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3・15歳の役立たずの僕
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初めて図書室に足を踏み入れた時の感動は
あれから5年経った今でも忘れたことはない。
僕は初めて、与えられた物以外のものを
自分で選んだ。
初めて選んだ本は、お姫様と騎士の本だった。
兄が騎士だったこともあって、
僕にとって騎士は憧れの存在だったのだ。
僕はバーンズ侯爵家の次男だけれど、
優秀だと胸を張れることは何もない。
それどころか小さく生まれたせいで
幼いころから良く熱を出して
寝込むことが多かった。
今は15歳になったけれど
貴族の子女は必ず行く
貴族学院にもあまり行くことが出来ず、
屋敷で日々を過ごすことが多い。
生まれた時から身体も小さく、
兄のように騎士になるのも無理だし、
かといって、侯爵家の次期当主は兄だ。
僕は自分の居場所が
無くなるのが怖くって、
勉強だけは頑張ることにした。
このままでは学院にも行けず、
何の知識も無い役立たずに
なることが怖かったのだ。
僕は父にお願いして
10歳のころから
家庭教師を付けて貰った。
何人もの家庭教師の人が
来たと思ったら数か月で辞めていく。
僕がダメダメだからだろうかと、
落ち込んでいた時、ある家庭教師が
僕に貴族学院の卒業試験を受けることを
勧めてくれた。
本来学院は14歳から18歳まで
通うものだ。
その時僕は14歳だったけれど、
体調を崩して学院は休みがちだった。
家庭教師は学院を休みがちのまま
数年過ごすより、
先に卒業資格だけ取得して、
あとは体調を見ながら
通学することを考えた方がよいと
提案してくれたのだ。
このままだと、
出席日数が足りなくて
進級できない可能性もある。
そうなると侯爵家としても
醜聞になるだろうと
この家庭教師は両親と兄、
それから学院にも話をしてくれた。
おかげで僕はあまり通えていない
貴族院の卒業資格を得ることができた。
とはいえ、学院長からは
「優秀な人材は学力だけでなく
時間を掛けてゆっくりと
育っていくものだ。
急いで卒業することは無いんだよ」
と言って貰えたので、
僕は卒業資格はあるけれど、
18歳になるまでは、
好きな時に学院に通うことが
できるようにはなっている。
そんなわけで僕は体調が良い時は
たまに学院に行くけれど、
親しい友人がいるわけもなく
屋敷に引きこもりがちだ。
そんな僕は、久しぶりに
屋敷にいた兄に
呼び出されていた。
普段は家にいるはずのない
昼間の時間で、僕は首を傾げて
兄の部屋へと向かう。
僕と兄は、父譲りの水色の髪で、
瞳は兄は青、僕は緑色だった。
これは互いの母譲りらしい。
僕は水色の髪と緑の瞳で
うすぼんやりとした印象でしかないが、
兄は違う。
きりりとした深い青い瞳に
見つめられると、心がシャキっと
してしまう。
遠くから見たら、
厳しくて怖くて、キツイ印象に見えるが
でも僕は、この兄が僕には甘く、
優しいのも知っている。
兄の部屋にノックして部屋に入ると、
冷たい印象の兄の瞳が、
僕を見るなり甘くなる。
そして兄は僕を促し、
ソファーに座らせた。
僕は少し緊張しながら兄を見る。
何故なら、兄の様子が
いつもとは違ったからだ。
甘い瞳は同じだけれど、
いつもなら両手を広げて
抱きしめてくれるし、
なんなら僕を抱き上げて
ソファーに座らせてくれるのに。
兄はどこか、緊張しているような、
固い空気が見え隠れしている。
これは、と僕は思った。
僕はまだ15歳だけれど、
兄は違う。
父がそろそろ当主交代をして
母と領地でのんびり過ごしたいと
言っているのも聞いていた。
もしかしたら兄が当主になる話かもしれない。
そう思うと、自然に背筋が伸びる。
僕はどうなるのか。
学院にも通えない病弱な僕。
こんな僕では、学力は有っても
文官として城に出仕などできないし、
お荷物でしかない。
両親と一緒に領地に行けと言われるのか、
バーンズ侯爵家と他家とを繋ぐために
政略結婚するように言われるのか。
僕の場合、婿に行くことも
想定できるし、嫁になることも可能だ。
貴族は持っている爵位を手放すことはできても
新たに手にすることはできない。
よほどの功績がなければ、新たな爵位を
授かることなどできないのだ。
つまり爵位は、長男にしか
継ぐことができない。
次男以下は、どこか爵位のある貴族に
婿に入らなければ平民になるしかないのだ。
自分の息子を平民にしたくないと
考える者は数多くいる。
そして次男が平民になったとしても、
援助はできるが、その孫までになると
どうなるかわからない。
