長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

文字の大きさ
12 / 132

12:初めてのクラスメイト

しおりを挟む
 僕はドキドキしながら学院に向かった。
馬車には護衛のケインが一緒に乗ってくれている。

ケインは背が高くて、
筋肉隆々、って感じの人だ。

茶色い髪は短く切っていて、
目も茶色い。

色合い的に優しい感じがするけれど、
いつも鋭い目つきで周囲を見ていて、
最初の頃はちょっと怖かった。

でも僕が頑張って声を掛けると、
きつい視線が緩んで、
目線を合わせて挨拶してくれた。

それで僕はケインが
良い人だって思ったんだ。

ガイもケインとは顔見知りみたいだ。

ケインにガイと知り合いかと
聞いてみたら、ケインは元騎士で
兄の部下だったと教えてくれた。

ケインは男爵家の長男だったけど、
ある伯爵家のお家騒動に巻き込まれ
家が没落してしまったらしい。

平民になってしまったら、
王宮騎士ではいられなくなる。

仕方なく騎士団に辞表を出したら、
兄がケインを侯爵家の護衛にと
声を掛けたのだという。

ケインはそのことを物凄く
感謝をしているみたいだった。

ケインは僕の専属護衛になったけれど、
正直僕は屋敷を出ることは
あまりないので、申し訳なく思っている。

だって屋敷でケインの出番と言えば
寝室以外の場所で疲れて眠ってしまった僕を
ベットまで運ぶ役目ばかりだもの。

そのことを以前、ケインに言ったら
逆に兄への感謝と、バーンズ侯爵家への
忠誠と、それから僕への騎士の誓いまで
怒涛のような言葉が返って来た。

それから、バーンズ侯爵家の騎士達は
きちんと休みも取れるし、
訓練する時間も勤務時間内に
割り当てられているので、
こんな良い職場は無い、と絶賛された。

一般的に、家門がそれぞれ抱える
私設騎士たちが定期的に
休みが貰えることは珍しいらしい。

訓練に関しても自己鍛錬の
範疇になってるから
訓練しようと思うと、
勤務時間以外にしなければ
ならないので、本当に大変なんだとか。

でもバーンズ侯爵家は抱える騎士の
数も多いから、定期的に休みはあるし
訓練場だってある。

そして訓練所の隣は、
ケインみたいな住み込みの
人が住む使用人棟もあって
そこで衣食住も提供してるから
ケインは感謝しかないと言うのだ。

ケインはガイと同じ年だけれど、
僕と同じように学院に通う
弟たちもいたらしい。

弟たちは貴族院に
通うことはできなくなったが、
ケインの給料で平民でも通える
学校に通うことができるように
なったそうだ。

学び続けることができれば、
将来、職に就く時にも有利になる。

ケインは給与のほとんどを
実家に仕送りしているみたいだけど
バーンズ侯爵家にいれば
お金を使う必要が無いから
本当に助かると言っていた。

僕は他家のことはわからない。

でも涙を浮かべて言うケインの話は
本当だと思うから、
僕は恵まれているのだと
その話を聞いて改めて思った。

バーンズ侯爵家の屋敷の外には
僕の知らないことが沢山ある。

僕は勉強だけはできると
思っていたけれど。

それはただの知識だ。

ケインみたいな境遇の人が
いることは知識では知っていた。

でも、実際にケインと会い、
話しをして、知識ではわからなかったことを
知れたような気がした。

僕にはもっと経験が必要なんだ。

だからこその、貴族院なんだけれど。

「緊張されていますか?」

ケインの言葉に、僕は頷いた。

「本当に久しぶりだから。
僕ね、本当は友だちが欲しかったんだ。

ガイの話を聞いたらね、
学校生活がとっても楽しそうだった」

「そうですね」
とケインは頷く。

よく考えたらガイとケインは同い年だから
貴族院でも同じ学年だったんだ。

「ただ我々の時代は荒っぽい気質の
生徒が多かったせいか、
喧嘩ばかりでしたよ。

生徒同士でも、教師と生徒とでも」

「え? 先生と? 喧嘩?」

「はい。
教師とどっちが強いか腕試ししたいと
言い出すバカが多くて、当時の教師たちも
大変だったでしょう」

しみじみとケインは言うけれど、
先生と喧嘩?
そんなことってある?

