソファに再び戻り、座り直す。
「──それならば、リズリット嬢が次に夜会に参加する日。その日にリズリット嬢の周囲に注意を払っておくか……」
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