長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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22・赤ちゃんの作り方

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 その日、僕は学院を休んだ。
体調が悪いからでは無くて、
ガイと一緒に、バーンズ侯爵家のことを
学ぶための一日だからだ。

 今日の先生は執事のセバスチャンだ。
この王都の屋敷にいて、
使用人たちの指揮をしているのが
執事のセバスチャンで、
領地のことも良く知っているらしい。

僕に領地のことを教えてくれた
家庭教師の先生は、セバスチャンの
元教え子だったらしくて、
僕に3か月ぐらい勉強を
教えてくれた後に、
「この後はセバスチャン先生に
教えて貰ってください」と言って
家庭教師を辞めてしまったんだ。

その時は僕があまりにも
不出来だから先生が辞めて
しまったんだと落ち込んだけれど。

セバスチャンは執事だし、
僕の出来が悪くても
辞めたりはしないと思う。

それにガイも一緒だし。

ついでに言うと、領地の屋敷には
家令がいて、僕は会ったことが
無いんだけれど、執事の仕事だけでなく
父の仕事の手伝いもしているみたい。

僕は王都で生まれて、
ずっと屋敷にいるから
領地にも行ったことがない。

だから一度は行ってみたいんだ。

いつかガイと一緒に行けたらいいな。

 僕はガイが屋敷に来る前に
セバスチャンと領地の勉強を
始めていた。

ガイは休日のはずなのに、
第二殿下の仕事を手伝わなければ
ならなくなったとかで、
午後から屋敷に来ると連絡があったんだ。

凄いよね、殿下直々に
仕事を頼まれるなんて。

 今朝はガイが来る午後までは
ブレイトン公爵夫妻に、
つまりガイの両親に会う時の
挨拶の方法をセバスチャンに
教えてもらっている。

僕はもうすぐブレイトン公爵家に
顔合わせに行くことが決まっている。

社交界に出たことが無い僕でも
公爵家の方がバーンズ侯爵家より
爵位が高いことは理解している。

それに義理の両親になるのだから
出来れば仲良くなりたい。

兄はブレイトン公爵夫妻を招待して
バーンズ侯爵家で顔合わせすればいい、
なんて言うがそうはいかないと思うんだ。

僕は社交界にデビューもしてないし、
貴族の作法に関しては、
知識はあるけれど、
実地は経験がない。

それに挨拶の仕方や、
お辞儀の仕方なんかは
公の場以外では、
最低限のマナーさえ気を付ければ
あとは臨機応変らしいのだ。

臨機応変というのは、
経験があるからできることで、
僕にそれができるとは思えない。

だからこそ僕はセバスチャンに
挨拶の言葉やお辞儀をする際の
首の角度、言葉遣いを
改めて教えて貰っているのだ。

「ぼっちゃまは、もう誰よりも
素晴らしいご子息ですよ」

セバスチャンが穏やかな顔で言い、
僕を椅子に座らせた。

「お疲れになったでしょう。
今、お茶を入れますゆえ」

確かにお辞儀の練習をしていたので
疲れたし、汗もかいたけれど、
たったこれだけのことで
体力が無くなる自分が口惜しくもある。

セバスチャンが冷たいお茶を
いれてくれたので僕は
それに口を付けた。

「ねぇ。セバス」

「はい、ぼっちゃま」

「僕、もっと元気にならないかな」

そういうとセバスチャンは
少し困ったような顔をした。

そうだよね。
元気になれるんなら
とっくになってるか。

僕が諦めた顔をしたのがわかったのか、
セバスチャンは僕に優しく、
ゆっくりと話しかけた。

「このセバスが思うに、
今すぐ元気に、というのは
難しいかと存じます。

ですが、今、ぼっちゃまは
前よりもずっと動けるようになり、
歩く距離も長くなりました。

貴族院に通う日数も、
以前と比べて段違いになっております」

……確かに、って僕は思った。

「急がれなくても大丈夫でしょう。
ぼっちゃまは、今よりも、
1か月後、半年後、1年後と、
ますますお元気になられますよ」

「そう、かな。
そうだったらいいな」

セバスチャンにそう言われたら
なんだかそんな気がして、
僕は笑った。

そうだ。
今なら聞けるかな?

