長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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16:俺の可愛い妖精

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 俺の妖精に友達ができたらしい。
俺以外の!

まぁ友だち第一号は俺だから
そこまで憤るほとのことではない。

いや違う。
俺は婚約者なのだ。

俺以外に親しい者ができても
それをとがめるほど
心が狭い人間ではない。

何せ俺は婚約者だからな!

だが、まさか、ヴァレンティーナ嬢が
妖精のクラスメイトだったとは。

俺のもとに可愛い文字で書かれた
妖精からの手紙が届いたのだ。

明日会うのに、なぜ手紙なのかと、
もしかして体調を崩したとか、
明日会えなくなった連絡なのかと
大慌てで封を開けたのだが。

いざ、手紙を読むと、
可愛らしい喜びにあふれた内容だった。

友達がたくさんできたと、
喜ぶ姿が目に浮かぶ。

それにヴァレンティーナ嬢と
仲良くなったきっかけが、
彼女から声をかけたというのなら、
ものすごく納得できる。

何せ彼女は、可愛い物好きだ。

俺の妖精など、可愛すぎて
こねくりたくなるほど
愛でたかったはずだ。

彼女は幼い頃、親戚の集まりで
俺の母に見込まれ、
我が家に行儀見習いに
きていたことがある。

学院に入る前のたった1年間
だけだったが、彼女の才能は
目に見張るものがあった。

カーテシーだけでなく
所作も美しく、才女でもあり
申し分のない女性だった。

当初、俺の母は彼女を俺の
婚約者にしたいと
考えていたぐらい、
彼女は年齢にそぐわず
完璧だった。

だが、完璧でないところが
1つだけあった。

それが、可愛い物好き、だ。

俺の両親の前では隠していたが
それ以外の場所では、
もうバレバレだった。

どんなに取り澄ましていても、
可愛いものを見た瞬間の目が、
全く隠せていなかったのだ。

俺がそれを指摘してから、
彼女は俺を目の敵にして
やたらと攻撃してきた。

今から思えば、頑張っている
年下の少女に指摘しては
ならないことだったと思う。

彼女も恥ずかしさもあり、
指摘した俺が憎さ100倍だったのだろう。

あまりの険悪な俺たちの様子に、
俺の母も婚約の話しはせず、
1年だけ彼女を預かった後は、
すぐに伯爵家に彼女を戻した。

だが、ブレイトン公爵家で
行儀見習いをしたということは
彼女にとっては箔がつく。

それに俺の母のお気に入り、という
称号も手に入れた。

おかげで次の社交界の女王は
ヴァレンティーナ嬢だと
社交界では噂されている。

もちろん、その次期女王の
異様なまでの可愛い物好きは
まだ社交界ではバレていない。

ただ、女傑の割には
可愛いものが好きなようだ、とは
言われているようだが。

俺は彼女が可愛いものが好きすぎて
拾った野良猫を構い過ぎて
ハゲを作ったことも知っているし、
部屋に入ったことはないが
鞄にいつも小さいぬいぐるみを
入れて持ち歩いていたことも
知っている。

ついでに言うと、
俺の母に叱られた時は
そのぬいぐるみに向かって
真剣に話しかけていた。

愚痴を言ったり、
甘えた声で話しかけたり。

それを聞いてしまったから
余計に俺は嫌われたのだろう。

あれから彼女も成長したし、
まさか俺の妖精に対して
あの時の猫のように
ハゲてしまうほど
構い倒してストレスを
感じさせることはないと思うが、
心配ではある。

だが社交界の次期女王と言われる
ヴァレンティーナ嬢が味方になるのは
今後、絶対に俺の妖精が
社交界に出るときに有利だ。

俺一人では守り切れないし、
貴族女性たちの中には、
さすがに団長殿も食い込めない。

そこにヴァレンティーナ嬢が
味方としていてくれれば、
これほど心強いことはないだろう。

俺は今日の夜にでも、
ヴァレンティーナ嬢に手紙でも
書いておくかと、そんなことを
考えながら、バーンズ侯爵家に向かった。

今日は朝から一日、
俺の可愛い妖精と一緒に過ごせる。

何といっても、俺の妖精は可愛い。

俺の妖精は可愛く、
愛らしく、そして甘え上手だ。

おそらくその甘え上手は
騎士団長のせいだと思う。

可愛く甘えた声で俺の名を呼び、
出会った当初は遠慮していたようだが、
俺と会うことに慣れてくると
物凄く距離が近くなった。

どれぐらいかと言うと、
庭を散歩していると
自然に腕に抱きついてきたり、
俺がエスコートしようと
差し出した手を握ってきたり。

気を許すと俺の膝に
自ら座ることもある。

それも自然に座ってくるので
俺は拒絶もできずに、
ただ体を固くすることしかできない。

すぐそばにバーンズ侯爵家の
執事であるセバスチャンが
目を光らせているので、
可愛い身体に触れることも
出来ない。

その上、俺を煽るかのように
無邪気な妖精がは、
俺の膝の上で菓子を食べたり、
「あーん」と言いながら
俺に菓子を食べさせようとするのだ。

最初の頃一度だけ、
あまりにも自然に
俺の膝の上に座るものだから
「膝に乗るのか?」と聞いたら、
「うん」と頷かれた。

うん、ってなんだ?

そんな返事でいいのか?

ただ、団長殿が屋敷に帰って来た時、
一緒にお茶を飲むことになったのだが。

その場でエレミアスが、
俺の可愛い妖精が、
何も言わずに、ちょこん、と
団長の膝に乗り、
甘えた様子でお菓子を食べさせて
もらっていたので、
あぁ、これか。と納得はした。

納得はしたが、これでいいのか?

