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31:騎士様ご乱心
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エレミアスと会えない間、
俺は香水臭い令嬢たちに囲まれ
殿下の護衛をしていた。
正直、うんざりだった。
今すぐに騎士団をやめてもいいと
思ってしまうほどには、
気力が失われていた。
「君、どんどんやつれていくね」
俺の顔を見て第二殿下は笑うが、
それに歯向かう気力もない。
なにせ殿下のために集められたのは
高位貴族のご令嬢たちだ。
あの、妙に自尊心が高く、
他者を蹴落とし、
誰よりも条件の良い相手と
婚姻を結ぼうと日々、
笑顔で策略を練り、
戦っているご令嬢たちだ。
公爵家の俺に対しては
にこやかに笑っているが、
俺以外の下位貴族の騎士たちには
威圧的だし、わがままだし、
とにかく文句と愚痴ばかり言う。
しかも平等に殿下と1対1になる
時間を設けているというのに、
あの令嬢はひいきされている。
自分の時間より殿下と長く話している。
と、やたらと騎士たちに食って掛かってくるのだ。
それを諫めることができるのは
高位貴族の俺だけなので、
俺は日々、同僚の騎士たちをなだめ、
令嬢たちの文句を聞き、
「まぁ、まぁ」と腰を低くして
殿下と令嬢、そして騎士たちとの
摩擦を最小限に抑えている。
そんな日々が2週間だ。
もうやめる。
もう無理だ。
毎日そう思いながら日々を過ごしていた。
だが、それも今日までだ。
今日が見合いの最終日、
ようやくこの日がやってきた。
殿下は執務室の椅子に座り
手元の書類を見る。
今日会う令嬢たちの資料だ。
「結局さ、どの令嬢に会っても
印象は全員同じだったんだよねー。
この見合い、しなくてもよかったなぁ」
しみじみ、という殿下に
俺は猛烈に殺意を覚えた。
「そんなに怒らないでもいいだろ。
本心を言っただけなんだから」
と悪びれもせずに殿下は言うが、
本心だから何を言っても
構わないというわけではない。
俺が殿下を冷たい目で見ると、
まぁまぁ、と殿下は言う。
「わかってるんだけどね。
高位貴族の女性たちの考え方は
貴族らしい考え方だし、
それが大事だってこともね。
王子妃が君の可愛い
バーンズ侯爵家の天使のようでは
務まらないし、潰れてしまう。
そういう意味では、
どの令嬢も満点なんだけど」
僕にも好みがあるからなぁ、
なんて殿下は笑った。
「でもまぁ、今日で最後だし。
今日の見合いは午後からだろ。
いいよ、もう今日は
仕事をあがっても」
「は? いいんですか?」
「うん、だって君、
ものすごくやつれてるし、
そんな君じゃ、令嬢たちを
抑える役に立ちそうにないからね」
なんて言われたが、
怒る気にはなれない。
それどころか俺は
ありがたすぎて殿下を
拝んでしまいそうになる。
「はいはい。
感謝はもういいから。
君の可愛い婚約者のところに
もう行ってあげたら?
僕もちょっと意地悪だったかな、
って反省してるし」
「……反省、でしょうか」
「うん。だってさ。
僕はあの令嬢たちから
好きでもない伴侶を選ぶんだよ?
選ぶ基準は、王子妃に必要な
素質や要素をどれだけ持っているか。
僕の意見は関係ない。
でも君は、可愛い愛する人を
伴侶にするんだろ?」
意地悪ぐらいしたくならない?