そう言った意味で、
次男以降の貴族子息は
子どもをつくらないと言う意味で
同性婚を考える貴族も多くいる。
また、共同事業などで
家同士の結びつきが必要な場合は
臨時契約のような形で
同性婚もありえる。
これは離婚ありきの契約結婚だが
通常の契約よりも婚姻を結ぶ方が
家門にとって有利だと
判断された場合は、長男以外の
弟妹達は家長の判断で同性と結婚することもあるようだ。
それは高位貴族であれば
あるほど、その考え方は強いと
家庭教師からは学んでいる。
つまり家庭教師は、
俺は婿に行くだけでなく
嫁になる可能性もあるのだと
教えてくれたのだ。
具体的には、婿も嫁も
何をするものなのかは
教えて貰えなかったので、
今の僕に婿や嫁ができるのかは
謎でしかないけれど。
でも僕は大好きな兄のためなら
どんなところにでも行くつもりだ。
だって僕にはそれぐらいしかできないから。
「エレ」
兄が僕を呼ぶ。
「はい」
「婿を取るか?」
聞き間違えただろうか。
「兄さま? なんて?」
婿に行くか?の間違いだよね。
「婿を取って、この侯爵家を継ぐか?」
言葉は聞こえたけれど、
意味を理解することができない。
「エレ?」
僕の様子を見た兄様が
僕の隣に座った。
僕の手を取り、
いつも見値に優しく笑う。
「その方がいいと思う。
エレもそう思うよな?」
兄様に優しく言われると
僕は反射的に頷いてしまう。
だってずっとそうだったから。
「はい、兄さま」
「うん。エレはいい子だな」
頭を撫でられると嬉しくなる。
甘やかされるのは好き。
だって、兄は僕が甘えると
嬉しそうな顔をするから。
僕にできるのは、
甘えることぐらいだから。
僕がぎゅっと兄様の腰にしがみつくと
嬉しそうな笑い声が聞こえる。
「ほんとにエレはいい子だなぁ」
大丈夫。
ぜーんぶうまくいくからね。
何が「全部」で、どう「うまくいく」のか。
僕には何もわからなかったけれど。
僕は、はい、と頷く。
だって優秀な兄が言うのだから
本当に全部うまくいくに決まっている。
でも、婿を取るって、
僕は何をすればいいのだろう。
侯爵家を継ぐ?
わかんないことだらけで不安だけど
大丈夫……だよね?
僕にはこの優秀な兄様がいるもん……ね?
僕は沸き起こる不安を隠して、
今度も、うん、って頷いた。
だって僕、今まで兄様に
言われた通りにしていたから。
それ以外、どうすればいいのか
まったくわからない。
でも絶対大丈夫。
だって兄様の決定だもん……。
あれから5年経った今でも忘れたことはない。
僕は初めて、与えられた物以外のものを
自分で選んだ。
初めて選んだ本は、お姫様と騎士の本だった。
兄が騎士だったこともあって、
僕にとって騎士は憧れの存在だったのだ。
僕はバーンズ侯爵家の次男だけれど、
優秀だと胸を張れることは何もない。
それどころか小さく生まれたせいで
幼いころから良く熱を出して
寝込むことが多かった。
今は15歳になったけれど
貴族の子女は必ず行く
貴族学院にもあまり行くことが出来ず、
屋敷で日々を過ごすことが多い。
生まれた時から身体も小さく、
兄のように騎士になるのも無理だし、
かといって、侯爵家の次期当主は兄だ。
僕は自分の居場所が
無くなるのが怖くって、
勉強だけは頑張ることにした。
このままでは学院にも行けず、
何の知識も無い役立たずに
なることが怖かったのだ。
僕は父にお願いして
10歳のころから
家庭教師を付けて貰った。
何人もの家庭教師の人が
来たと思ったら数か月で辞めていく。
僕がダメダメだからだろうかと、
落ち込んでいた時、ある家庭教師が
僕に貴族学院の卒業試験を受けることを
勧めてくれた。
本来学院は14歳から18歳まで
通うものだ。
その時僕は14歳だったけれど、
体調を崩して学院は休みがちだった。
家庭教師は学院を休みがちのまま
数年過ごすより、
先に卒業資格だけ取得して、
あとは体調を見ながら
通学することを考えた方がよいと
提案してくれたのだ。
このままだと、
出席日数が足りなくて
進級できない可能性もある。
そうなると侯爵家としても
醜聞になるだろうと
この家庭教師は両親と兄、
それから学院にも話をしてくれた。
おかげで僕はあまり通えていない
貴族院の卒業資格を得ることができた。
とはいえ、学院長からは
「優秀な人材は学力だけでなく
時間を掛けてゆっくりと
育っていくものだ。
急いで卒業することは無いんだよ」
と言って貰えたので、
僕は卒業資格はあるけれど、
18歳になるまでは、
好きな時に学院に通うことが
できるようにはなっている。
そんなわけで僕は体調が良い時は
たまに学院に行くけれど、
親しい友人がいるわけもなく
屋敷に引きこもりがちだ。
そんな僕は、久しぶりに
屋敷にいた兄に