僕が驚いているうちに、
馬車は貴族院に着いた。

馬車が停まると先にケインが出て、
周囲を確認してから僕を
馬車から下ろしてくれる。

ケインの手を掴んで、
ゆっくりと馬車から下りると
何故か、キャーと言う声が聞こえた。

転ばないように足もとを見て
ステップを下りていたけれど
僕は顔を上げて声がした方を見た。

すると女生徒たちが集まって
僕を見ながら顔を真っ赤にしている。

「ねぇ、ケイン。
僕、今日はスカーフ型のネクタイにしたから
変なのかな?」

「いいえ、とてもお似合いですよ」

そうかな。
そうだといいけれど。

護衛は学院の入り口まで一緒にいれる。

だからケインに鞄を持ってもらって
僕は馬車停めの場所から
学院の入り口まできたのだけれど。

その途中でも女生徒たちだけでなく、
男子生徒までもが僕を見て、
顔を真っ赤にしたり、
なにやら囁き合ったりしている。

「ねぇ、ケイン」

「エレミアス様が素晴らしいので
噂しているだけでしょう」

……違うと思うけどな。

でもせっかく学院に来たのだから、
頑張って教室まで行こう。

無理だと思ったら途中で帰ればいいし。

朝の気合はすでに無くなり、
僕はしぼんだ気持ちでケインと別れることにする。

「じゃあ、ケイン。
僕が授業を受けている間は、
待機室にいてね」

「はい、お戻りをお待ちしております」

貴族院には基本的に学生以外は
立ち入り禁止になっている。

たとえ護衛であっても例外はない。

そのため従者や護衛が待機できる
待機室専用棟が、校舎の横に
隣接されている。

でも普通は長時間、従者や護衛が
その場所で待機することは無い。

だって授業を受けているから、
登下校時だけ護衛や付き添いがいればいいのだ。

でも、僕は別だ。

突然、屋敷に帰りたくなることもあるし、
体調が悪くなって帰宅を余儀なくされることもある。

とにかく、いつでも屋敷に戻れるように
待機室でずっと待っててもらう必要があるのだ。

もっとも、ケインが言うには
この待機の時間は休憩時間と同じだし、
待機室棟の庭で、訓練もできるので
長時間の待機になっても
問題ないと言ってくれている。

待機用の棟の中には侍従用の
カフェも併設されているので
長時間の待機でも飲食も問題ないらしい。

僕は久しぶりに鞄を持った。

だって屋敷で鞄を持つことなんてないし、
外に出る時は学院に来る時だけ。

つまり今はケインが荷物を持ってくれている。

久しぶりに持つ鞄は結構、重かった。

僕の表情でそれがわかったのだろう。

ケインは僕に手渡した鞄をもう一度
「エレミアス様、少しお待ちを」
と言って持ち上げる。

どうするのかと思っていると
ケインは近くにいた男子生徒の一人に声を掛けた。

「君、確かエレミアス様と同じクラスでしたね」

「え、あ、はい」

え? そうなの?

