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46. アトル先生王座を目指す - 2
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「すまんかったのう...。」
と言って、ラトスさんはアトル先生に深々と頭を下げた。アトル先生はと言うと、ラトスさんの話の内容にショックを受けた様で、ただ茫然とラトスさんを見詰めていた。
「それで、ラトスさんが私を訪ねて来た目的は何なんですか? トワール王国の王様に成ることを報告するためではないですよね。」
「流石はイル嬢ちゃんじゃ、鋭いのお。実はな、力を貸してほしいんじゃ。いくら魔導士でも簡単に王に成れるわけでは無いからのお。ましてや、出来る限り戦いを避けてとなるとのお。」
「そんな方法があるんですか?」
と、ここでアトル先生が食いついた。やはり王に成る方法と言うのは気になるようだ。
「ラトスさん、協力はしたいですが、誰かを殺す様なことは出来ませんよ。」
と私が付け加える。ラトスさんのことだから、無茶なことを頼みはしないと思うが念のためだ。
「心配せんでも大丈夫じゃ、そんなことを頼みはせんよ。王になる方法というのはじゃな、神々に儂を王に推してもらうんじゃよ。もちろん、そう思わせる芝居を打つと言うことじゃ。国民を騙すことになるが、平和裏に儂が王になるには一番の方法じゃろう。トワール国の国民は皆、なにがしかの神を信仰しておるからのお、それらの神々が儂を王にと命じ、すべての教団が儂を後押しすることになれば、止められる者はおるまい。イル嬢ちゃんには、神々が儂を王にと推していると国民に信じ込ませるための芝居に、魔法を使って協力して欲しいんじゃ。もちろん、ララとトスカの協力も取り付けておる。」
「国民を騙すんですか!? そんなこと許されません! 神罰が下りますよ。」
と、またもアトル先生が食いつく。
「アトルよ、その正義感は好ましいがのお、政治と言うのは多かれ少なかれ、こういう側面があるものなんじゃよ。確かに国民を騙すのは気が引けるがのお、今の国民の受難を速やかに除くには一番の方法なんじゃ、分かってくれぬかのお。神罰があるなら儂がすべて引き受ける。さっきも言ったように、今回のことは儂に全責任があるからのお。」
アトル先生は真剣な顔で考えこんでいたが、しばらくして吹っ切れた様に言った。
「分かりました。確かに今の状況を放って置く訳に行かないですね。ラトス様、お願いします。国民をお救い下さい。そのために神々の罰を受けることになれば、私もラトス様と一緒に罰を受けます。」
そう言ってからアトル先生はラトスさんに向かって深々と頭を下げた。ラトスさんはそれを見て満足そうな顔をしている。ラトスさんってこんな人だったっけ? 何かおかしい...。そういえば、ラトスさんはアトル先生と会った時、まったく驚かなかったよね。死んだと思っていたはずなのに...と考えた私は、漸く正解に行きついた。
「ラトスさん、アトル先生は次の王様として合格ですか?」
と私が言うと、ラトスさんは心底驚いた様に言った。
「まったく、イル嬢ちゃんは油断がならんのお。合格じゃよ、アトルが次の王じゃ。今後の育て方次第じゃが、立派な王になる素質があるわい。儂の言葉に同意できずとも、最後には国民のことを第一に考えよった。その柔軟な思考と、感情に流されず優先順位を見失わない強い意志。王として一番大切な物を持っておる。」
そう、ラトスさんはアトル先生が、次の王様に相応しいかどうか試していたのだ。ここに来たのも、私にではなく、アトル先生に会いに来たのかもしれない。
「ラトスさんは、どうしてアトル先生がここに居ることを知っていたのですか?」
「やれやれ、何もかもお見通しじゃな。そうじゃ、儂はアトルに会いに来たのじゃよ。なぜ知ってたかと言うとじゃな、当時トワール王国の参謀だった儂がアトルの死体を確認したからじゃ。驚いたわい、見事な偽装死体じゃった。儂でなかったら絶対に見破られんかったじゃろう。もちろん誰にも言わなかったがのう。あの偽装死体を作るのは、ただの魔法使いには無理じゃよ。魔導士級の魔法使いが大草原に居ると知って、参謀を引退してから探しに来て、イル嬢ちゃんに会ったわけじゃ。今日はイル嬢ちゃんにアトルの居場所を教えてもらいに来たのじゃよ。まあ、尋ねるまでもなく本人の方からやって来てくれたわけじゃがのお。」
