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68.そばにいて

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 何度となく、泣きながら目を覚ます。なのに見た夢は、思い出せない。ただ怖いのだ。
 隣に寝てくれているジェイドにしがみついた。
 (温かい。生きてる)

 ジェイドの腕が背中に回って、引き寄せられて更に密着する。
 なんで、こんなに不安になるんだろう?禍々しい魔力を覚えている。

「兄さん」
「嫌だ。名前で呼んで」

「──琥珀」
「もう一回」

「琥珀」
「もう一回」

「コハク」
 思わず、抱き締める手に力が入った。

「ジェイド……ジェイド」
 背中をさすられて、訳もなく涙の流れる自分を捕まえていて欲しくなった。別れが近づいているようなそんな気持ちだ。

「──琥珀。何を悩んでる? 正直に言って、上手く言わなくて大丈夫だから。思ってる事、全部」

「分からない。なんでこんなに苦しいのか。あの、魔法陣……こわ……くて」
「うん、俺も怖かったよ」

「──ジェイドも?」
「近寄りたくないし、琥珀を近付かせたくない。そう思った。正直、琥珀を連れて行かれそうで手を離せなかった」

 ああ、だからジェイドは抱き締めてくれていたんだ。

「──他には?」
「聖女様が……怖い。嫌な感じがする」
「聖女様が怖い?」

「俺、何言ってるのかな? 聖女様が浄化して、聖属性に目覚めたならこの物語はハッピーエンドになるのに。俺は、イレギュラーで。来瀬さんが、結を……」

 グルグルと、この世界に来る前の事を考えてる。 
 俺は、ただ結に会いたくて追いかけて来たんだ。

 あんな、化け物が出てて来るなんて。ジェイドを失うかも知れない。そんな恐怖でいっぱいになる。
    何か約束した気がする。誰と?
    選ばないと行けない時が来る。何を?
 ヒューヒューと変な音がする。息苦しくて何も考えられなくなった。

「琥珀?」
 ヒューヒュー、ヒューヒュー。
「琥珀!」
 目の前が暗くなって、ジェイドの声が聞こえなくった。耳鳴りのような、違和感。横になっていたはずなのに。抱きかかえられてるみたいだ。口の中に水がゆっくりと入り込んできた。口移しなのに少しひんやりしているのは、氷属性の魔法を乗せてくれてるのかもしれない。

 少しづつ、口移しで含まれる水。ヒュー……音が聞こえなくなる。ようやく息が吸えるようになった。

「ジェイド……」
「今日は、もう大丈夫だから。抱えてるのと、横になるのはどっちが楽?」

「疲れない? 」
「琥珀が泣かなくて済むのなら、何でもする」

「抱っこしてて、離される事がないように」
「いいよ。俺も絶対に離さない」

「──ライさんに、会いに行ってもいい?」
「いいよ。でも、今は休んで」
「もう一回だけ、キスして」

「何度でも、キスする」
「──闇に堕ちて、行きそうで怖い」

「そんな事させない」
「ジェイド……愛してる」

 今度は、口移しで温かな魔力が届く。俺を優しく守ってくれる。ジェイドの魔力が嬉しかった。




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