呼び出されていた。
普段は家にいるはずのない
昼間の時間で、僕は首を傾げて
兄の部屋へと向かう。
僕と兄は、父譲りの水色の髪で、
瞳は兄は青、僕は緑色だった。
これは互いの母譲りらしい。
僕は水色の髪と緑の瞳で
うすぼんやりとした印象でしかないが、
兄は違う。
きりりとした深い青い瞳に
見つめられると、心がシャキっと
してしまう。
遠くから見たら、
厳しくて怖くて、キツイ印象に見えるが
でも僕は、この兄が僕には甘く、
優しいのも知っている。
兄の部屋にノックして部屋に入ると、
冷たい印象の兄の瞳が、
僕を見るなり甘くなる。
そして兄は僕を促し、
ソファーに座らせた。
僕は少し緊張しながら兄を見る。
何故なら、兄の様子が
いつもとは違ったからだ。
甘い瞳は同じだけれど、
いつもなら両手を広げて
抱きしめてくれるし、
なんなら僕を抱き上げて
ソファーに座らせてくれるのに。
兄はどこか、緊張しているような、
固い空気が見え隠れしている。
これは、と僕は思った。
僕はまだ15歳だけれど、
兄は違う。
父がそろそろ当主交代をして
母と領地でのんびり過ごしたいと
言っているのも聞いていた。
もしかしたら兄が当主になる話かもしれない。
そう思うと、自然に背筋が伸びる。
僕はどうなるのか。
学院にも通えない病弱な僕。
こんな僕では、学力は有っても
文官として城に出仕などできないし、
お荷物でしかない。
両親と一緒に領地に行けと言われるのか、
バーンズ侯爵家と他家とを繋ぐために
政略結婚するように言われるのか。
僕の場合、婿に行くことも
想定できるし、嫁になることも可能だ。
貴族は持っている爵位を手放すことはできても
新たに手にすることはできない。
よほどの功績がなければ、新たな爵位を
授かることなどできないのだ。
つまり爵位は、長男にしか
継ぐことができない。
次男以下は、どこか爵位のある貴族に
婿に入らなければ平民になるしかないのだ。
自分の息子を平民にしたくないと
考える者は数多くいる。
そして次男が平民になったとしても、
援助はできるが、その孫までになると
どうなるかわからない。
そう言った意味で、
次男以降の貴族子息は
子どもをつくらないと言う意味で
同性婚を考える貴族も多くいる。
また、共同事業などで
家同士の結びつきが必要な場合は
臨時契約のような形で
同性婚もありえる。
これは離婚ありきの契約結婚だが
通常の契約よりも婚姻を結ぶ方が
家門にとって有利だと
判断された場合は、長男以外の
弟妹達は家長の判断で同性と結婚することもあるようだ。
それは高位貴族であれば
あるほど、その考え方は強いと
家庭教師からは学んでいる。
つまり家庭教師は、
俺は婿に行くだけでなく
嫁になる可能性もあるのだと
教えてくれたのだ。
具体的には、婿も嫁も
何をするものなのかは
教えて貰えなかったので、
今の僕に婿や嫁ができるのかは
謎でしかないけれど。
でも僕は大好きな兄のためなら
どんなところにでも行くつもりだ。
だって僕にはそれぐらいしかできないから。
「エレ」
兄が僕を呼ぶ。
「はい」
「婿を取るか?」
聞き間違えただろうか。
「兄さま? なんて?」
婿に行くか?の間違いだよね。
「婿を取って、この侯爵家を継ぐか?」
言葉は聞こえたけれど、
意味を理解することができない。
「エレ?」
僕の様子を見た兄様が
僕の隣に座った。
僕の手を取り、
いつも見値に優しく笑う。
「その方がいいと思う。
エレもそう思うよな?」
兄様に優しく言われると
僕は反射的に頷いてしまう。
だってずっとそうだったから。
「はい、兄さま」
「うん。エレはいい子だな」
頭を撫でられると嬉しくなる。
甘やかされるのは好き。
だって、兄は僕が甘えると
嬉しそうな顔をするから。
僕にできるのは、
甘えることぐらいだから。
僕がぎゅっと兄様の腰にしがみつくと
嬉しそうな笑い声が聞こえる。
「ほんとにエレはいい子だなぁ」
大丈夫。
ぜーんぶうまくいくからね。
何が「全部」で、どう「うまくいく」のか。
僕には何もわからなかったけれど。
僕は、はい、と頷く。
だって優秀な兄が言うのだから
本当に全部うまくいくに決まっている。
でも、婿を取るって、
僕は何をすればいいのだろう。
侯爵家を継ぐ?
わかんないことだらけで不安だけど
大丈夫……だよね?
僕にはこの優秀な兄様がいるもん……ね?
僕は沸き起こる不安を隠して、
今度も、うん、って頷いた。
だって僕、今まで兄様に
言われた通りにしていたから。
それ以外、どうすればいいのか
まったくわからない。
でも絶対大丈夫。
だって兄様の決定だもん……。
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