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36. 凶暴少女カルル登場 - 2
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「すまない。昔からカルルは人の話を聞かないで思い込みで突っ走るんだ。」
「アトル様! なんで魔女に謝るんですか!? 悪に屈してはいけません!」
と言いながら、少女は拘束から抜け出そうとジタバタと暴れる。
「カルル、落ち着け! 今はそんなことよりトルムの治療をお願いするのが先だろう!」
「えっと、そうでした。魔女! 私の弟を治療しなさい!」
「お前、人に物を頼むのにその態度は無いだろう...。」
とアトル先生が呆れたようにカルルを窘める。
「いいか、お前が暴れればそれだけトルムの治療が遅れるんだ。取り返しの付かないことに成ったらお前の責任だぞ! 分かったら大人しくするんだ!」
とアトル先生が言うと、カルルは静かになった。
「イルちゃん、迷惑を掛けて申し訳ない。だが、こいつの弟のトルムが死にかけている。どうか助けてやってくれ。コーラルさんの天幕に寝かしている。」
訳が分からないが、死にかけていると聞いては放って置く訳には行かない。私は母さんに「行って来る」と言ってからコーラルさんの天幕に向けて駆けだした。アトル先生も付いて来ようとしたが、カルルの拘束を外すとまた暴れるのではないかと危惧したのか、「先に行ってくれ」と後から叫んだ。
コーラルさんの天幕の前に着くと、天幕の前から声を掛けた。
「今日は、イルです。トルムくんの治療に来ました。」
直ぐにコーラルさんの奥さんのカナさんが天幕から顔を出した。
「イルちゃん、御免なさいね。入ってちょうだい。」
カナさんに続いて天幕の中に入ると、天幕の奥で小さな男の子が寝かされていた。3~4歳くらいだろうか。この子がトルムくんだろう。顔色が悪く、既に意識が無い様だ。男の子の傍では、お母さんと思われる女性が心配そうにトルムくんを見詰めている。私はトルムくんの近くに行くと、お母さんと思われる女性に話しかけた。
「初めまして、イルと言います。回復魔法が使えるので、よろしければトルムくんの治療をさせて頂きます。」
女性は、私が話しかけると驚いた様に私を見詰めた。ひょっとしたら心配のあまり放心状態になっていたのかもしれない。その後は、
「イル様ですか? お願いします! どうか息子を助けて下さい!」
と必死に訴えてくる。
「分かりました、出来る限りやってみます。」
と答えて、まずは探査魔法でトルムくんの容体を診察する。身体に外傷はないが、肺に重度の炎症が起きている。高熱を発し呼吸が浅く不規則だ。肺炎という奴だろう。かなりの重症で放って置けば命が危ない。私は慎重に回復魔法を発動する。トルムくんの身体が淡く光り、光が消えた時には肺の炎症は無くなっていた。呼吸も落ち着いたし、熱も下がった。まだ意識は戻っていないが、大丈夫だ。
「治療出来たと思います。」
と私が言うのと同時にトルムくんが目を開けた。周りを見渡し、お母さんを見つけて、「ママ」と呼びかけながら上半身を起こした。
「トルム!!! 大丈夫? 何ともない? 」
トルムくんのお母さんは、膝を付いてトルムくんの傍に寄る。トルムくんは質問に 「だいじょうぶ」と答えて立ち上がり、嬉しそうにお母さんに抱き着いた。お母さんは信じられないという顔をしながらも、トルムくんを強く抱きしめた。目からは大粒の涙が零れている。
「神様、ありがとうございます。」
とお母さんが呟くのが聞こえた。きっと今までトルムくんの回復を祈っていたのだろう。
「イル様、私はトーラと申します。息子を助けて下さり感謝のしようもございません。まるで神の奇蹟を見る思いでございました。いいえ、神の御業その物です。イル様は神に近しい尊いお方に違いありません。感謝いたします。」
と言いつつトーラさんは、まるで土下座するように頭を下げてくる。「頭を上げてください。」と必死に言うが聞いてくれない。さっきの凶暴な少女カルルといい、トーラさんと言い。親子そろって思い込みが激しそうだ。