「もう一つ、聞いてもいい?」

「もちろんでございます」

「赤ちゃんってどうやったら生まれるの?」

普段動揺する仕草を見せたことが無い
セバスの動きが、一瞬、止まった。

「セバス?」

どうしたの?と聞くと
セバスは、いえ、と短く答えた。

「ティーナがね、こういうことは
他人に聞いたらダメだって言ってたけど。
セバスならいいかな、って」

だってセバスチャンは僕が赤ちゃんの
頃からずっと一緒にいるもん。

僕の家族みたいなものだ。
他人じゃない。

「それにね。
学院に通ってたら
自然にわかるかも、って
思ってたけれど、
無理そうでしょ?

だって跡継ぎ問題にかかわることだし」

僕が言うと、セバスは
僕の質問には答えなかった。

「自然にわかる、とは?」

質問したのに、
質問が返ってきてて僕は驚く。

こんなセバスチャンは初めてだ。

僕は戸惑ったけれど、
家庭教師に聞いた話をした。

大人になれば自然にわかる。

そう言われたけれど、
でも学ばないと自然にわかるなんて
無理だと思うんだ。

それに跡取りとか家督相続に
かかわることなのに、
学院で大っぴらに話をしたり、
学ぶと言うこともありえそうにない。

ティーナの話では、
本来なら家庭教師に教わる内容だと
言っていたけれど、
僕は学んでない。

それって僕には必要のない知識って
父が判断したってことになる……気がするけど。

そのこと関して、セバスは知ってることある?

って聞いたら、
セバスチャンはますます困ったように
眉をひそめた。

「もしかして、そのことと
ねやごと、ってことと関係してる?」

「ね、閨ですと!?
ぼっちゃま、どこでその言葉を
お聞きに……?

いえ、その意味を知ってしまったのでしょうか」

焦る声に驚いて、
僕は首を横に振る。

「意味は……わかんない。
でも、赤ちゃんに関係してるのかなって。
セバスは意味がわかるんだよね?」

僕がじっとセバスを見ていると、
セバスはポケットからハンカチを取り出した。

「ぼっちゃま、いつのまにか
成長されて、このセバスは
嬉しゅうございます」

涙を拭うような仕草をされて
僕は戸惑う。

「成長……かは、わかんない。
でも、セバス。
意味を知ってるなら僕に……」

教えて。
という前に、セバスチャンは
「ぼっちゃま!」といきなり声を大きくした。

僕はびっくりして口を閉ざす。

セバスが僕の言葉を遮るのも、
大きな声を出すのも初めてだった。

「それに関しては、
私は申し上げることができないのです」

驚いて固まる僕に、
セバスは申し訳なさそうな顔でいう。

「え? なんで?」

知らないじゃなくて、
言えないの?

「その、そのことは、
とても重大な意味を持つのです。

このバーンズ侯爵家の家督や
跡取りに関することにも
関わってくるような、
とても大切なことでございます。

ですので、それを口にできるのは
伴侶であるガイディス様か、
バーンズ侯爵家の当主である
旦那様が許可を与えた者でないと」

「そう、なんだ。
そうだよね。
当主と跡取りの問題だもんね」

僕は頷いた。

「ごめんね、変なこと聞いて」

「いいえ。
大丈夫でございます。

ただ、我々バーンズ侯爵家の
可愛らしい天使が、
随分と成長されたと
驚いてしまっただけでございます」

セバスはそう言い、
今度は温かいお茶を淹れてくれた。

「さぁ、もう少しお休みして、
ガイディス様が来られる前に
もう少しおさらいをしておきましょう」

セバスチャンはそう言って、
ブレイトン公爵の家系図を開いた。

話題に困らないように
家系図と、そこに乗っている人達の
特徴や趣味、それぞれの
家族関係などを覚えるのだ。

特にブレイトン公爵家は、
過去に王家の姫が降嫁していて
家系図がややこしい。

王家の家系図まで一緒に
覚えないとダメだし、
粗相があってはならない相手が多すぎる。

色々と覚えなければならないことを
思い出し、僕は意識を家系図に向けた。

そのせいで僕はセバスチャンに
赤ちゃんの話しや、ねやごとについて
色々聞いたことをすっかり忘れてしまっていた。

だからあたりまえだけれど。

その日の夜にはセバスチャンから兄に、
僕が色々質問したことが
報告されたことも、
僕には知る由も無かったのだ。

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