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29.琥珀とジェイド①

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 この世界の知識も欲しくて、王宮図書館の特別閲覧のカードをエドワード殿下から受け取った。
 
「ありがたいな。本当に特別対応だ」

 毎日触っていたスマホを、見る事のない生活。大学では翻訳機能がついていて助かっていたが、ここでは役立たずだ。
 
  スマホもこの世界に持って来たけれど、そのままバックに入れっぱなしだ。もう充電も切れたはずだ。
 結の写真は、この世界に来る前に全て消えた。あの写真を見せることが、ジェイドに出来たら。何か思い出してくれるのかもと、時々思う。

 今更だな。何か二人での思い出を、忘れられないものはなかったかな?
 俺自身の記憶も、おかしくなってる?記憶をたどって、書き留めておこう。

   それにしても、チートは本当にあった。翻訳機能が既に脳内にあるようなものなのだ。
 どの本も開いただけで読める。同じ文字だと思っていたのに、数カ国語を読み書き出来ている事になっていた。

「琥珀様は、すごすぎる」

 これが聖女の言ってたチートですよって言いたいが、どうも聖女はこの国の言葉しか分からないようだ。

「この世界、ヒロインに厳しくないか?」
 最近は、サポートしてやろうか? なんて気持ちになっている。彼女は、聖女としてこの世界を守るのだろうから。俺のやりたい事は、ただ結を取り戻す事だけだ。ジェイドと結が同じだと、確信したい。

「あの子が高校生……だからかな?  家庭教師感覚がこう……うずく?」

「どこか疼くのですか? やはり水晶の破片の影響があるのでは」

 手が伸びてきて、あの時の傷がついた場所を優しく触れられて。思わずその手を止めた。

「違う。独り言だから。水晶の影響なんてないから」
 心配症過ぎるのも問題だな。

 二人の時の敬語無しも、段々馴染んで来ているけど、呼び捨ては難しそうだ。ソファの横に座って、ジェイドも読書をしていた。
 本好きだからって言っていた、ミカエル様の言葉通りで今はのんびりと本を読んでいた。

 禁書までは、深入りしたくないので読んではいない。いつか読む必要があった時は、神使の特権を使う気ではいる。

 ソファの前のテーブルに本が積載していた。それでも、読む事に苦痛はない。
 元々本は速読が出来たから。そう言う特技的なものが、ここでは大きな力に反映されるのかも知れない。

 元の世界に戻ったら、この力を惜しいって思うんだろうな。

「それにしても、魔法の訓練も順調ですね。王宮図書館の本もかなり読まれていて知識も申し分ないし。司書官の羨望の的というか、熱い視線に少しハラハラする……」

 熱い視線? そんなのあったっけ?

「そんなに見られてた? 気にならなかったけど。ところで聖女様は、上手くいってる?」
 ジェイドの顔が、ピシリと固まった。

「琥珀様の顔を傷つけ女の事など、忘れて下さい」

「いやいや、この世界を守る子じゃん。ジェイド、二人の時は様呼びは止めてよ」
 体が大きくても、中身が可愛いと思う時点で、俺も重症だ。

「琥珀様! 次に何かあった時は、俺の事は気にしないで。最優先されるのは、琥珀様の存在なんだ」

 聖属性が、はっきりしたのだから、王国にとって必要には違いない。

「あまり大きなポジション……地位?には、いたくないんだよね。いつか帰りたくなると思うから」

「帰られるのですか!」
 その勢いに、思わずジェイドから身を引いた時、バランスを崩した。

「うわっ」
「琥珀……様」
 壁ドンではなくて、ソファドン。
 ジェイドの両手の間にいる。顔も近い。顔がいいとは思っていたけど、思わず赤面してしまう。

 ジェイドも、驚いたのか固まってしまった。

「──ジェイド?」
 慌てて体勢を戻して、起こされた。

「す、すみません。つい慌ててしまいました。王都の古書店も行きたいって言ってましたよね? その、どんな本を探しているのですか?」

 慌ててるのが、妙に可愛くて。頭をポンと触ってしまう。
 撫でたい。大型犬みたいだ。

「珍しいのないかな?って思っているんだ。歴代聖女の話とかもあるかも知れない。それにって所に行きたい。楽しそう」

 俺の顔くらい大した事ないのに。少し顔の赤い、ジェイドを見て思わず笑ってしまった。



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