その後もトーラさんに散々感謝の言葉を述べられ辟易している所に、にぎやかな言い争いの声が聞こえて来た。
「だから、私はトワール王国には戻らないと言っているだろう。」
「アトル様、今が千載一遇のチャンスなんですよ。今や王家の血を引くのはアトル様だけなのです。王国の唯一の正当な後継者なのです。王妃や宰相など相手になりません。どうか王国にお戻りになって、我らの王となって下さい。」
「ダメといったらダメだ。私にその気はない。」
と言いつつ天幕に入って来たのはアトル先生、すぐ後にさっき会った凶暴な少女カルルが入って来た。
カルルは私を見つけ、さっそく声を荒げた。
「イル! お前の所為よ。お前がアトル様に呪いを掛けたから、気質まで変わってしまった。以前の勇敢なアトル様に戻しなさい!」
何のことだろうと考えている内に、トーラさんがカルルに走り寄り、その頬をパシッと叩いた。あれは結構痛そうだ。驚くカルルにトーラさんが言う。
「イル様になんて失礼なことを! いいですか、イル様は神に近しい尊いお方なのです。トルムの命を救って頂いた大恩人でもあります。今度イル様に失礼があったら私が許しませんからね。」
とすごい剣幕でカルルに言った。母親の剣幕に驚いたのか、さすがのカルルも黙ってしまう。
「さあ、イル様に謝りなさい!」
とトーラさんに強く言われ、萎縮するカルル。心の中の葛藤が目に見える様だ。自分が正しいと信じて行ったことを母親に強く否定されたのだ。ショックだろう。なんだか可哀そうになって来た。ここで謝らせたら一生のトラウマになってしまいそうだ。
「もういいですよ。カルルさんもアトル先生の為を思ってのことだった様ですし。お互い水に流しましょう。」
「イル様、なんと寛大な。お許し頂きありがとうございます。さあカルル、あなたからもお礼を言いなさい!」
とトーラさんは、カルルの頭を手で押さえて無理やり頭を下げさせようとする。いや、それをやったらさっきと同じと思ったが、案の定カルルは身を翻すと天幕から走り去ってしまった。
「あの、追いかけないでよろしいのですか?」
とトーラさんに言うが、「大丈夫です。いつものことですから。」との返事が返ってきた。いつものこと? 我家では有り得ないよ...。
「アトル様! なんで魔女に謝るんですか!? 悪に屈してはいけません!」
と言いながら、少女は拘束から抜け出そうとジタバタと暴れる。
「カルル、落ち着け! 今はそんなことよりトルムの治療をお願いするのが先だろう!」
「えっと、そうでした。魔女! 私の弟を治療しなさい!」
「お前、人に物を頼むのにその態度は無いだろう...。」
とアトル先生が呆れたようにカルルを窘める。
「いいか、お前が暴れればそれだけトルムの治療が遅れるんだ。取り返しの付かないことに成ったらお前の責任だぞ! 分かったら大人しくするんだ!」
とアトル先生が言うと、カルルは静かになった。
「イルちゃん、迷惑を掛けて申し訳ない。だが、こいつの弟のトルムが死にかけている。どうか助けてやってくれ。コーラルさんの天幕に寝かしている。」
訳が分からないが、死にかけていると聞いては放って置く訳には行かない。私は母さんに「行って来る」と言ってからコーラルさんの天幕に向けて駆けだした。アトル先生も付いて来ようとしたが、カルルの拘束を外すとまた暴れるのではないかと危惧したのか、「先に行ってくれ」と後から叫んだ。
コーラルさんの天幕の前に着くと、天幕の前から声を掛けた。
「今日は、イルです。トルムくんの治療に来ました。」
直ぐにコーラルさんの奥さんのカナさんが天幕から顔を出した。
「イルちゃん、御免なさいね。入ってちょうだい。」
カナさんに続いて天幕の中に入ると、天幕の奥で小さな男の子が寝かされていた。3~4歳くらいだろうか。この子がトルムくんだろう。顔色が悪く、既に意識が無い様だ。男の子の傍では、お母さんと思われる女性が心配そうにトルムくんを見詰めている。私はトルムくんの近くに行くと、お母さんと思われる女性に話しかけた。