「それでじゃ、アトルよ、お前は王に成る気はあるか。あるなら、お前が一人前になるまで儂が後ろ盾に成ろう。だが、王になる方法は先ほど話たとおりじゃよ。国民を騙すことになるからのう。王に成るなら、それを承知の上でと言うことじゃ。」
とラトスさんがアトル先生に尋ねる。だがアトル先生の返事は否定的な物だった。
「ラトス様はなぜ王に成られないのですか? 未熟な私が王に成るより、その方が国の為になるのではないでしょうか。」
もっともな疑問だ。さっきラトスさん自身が、トワール王国を長く平和に保つことが出来る王は自分しかいないと言ったばかりだからね。
「それはのう...。」
と言い淀むラトスさん。でも、私にはラトスさんが王に成れない悲しい理由が分かってしまった。ラトスさんは王に成らないんじゃなく、成れないんだ。私はアトル先生の耳元でその理由を囁いた。途端にアトル先生の顔が一層真剣な物になる。
「分かりました。未熟者ですが王として精一杯務めさせていただきます。王に成る為に国民を騙すことについても、すべての責任は私が負います。神罰もすべて私が引き受けます。」
こうして、アトル先生はトワール国の王になる決心をしたのであった。そうなると、次の問題は私が協力するかどうかだ。もちろんアトル先生には協力したいが、兄さんと母さんの許しが出るかどうか。だが、恐る恐る許しを乞うた私への答えは、意外なものだった。
「イル、アトルに助力してやれ。アトルは俺達の仲間だ。仲間が困っている時に助けるのは当たり前だ。長老には後で報告しておく、場合によっては一族がトワール王国の内乱に巻き込まれる恐れがあるからな。だが、長老もダメとは言うまい。」
とヤラン兄さんが言った。母さんも、「十分に気を付けるのよ」とは言うが、ダメとは言わなかった。「仲間の為なら危険を冒すことも許される」、私は父さんからそう教えられて来た。今、その言葉の意味を真に理解した気がした。アトル先生は私達に向かって深々と頭を下げた。その目には涙が滲んでいる様に見えた。仲間と言ってもらえたことが嬉しかったのかもしれない。
と言って、ラトスさんはアトル先生に深々と頭を下げた。アトル先生はと言うと、ラトスさんの話の内容にショックを受けた様で、ただ茫然とラトスさんを見詰めていた。
「それで、ラトスさんが私を訪ねて来た目的は何なんですか? トワール王国の王様に成ることを報告するためではないですよね。」
「流石はイル嬢ちゃんじゃ、鋭いのお。実はな、力を貸してほしいんじゃ。いくら魔導士でも簡単に王に成れるわけでは無いからのお。ましてや、出来る限り戦いを避けてとなるとのお。」
「そんな方法があるんですか?」
と、ここでアトル先生が食いついた。やはり王に成る方法と言うのは気になるようだ。
「ラトスさん、協力はしたいですが、誰かを殺す様なことは出来ませんよ。」
と私が付け加える。ラトスさんのことだから、無茶なことを頼みはしないと思うが念のためだ。
「心配せんでも大丈夫じゃ、そんなことを頼みはせんよ。王になる方法というのはじゃな、神々に儂を王に推してもらうんじゃよ。もちろん、そう思わせる芝居を打つと言うことじゃ。国民を騙すことになるが、平和裏に儂が王になるには一番の方法じゃろう。トワール国の国民は皆、なにがしかの神を信仰しておるからのお、それらの神々が儂を王にと命じ、すべての教団が儂を後押しすることになれば、止められる者はおるまい。イル嬢ちゃんには、神々が儂を王にと推していると国民に信じ込ませるための芝居に、魔法を使って協力して欲しいんじゃ。もちろん、ララとトスカの協力も取り付けておる。」
「国民を騙すんですか!? そんなこと許されません! 神罰が下りますよ。」
と、またもアトル先生が食いつく。
「アトルよ、その正義感は好ましいがのお、政治と言うのは多かれ少なかれ、こういう側面があるものなんじゃよ。確かに国民を騙すのは気が引けるがのお、今の国民の受難を速やかに除くには一番の方法なんじゃ、分かってくれぬかのお。神罰があるなら儂がすべて引き受ける。さっきも言ったように、今回のことは儂に全責任があるからのお。」
