長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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30:騎士様乱入

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 僕があわあわしていると、
また部屋にノックの音がした。

ティーナが声をかけると
扉が開き、執事らしき人が頭を下げる。

「お嬢様、お客様をお連れしました」

「お客様?」

とティーナが訝しげに言うが、
僕は執事の後ろに見える大きな体に
思わず立ち上がってしまう。

「ガイ」

僕はガイに会えたのが嬉しくて
ガイのそばに駆け寄った。

僕の様子を見て
執事は一礼して部屋を出ていく。

「ヴァレンティーナ嬢、
俺の可愛い妖精が世話になった」

ガイがティーナに頭を下げる。

「まったくですわ。
私の可愛いエレ様を傷つけるなんて
たとえ本家のご子息でも
許せませんわ」

「傷つける?
エレ、俺は傷つけてしまったのか?
すまない、俺が悪かった」

「……理由も聞かず、
君は謝罪するのかい?」

あきれたような声に
ガイは顔を上げる。

「マックス・ロックウエル!
なぜここに……いや、
ヴァレンティーナ嬢の婚約者だったな」

「あぁ、彼女との逢瀬を
君の天使に邪魔されてね」

やっぱり僕は邪魔しちゃったんだ。

と落ち込む前にティーナが言う。

「違いますわ!
エレ様、邪魔だったのは
マックス様のほうですわ。

エレ様と私は親友……そして同志。
ええ、同志ですわ。
そして心の友ですの」

ティーナが手を伸ばし、
僕の手を握ってくれる。

テーブル越しだったけれど、
僕はとても嬉しい。

「ありがと、ティーナ。
僕も、僕もティーナのこと、
親友だって思ってるよ。

だって僕、嫌な気持ちになったとき、
相談する相手はティーナしか
思い浮かばなかったもん」

「まぁ、まぁ、なんて可愛らしい!
さすが私の天使様」

「まて、ヴァレンティーナ嬢。
エレは俺の天使だ」

「何を言うの、朴念仁。
エレ様を傷つけたくせに」

そう言われ、ガイは僕の前に膝をついた。

「エレ、俺が悪かった。
そんなに傷つけてしまったなんて、
俺が悪いに決まっている。
どうか許してくれ」

ティーナから僕の手を奪い取り、
許しを請うようにガイは僕の手を
自分の額に押し当てた。

そこへまたノックの音がして
今度は侍女さんが新しいお茶を
持ってきてくれた。

全員分のお茶を淹れてくれたけれど、
ガイは僕の前で膝をついたままだ。

「ガイ、えっと、立って。
お茶を淹れてもらったよ」

僕はガイに握られている手を
握り返してガイを立ち上がらせる。

それからガイをソファーに座らせた。
僕はガイの隣に立ったまま
ティーナに声をかける。

「ティーナ、ガイを呼んでくれたの?
ありがとう」

「え? 私は何も……」

ティーナは首を振った。
じゃあ、セバスチャンが
知らせてくれたのだろうか。

「久しぶりだね、ガイディス殿」

マックスが親しそうに言う。

「ガイはマックスさんとお友達なの?」

「そうだよ。私の家も、
ブレイトン公爵家とは
付き合いがあってね。

まぁ、友達というほど仲良しでは
ないかもしれないが、
お互いに顔ぐらいは知っている仲なんだ」

友達でないけど、知ってる仲?
また【他人との距離】に関して
難しい言葉が出てきたぞ。

僕は顔をしかめてしまった。

「すまない、俺の妖精に
そんな顔をさせるなんて。
いったい俺の何が悪かったのか
言ってくれ」

ソファーに座り、
懇願するように僕の手を取る
ガイを前に、なんだか心の中に
あったモヤモヤは消えてしまった。

ガイはちっとも悪くないのに。

僕は「ガイは悪くないよ」と
ガイを見下ろした。

僕はまだ立ったままなので、
座っているガイを見下ろすことができる。

こういうのは新鮮だと思う。

だってガイはいつも
僕を先に座らせようとするから。

僕はしょんぼりと肩を落とした
ガイの膝に座った。

それからティーナに
したみたいに、ガイの頭を
よしよしってして、
ソファーに置いたままの
ウサギに手を伸ばす。

「ガイ、この子ね、
ティーナが作ってくれたんだよ」

可愛いよね、って
うつむくガイの顔を覗き込む。

「この獅子の子の服はね、
ガイの騎士の服を
まねして作ってもらったんだよ」

僕がそういうと、
ようやくガイは顔をあげて僕を見た。

「ガイがいなくても、
ガイと一緒にいるみたいでしょ?」

そういうと、ガイの顔があかるくなる。

「僕ね、ガイと会えなくなって
寂しくなっちゃったの。
ごめんね、ガイはお仕事なのに」

「い、いや、そんなこと…っ」

ガイはブンブンと首を振る・

「でもね、僕ね、寂しくて
悪い子になったと思ったけど、
違ったんだ。
成長だったんだよ」

マックスさんに教えてもらったんだ、っていうと、
ガイは、は? とマックスを見る。

「僕ね、だから頑張るね。
寂しくても頑張る。

だってね。僕が寂しくなったのって
ガイが大好きってことでしょ?」

「な、え? は?
かわっ。
かわいっ。

て、天使?」

「エレ様!」

ガイが顔を真っ赤にして
僕を抱きしめようとしてくれたのに、
急にティーナが僕を呼ぶ。

「なぁに?」

僕がティーナを呼ぶと
「エレ様、それはいけませんわ」と
ティーナが言う。

「ダメ? 何が?」

「なぜ朴念仁の膝に座ってますの?」

「……ダメなの?」

僕は首をかしげてしまう。

「当り前ですわ」

「でも僕、ガイと出会ってから
ずっとこうしてるよ?
兄様ともこうだし」

僕が言うと、ティーナは
ピシっと音がするかのように
顔をこわばらせた。

「え、えっと。
ダメだった?」

ティーナに聞くと
「そんなことないよ」と
マックスが返事をする。

「婚約者の距離なんだから
近ければ近いほどいい」

そう言ったかと思うと
マックスはティーナを抱き上げ
膝の上におろした。

「え? ど、どういうことですの?」

ティーナが、あわあわしている。

「ティーナ、どうしたの?
可愛い顔になってるよ」

顔を真っ赤にするティーナに
声をかけるとティーナは
「可愛くなどありませんわ!」って
目に涙を溜めた。

「そんなことないよ、
可愛いよ」

「あぁ、ヴァレは可愛い。
エレミアス殿はわかってらっしゃる」

マックスも僕がガイにしたみたいに
ティーナの頭をなでなでした。

なんだ、ティーナも
僕と一緒じゃないか。

僕がガイにしていることが
ダメだったのかと焦ってしまった。

「お膝に座ると安心するもんね」

って僕はティーナに同意を求めたのだけれど。

なぜかティーナは顔を真っ赤にしたまま
ぷるぷる震えていた。




 



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