「初めまして、イルと言います。回復魔法が使えるので、よろしければトルムくんの治療をさせて頂きます。」
女性は、私が話しかけると驚いた様に私を見詰めた。ひょっとしたら心配のあまり放心状態になっていたのかもしれない。その後は、
「イル様ですか? お願いします! どうか息子を助けて下さい!」
と必死に訴えてくる。
「分かりました、出来る限りやってみます。」
と答えて、まずは探査魔法でトルムくんの容体を診察する。身体に外傷はないが、肺に重度の炎症が起きている。高熱を発し呼吸が浅く不規則だ。肺炎という奴だろう。かなりの重症で放って置けば命が危ない。私は慎重に回復魔法を発動する。トルムくんの身体が淡く光り、光が消えた時には肺の炎症は無くなっていた。呼吸も落ち着いたし、熱も下がった。まだ意識は戻っていないが、大丈夫だ。
「治療出来たと思います。」
と私が言うのと同時にトルムくんが目を開けた。周りを見渡し、お母さんを見つけて、「ママ」と呼びかけながら上半身を起こした。
「トルム!!! 大丈夫? 何ともない? 」
トルムくんのお母さんは、膝を付いてトルムくんの傍に寄る。トルムくんは質問に 「だいじょうぶ」と答えて立ち上がり、嬉しそうにお母さんに抱き着いた。お母さんは信じられないという顔をしながらも、トルムくんを強く抱きしめた。目からは大粒の涙が零れている。
「神様、ありがとうございます。」
とお母さんが呟くのが聞こえた。きっと今までトルムくんの回復を祈っていたのだろう。
「イル様、私はトーラと申します。息子を助けて下さり感謝のしようもございません。まるで神の奇蹟を見る思いでございました。いいえ、神の御業その物です。イル様は神に近しい尊いお方に違いありません。感謝いたします。」
と言いつつトーラさんは、まるで土下座するように頭を下げてくる。「頭を上げてください。」と必死に言うが聞いてくれない。さっきの凶暴な少女カルルといい、トーラさんと言い。親子そろって思い込みが激しそうだ。
その後もトーラさんに散々感謝の言葉を述べられ辟易している所に、にぎやかな言い争いの声が聞こえて来た。
「だから、私はトワール王国には戻らないと言っているだろう。」
「アトル様、今が千載一遇のチャンスなんですよ。今や王家の血を引くのはアトル様だけなのです。王国の唯一の正当な後継者なのです。王妃や宰相など相手になりません。どうか王国にお戻りになって、我らの王となって下さい。」
「ダメといったらダメだ。私にその気はない。」
と言いつつ天幕に入って来たのはアトル先生、すぐ後にさっき会った凶暴な少女カルルが入って来た。
カルルは私を見つけ、さっそく声を荒げた。
「イル! お前の所為よ。お前がアトル様に呪いを掛けたから、気質まで変わってしまった。以前の勇敢なアトル様に戻しなさい!」
何のことだろうと考えている内に、トーラさんがカルルに走り寄り、その頬をパシッと叩いた。あれは結構痛そうだ。驚くカルルにトーラさんが言う。
「イル様になんて失礼なことを! いいですか、イル様は神に近しい尊いお方なのです。トルムの命を救って頂いた大恩人でもあります。今度イル様に失礼があったら私が許しませんからね。」
とすごい剣幕でカルルに言った。母親の剣幕に驚いたのか、さすがのカルルも黙ってしまう。
「さあ、イル様に謝りなさい!」
とトーラさんに強く言われ、萎縮するカルル。心の中の葛藤が目に見える様だ。自分が正しいと信じて行ったことを母親に強く否定されたのだ。ショックだろう。なんだか可哀そうになって来た。ここで謝らせたら一生のトラウマになってしまいそうだ。
「もういいですよ。カルルさんもアトル先生の為を思ってのことだった様ですし。お互い水に流しましょう。」
「イル様、なんと寛大な。お許し頂きありがとうございます。さあカルル、あなたからもお礼を言いなさい!」
とトーラさんは、カルルの頭を手で押さえて無理やり頭を下げさせようとする。いや、それをやったらさっきと同じと思ったが、案の定カルルは身を翻すと天幕から走り去ってしまった。
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