アトル先生は真剣な顔で考えこんでいたが、しばらくして吹っ切れた様に言った。
「分かりました。確かに今の状況を放って置く訳に行かないですね。ラトス様、お願いします。国民をお救い下さい。そのために神々の罰を受けることになれば、私もラトス様と一緒に罰を受けます。」
そう言ってからアトル先生はラトスさんに向かって深々と頭を下げた。ラトスさんはそれを見て満足そうな顔をしている。ラトスさんってこんな人だったっけ? 何かおかしい...。そういえば、ラトスさんはアトル先生と会った時、まったく驚かなかったよね。死んだと思っていたはずなのに...と考えた私は、漸く正解に行きついた。
「ラトスさん、アトル先生は次の王様として合格ですか?」
と私が言うと、ラトスさんは心底驚いた様に言った。
「まったく、イル嬢ちゃんは油断がならんのお。合格じゃよ、アトルが次の王じゃ。今後の育て方次第じゃが、立派な王になる素質があるわい。儂の言葉に同意できずとも、最後には国民のことを第一に考えよった。その柔軟な思考と、感情に流されず優先順位を見失わない強い意志。王として一番大切な物を持っておる。」
そう、ラトスさんはアトル先生が、次の王様に相応しいかどうか試していたのだ。ここに来たのも、私にではなく、アトル先生に会いに来たのかもしれない。
「ラトスさんは、どうしてアトル先生がここに居ることを知っていたのですか?」
「やれやれ、何もかもお見通しじゃな。そうじゃ、儂はアトルに会いに来たのじゃよ。なぜ知ってたかと言うとじゃな、当時トワール王国の参謀だった儂がアトルの死体を確認したからじゃ。驚いたわい、見事な偽装死体じゃった。儂でなかったら絶対に見破られんかったじゃろう。もちろん誰にも言わなかったがのう。あの偽装死体を作るのは、ただの魔法使いには無理じゃよ。魔導士級の魔法使いが大草原に居ると知って、参謀を引退してから探しに来て、イル嬢ちゃんに会ったわけじゃ。今日はイル嬢ちゃんにアトルの居場所を教えてもらいに来たのじゃよ。まあ、尋ねるまでもなく本人の方からやって来てくれたわけじゃがのお。」
「それでじゃ、アトルよ、お前は王に成る気はあるか。あるなら、お前が一人前になるまで儂が後ろ盾に成ろう。だが、王になる方法は先ほど話たとおりじゃよ。国民を騙すことになるからのう。王に成るなら、それを承知の上でと言うことじゃ。」
とラトスさんがアトル先生に尋ねる。だがアトル先生の返事は否定的な物だった。
「ラトス様はなぜ王に成られないのですか? 未熟な私が王に成るより、その方が国の為になるのではないでしょうか。」
もっともな疑問だ。さっきラトスさん自身が、トワール王国を長く平和に保つことが出来る王は自分しかいないと言ったばかりだからね。
「それはのう...。」
と言い淀むラトスさん。でも、私にはラトスさんが王に成れない悲しい理由が分かってしまった。ラトスさんは王に成らないんじゃなく、成れないんだ。私はアトル先生の耳元でその理由を囁いた。途端にアトル先生の顔が一層真剣な物になる。
「分かりました。未熟者ですが王として精一杯務めさせていただきます。王に成る為に国民を騙すことについても、すべての責任は私が負います。神罰もすべて私が引き受けます。」
こうして、アトル先生はトワール国の王になる決心をしたのであった。そうなると、次の問題は私が協力するかどうかだ。もちろんアトル先生には協力したいが、兄さんと母さんの許しが出るかどうか。だが、恐る恐る許しを乞うた私への答えは、意外なものだった。
「イル、アトルに助力してやれ。アトルは俺達の仲間だ。仲間が困っている時に助けるのは当たり前だ。長老には後で報告しておく、場合によっては一族がトワール王国の内乱に巻き込まれる恐れがあるからな。だが、長老もダメとは言うまい。」
とヤラン兄さんが言った。母さんも、「十分に気を付けるのよ」とは言うが、ダメとは言わなかった。「仲間の為なら危険を冒すことも許される」、私は父さんからそう教えられて来た。今、その言葉の意味を真に理解した気がした。アトル先生は私達に向かって深々と頭を下げた。その目には涙が滲んでいる様に見えた。仲間と言ってもらえたことが嬉しかったのかもしれない。
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