僕はケインが声を掛けた男子生徒を見た。

そういえば見たことがある気がする。

ケインは男子生徒を手招きし、
僕のカバンを手渡した。

「教室までエレミアス様の
カバン持ちをお願いします」

「え? え?」
男子生徒だけでなく、
僕も内心、大慌てだ。

「君の兄上である、ランドン子爵の
ご子息殿とは学院の頃、
とても懇意にさせてもらっていました。

子息殿はとても優秀な騎士であり、
信頼に足る人物だと思っております。

もちろん、その弟君も」

ケインの言葉に、彼は、はい!と大きな返事をした。

「お任せください。
僕も兄を尊敬しているんです」

「そうですか。
では、よろしくお願いします。

エレミアス様、そう言うわけですので
彼に鞄を持たせますね」

 いいのだろうか。
僕は戸惑うばかりだけれど、
ケインは満足そうにうなずき、
それでは、と頭を下げる。

僕を見送るつもりだ。

仕方なく僕は鞄を持ってくれる彼を見た。

「あの、ありがとう。
僕はエレミアス……です」

「もちろん、知っていますよ。
僕はライリーです。
ライリー・ランドン。

先ほど言われていたように
兄は騎士団に所属しています」

僕はライリーに促され、
ゆっくりと教室に向かう。

僕の姿が見えなくなるまで
ケインはここに留まるだろうから
とにかく教室に行かなくっちゃ。

ライリーはこげ茶色の髪に、
ミルクティーみたいな色の瞳をしていた。

兄は騎士で、自分も騎士を
目指していると言うけれど、
優しそうな顔立ちで、
僕の周囲にいる騎士たちとは全然違う。

でも、真面目な人だと思う。

だって僕のカバンをいきなり渡され、
教室に連れていけ、なんて言われたのに
親切に僕をエスコートしてくれるし、
僕が転んだりしないか、
疲れてないかと、何度も声をかけてくれる。

教室に行くだけなのに、
そんなに心配しなくても
大丈夫だと思うけれど、
屋敷内の過保護の皆のことを考えると
これぐらいば僕には普通なのかもしれない。

だって、ちょっと階段を上っただけで
息切れしてしまって、
階段の踊り場で休憩しちゃったんだもの。

「今の教室は2階ですから。
まだ時間もあるので、
ゆっくり行きましょう」

とライリーは言う、

「ごめんね、僕、あまり体力無くて」

そう言うとライリーは首を振る。

「いいえ、エレミアス様のことは
いつもクラスで話題になってるんです」

え?僕のこと?
僕は驚いた。

あまりにも学校に来ないやつだと
噂されてるんだろうか。

「エレミアス様はお身体が弱いのに
無理をして学院に通われる姿は
尊敬に値すると」

「え?」

今度は驚きのあまり声が出てしまった。

「すでに必要な学習は終え、
卒業資格も得ていると聞いています。

それでも勉強したいと言う意欲で
こうやって学院に来られている。

けれど、授業に参加した後は、
必ず、何日も休まれるので、
無理して登校されたからではないかと
クラス全員で心配していたのです」

「心配? 僕を?」

「はい。クラスメイトですから」

僕は目を見開いた。

なんか、思ってたのと違う……。

もしかして僕、ライリーと
友だちになれるかも?

ううん。
クラスの皆とおしゃべりできるかもしれない。

僕は急に嬉しくなって、
息を整えると「行こう」と
足を踏み出した。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない

深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。 聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。 ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。 ――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。 何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。 理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。 その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。 ――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。 傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

薄紅の檻、月下の契り

雪兎
BL
あらすじ 大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。 没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。 しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。 鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。 一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。 冷ややかな契約婚として始まった同居生活。 だが、伊織は次第に知ることになる。 鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。 発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。 伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。 月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。 大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

断罪回避のために親友と仮婚約したはずが、想像以上に執着されていた。

鷲井戸リミカ
BL
ある日アーサーは、自分がネット小説の世界に転生していることに気が付いた。前世の記憶によれば親友のフェルディナンドは、悪役令息という役割らしい。最終的に婚約者から婚約破棄され、断罪後は国外追放されてしまうのだとか。 大事な親友が不幸になるのを見過ごすわけにはいかない。とにかく物語の主人公たちから距離をとらせようと、アーサーはフェルディナンドを自分の婚約者にしてしまった。 とりあえず仮婚約という形にしておいて、学園を卒業したら婚約を解消してしまえばいい。そう考えていたはずがアーサーのとある発言をきっかけに、フェルディナンドの執着が明らかになり……。 ハッピーエンドです。

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。 一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。 補習課題のペアとして出会った二人。 セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。 身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。 期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。 これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。

処理中です...