屋敷の中なら良いのだろうが、
今後、成人をしたら
外の世界に出ることになる。

心配になってしまったが、
その不安を口にする前に
俺は団長殿の鋭い視線に
何も言わずに口を閉ざした。

それをどうにかするのが
お前の存在意義だろう、と
言われたような気がしたからだ。

命を懸けて守ると誓ったな、と
冷たくとがった視線で言われ
俺は、心の中で「もちろんです」と
誓って団長殿と視線を交わす。

可愛い妖精はそんな俺たちの
視線など気が付く様子もなく
「今度は兄様も食べて」と
小さなケーキを団長殿に勧めていた。

世俗を知らない俺の妖精は
本当に可愛い。

だが、この愛らしい妖精を
貴族社会の悪意や欲から
どうやって守ればいいのかと
会うたびに不安になる。

だからこそのヴァレンティーナ嬢だ。

彼女には俺と一緒に愛らしい妖精を
守ってもらうことにしよう。

そうだ、それがいい。

そう思って俺はバーンズ侯爵家の
屋敷の門をくぐったのだが。

その決意は俺の嫉妬で
すぐに崩れた。

中庭で妖精を愛でつつ
朝食を食べていたのだが、
「それでね、ティーナにリボンをあげたの」
という可愛い声に俺は固まった。

は?
ティーナ?
誰だ、それ。

ヴァレンティーナ嬢?
急にそんなに仲良くなった?

は?

え?

他のクラスメイトにもリボンをあげた?

俺の可愛い妖精と同じ目の色の?
俺の妖精が身に着けたリボンを?

「ガイ? どうしたの?」

俺の返事が無くなったからか、
俺の前でお茶を飲んでいた妖精が
立ち上がったかと思うと、
ちょこん、と俺の膝に乗って来た。

すぐ目の前に、可愛い顔がある。

「もしかして、ガイもリボンが欲しかった?
そうだ。僕のリボンにね、
ガイと同じ目の色のリボンがあるだ。
ガイにも付けてあげる」

いや、俺が欲しいのは……

「ぼっちゃま、失礼致します」

急にセバスチャンが声をかけてくる。

すぐそばには侍女のアンナが
底の浅い大きな箱を持って立っていた。

「ガイディス様は坊ちゃまと同じ色の
リボンをご所望のようでございます」

「僕と同じ?」

「はい、いつもぼっちゃまを
身近に感じていたいのでしょう。

それななのにご学友に
先を越されて嫉妬されておいでなのです」

そうなの?
と、俺の顔を見る妖精の顔を
恥ずかしくてまともに見れない。

何故、そういうことを
暴露するのか、とうらめしく思う。

だがこういう人の感情の動きを
知らない妖精が俺の態度を
勘違いする可能性を考えると
伝えて貰って良かったとも思う。

俺が自分で嫉妬しただの、
そんなことを言えるはずもなく、
ヘタすれば、すれ違いが
起こっていたかもしれない。

「ガイは僕と同じだと嬉しい?」

膝の上で甘えたように言われ、
俺はブンブンと首を縦に振る。

「じゃあねぇ」と妖精が
アンナを見ると、彼女がテーブルの
上に箱を置き、蓋を開けた。

箱の中にはリボンやタイピンが
ずらりと並んでいる。

どう見ても、どれも高級品だ。

「みんなにあげたのはね、
持ってたけど、あまり使ってなかった
リボンなんだよ。

ここにあるのは、父様や母様、兄様、
それからガイが僕にくれたもの。

大事なリボンばかりなんだ」

そう言われて良く見ると、
確かに俺が贈ったものもある。

「あとね、自分で選んだものもあるの」

自分で何かを選ぶことは苦手だと
いつも言っていたが、
それでも何点かは選んだものがあると言う。

「ほら、これとか」

緑色のリボンだったが、金色の糸で縁取りがしてある。

「これね、僕の目の色と、ガイの目の色が
一緒になったみたいでしょ?」

確かに、って思う。

「僕ね、これを見た時、
ガイと一緒に付けたいって思ったんだ」

なかなか言い出せなかったんだけど、と
そう言って妖精はリボンを手に取ると、
くるりと丸めてリボンを花の形にした。

「同じリボンがもう1つあるから、
ガイ、お揃いで一緒のリボンを付けよう」

「お、お揃い……」

甘美な言葉に俺は心が震える。

「あのね、僕、もうすぐ成人して
社交界のデビューもするでしょ?

本で読んだよ。
デビューは婚約者とお揃いの衣装で
一緒に夜会に出るって」

だからお揃い、って笑顔で言われて
俺は妖精の前に跪きたくなった。

だが俺の膝には可愛い妖精が座っているから
それは無理だ。

その代わり俺は妖精をぎゅっと抱きしめる。

はぁ、可愛い。

「ぼっちゃま」

おさわりは禁止だと言わんばかりに
すぐにセバスチャンの厳しい声がして、
俺は仕方なく手を離す。

「そろそろお茶を入れ直しましょう。
よければそれまで、
ガイディス様にお庭を案内されては?」

「そうだね、行こう」

妖精が俺の膝から下りてしまった。

「あのね、綺麗な花が咲いたの」

そう言われては、行かないわけにはいかない。

だが俺の胸には妖精の花が咲いている。

俺は誇らしく感じて、
エスコートをすべく妖精に手を差し出した。

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