長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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28:妖精ご乱心・2

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 僕が驚いて動きを止めると
ティーナが驚いたように声を挙げた。

「まぁ、マックス様!
ここはレディの部屋でよ。

勝手に入ってくるなんて
無作法ですわ」

「でも、私の可愛いヴァレが
男と私室で会うと聞いては
黙っていられないだろう?」

少しトゲのある声に僕はびっくりした。

「え、エレ様、
彼はその、私の婚約者ですの」

「ティーナの?」

「はい。
私はヴァレンティーナの婚約者、
ロックウエル伯爵が次男、
マックスと申します」

どうぞお見知りおきを、
と頭を下げられて、
僕はものすごく焦った。

兄やガイの知り合いでもなく、
クラスメイトでもなく、
なんの繋がりもない
初対面の人と話すのは初めてだ。

「ぼ、ぼ、僕……」

思わず持っていたウサギを
ティーナにずい、っと差し出した。

「獅子の子を抱っこしてる
ウサギさんは可愛いと思って!

ティーナに見せてあげたいって」

うる、ってなった。

「まぁ、エレ様、
確かに可愛らしいですわ」

うるって涙が浮かんだ僕の手を
ティーナが握ってくれた。

そして僕の手を引き、
ソファーに座らせてくれる。

「エレ様、大丈夫ですわ。

マックス様は悪い方ではありませんし、
ここで話をしたことも
口外はいたしませんわ」

ですわよね? とティーナが
マックスを見ると、マックスは
笑いをこらえたような顔でうなずいた。

「ね、エレ様、。
マックス様は怖くはありませんわ。
私の婚約者ですもの」

そう言われて、僕はもう一度、
マックスを見た。

兄ほどじゃないけれど、
整った顔立ちをしている。

明るい茶色の瞳は穏やかだったし、
口元には笑みも浮かべている。

でも、僕はライリーと
初めて会ったときみたいに、
「優しい人だ」とは思わなかった。

僕は勇気を出して自己紹介をする。

「初めまして。
エレミアス・バーンズです。
その、急に来てごめんなさい」

「まぁ、なぜエレ様があやまりますの?」

ティーナはそう言ってくれたけれど、
僕は気が付いたんだ。

「だって今日は、ティーナが
大好きな婚約者さんと
遊ぶ日だったんでしょ?」

「大好きな婚約者?」

「だ、大好きですって!?」

二人の声が同時に聞こえた。

僕、また間違ってしまったんだろうか。

ティーナが顔を真っ赤にして僕を見ている。

「ご、ごめんね。
ティーナが大好きなのは
内緒だった?」

「わ、わ、わたくし、
大好きだなんて、エレ様に
一言も言ったことがないはずですわ」

さっきの僕と同じぐらい
涙目になってるティーナの
手を引いて、僕はティーナを
隣に座らせた。

そして頭をなでなでしてあげる。

「だって、ティーナは可愛いもの」

「え? え?」

「ティーナはね、
僕がガイの話をしたら
いつも婚約者さんのことを
話してくれるでしょ?

その時のティーナは、
ほっぺが赤くなって、
とってもかわいいんだ」

「そ、そ、そん、そんなこと
あ、ありませんわ」

「ふふ、今も可愛い」

なでなですると、
ティーナは、もう!と声を挙げる。

「私のことは良いんですの。
それより、エレ様ですわ。

急に私と話がしたいなんで、
何かありましたの?

あの朴念仁のことですわよね!」

ティーナの剣幕に、
僕は、ここに来た理由を思い出した。

でも、と僕はマックスを見る。

彼もいるのに、
こんな話をしてもいいのだろうか。

「エレ様、マックス様は大丈夫ですわ。
なんでもお話しになって。
必ず力になりますわ」

優しい言葉に、僕はまた
うる、っとしてしまう。

その時、部屋にノックがして
侍女がお茶を持ってきてくれた。

僕は侍女がお茶を入れて
部屋を出ていくまでの間、
呼吸を繰り返して何とか落ち着く。

勢いで出てきてしまったけれど、
僕はとても恥ずかしいことを
してしまったんじゃないかって
思ったんだ。

「ティーナ、ごめんね」

「なにがですの?」

「僕が急に来て、迷惑だった?」

「とんでもないですわ。
私とエレ様は親友ですもの。
いつでも頼ってくださいませ。

それに自分から屋敷を出るなど
今までしたことがないと
エレ様は言っていましたのに。

そんなエレ様が突然、
私に会いたいなどと、
それほどのことがあったのでしょう?」

そう言われ、確かに、って思う。

僕が自分から屋敷を出たいと思うなんて。
しかも兄の許可もなく、
勢いのまま出てくるなんて。

自分の行動力に驚いてしまう。

「さぁさぁ、エレ様。
お茶をお飲みくださいな。

それにお菓子も……まぁ、可愛らしい。
これはエレ様が?」

ティーナにつられてテーブルを見ると
お茶と一緒に僕が持ってきた
クッキーがお皿に並んでいる。

「そうなんだ。
ティーナが喜ぶと思って
アンナに言って作ってもらったんだ」

クッキーは、いろんな動物の形をしている。

ウサギやクマ、リスや獅子だってある。

ティーナは僕から手を離すと、
「嬉しいですわ」と笑った。

それから僕が抱っこしていた
ウサギのぬいぐるみを手にして
「こちらも可愛らしいですわ」という。

「うん、あのね。
ティーナにもらったこの子、
ほら、ガイと同じ服をアンナに作ってもらったの」

獅子の子は、僕が見たガイの騎士服と
同じものを着ている。

「まぁ、本当ですわ。
侯爵家の侍女は優秀ですのね」

ティーナは獅子の子を見て
そしてウサギを僕に返してくれた。

それから僕の正面の椅子に座る。

すでに正面のソファーには
マックスが座っていて、
ティーナは彼の隣に座ると
それで、と僕を見た。

「とっても可愛らしい子たちを
見せていただけて
とても嬉しいですけれど。

エレ様をこのように
傷つけた不届き者は、
いったい、どこのどなたですの?」

ピシャ、ってティーナの
背中に雷が落ちたのかと思った。

それぐらティーナの顔は怖かった。

僕はびっくりして、
思わずウサギさんを抱きしめたぐらいだ。

「ヴァレ、そんな顔をしたら
目の前の天使が怖がるよ」

「まぁ!
私はそんな怖い顔ではありませんわ」

ティーナはマックスに怒る。

その顔は拗ねたような、
とっても可愛らしい顔で。

僕はちょっとだけ、ほっとした。

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