なんて言われて、
俺は言葉に詰まる。
「でも、君の恋を応援してるのも
ほんとのことだから」
はい、仕事はこれで終わり。
と、パチンと両手をたたく殿下に
俺は深く頭を下げた。
「では失礼いたします」
殿下の前を辞して、
俺も素直に反省していた。
俺は婚約に対して浮かれていた。
だってあの可愛い妖精が
俺の伴侶になるのだ。
だが、殿下は違う。
殿下は何があっても、
恋愛はできない。
恋愛指南書をどんなに読んでも。
愛しいと思う人ができたとしても。
殿下は国のために、
王子妃にふさわしい相手と
結婚しなければならないのだ。
俺も配慮が足りなかったと思う。
反省しつつも俺は騎士団に戻り、
騎士服を着替えた。
まだ昼を少し過ぎたぐらいの時間だ。
まずは一度屋敷に戻り、
それから妖精に会いに行こう。
そう考えていた俺が
騎士団を出たところで、
早馬に出くわした。
騎士団への早馬なので
何事かと思ったが、
話を聞くと俺宛だった。
封筒にはバーンズ侯爵家の
家紋が入っており、
差出人はバーンズ侯爵家の
執事からだ。
団長と連盟かと思ったが、
あて名は俺一人の名が入っている。
俺は入れ違いにならなくて
良かったと手紙の封を開けた。
手紙は簡素に、
俺の妖精が一人で
外出してしまったと書いてある。
行先はロチェスター伯爵家。
そしてこの件は、
団長には内密に、と書いてある。
俺は、サーっと血の気が引いた。
団長には内緒なんてことできるのか?
いや、それ以前に、俺の可愛い
大事な妖精が外出だと!?
俺は大慌てで殿下のところに踵を返す。
妖精のことはもちろん心配だ。
だが、行先はヴァレンティーナ嬢の
ところだから、慌てることはない。
だが、そう、だが。
この件が。
バーンズ侯爵家の天使が、
団長殿の許可なく屋敷の外に
出てしまったのだ。
やばい。
やばすぎる。
バーンズ侯爵家に忠誠を
誓っているはずの執事が、
わざわざ団長に内緒で、
俺に早馬を送ってきたぐらいだ。
この件が団長に知られたら
大事になるに違いない。
俺は第二殿下の執務室に飛び込んだ。
「なんだ! 驚くじゃないか。
どうしたんだ?」
忘れ物か? などという第二殿下に
俺は大慌てで持っていた手紙を見せる。
それを読んだ途端、
殿下の顔色が真っ青になった。
「殿下、俺は今から
ヴァレンティーナ嬢のところへ
迎えに行ってきます。
このことは団長殿に
絶対に!
絶対に気が付かれないよう
ご配慮をお願いします!」
「え、いや、あ、うん」
勢いよく頭を下げたが、
殿下はものすごく嫌そうな顔をした。
だが、団長が怒ったときのことを
思い浮かべたのだろう。
顔色を悪くしたまま頷いた。
「それでは、俺はこれで」
殿下に団長のことを頼み、
俺は馬に飛び乗る。
俺の妖精が自ら屋敷を出るなんて!
いったいなにがあったんだ?
こんなことなら、
殿下の提案を断り、
今まで通り、時間が空くたびに
会いに行けばよかった。
俺が目を離したばっかりに!
俺は後悔をしながら
必死で馬を走らせた。
俺は香水臭い令嬢たちに囲まれ
殿下の護衛をしていた。
正直、うんざりだった。
今すぐに騎士団をやめてもいいと
思ってしまうほどには、
気力が失われていた。
「君、どんどんやつれていくね」
俺の顔を見て第二殿下は笑うが、
それに歯向かう気力もない。
なにせ殿下のために集められたのは
高位貴族のご令嬢たちだ。
あの、妙に自尊心が高く、
他者を蹴落とし、
誰よりも条件の良い相手と
婚姻を結ぼうと日々、
笑顔で策略を練り、
戦っているご令嬢たちだ。
公爵家の俺に対しては
にこやかに笑っているが、
俺以外の下位貴族の騎士たちには
威圧的だし、わがままだし、
とにかく文句と愚痴ばかり言う。
しかも平等に殿下と1対1になる
時間を設けているというのに、
あの令嬢はひいきされている。
自分の時間より殿下と長く話している。
と、やたらと騎士たちに食って掛かってくるのだ。
それを諫めることができるのは
高位貴族の俺だけなので、
俺は日々、同僚の騎士たちをなだめ、
令嬢たちの文句を聞き、
「まぁ、まぁ」と腰を低くして
殿下と令嬢、そして騎士たちとの
摩擦を最小限に抑えている。
そんな日々が2週間だ。
もうやめる。
もう無理だ。
毎日そう思いながら日々を過ごしていた。
だが、それも今日までだ。
今日が見合いの最終日、
ようやくこの日がやってきた。
殿下は執務室の椅子に座り
手元の書類を見る。
今日会う令嬢たちの資料だ。
「結局さ、どの令嬢に会っても
印象は全員同じだったんだよねー。
この見合い、しなくてもよかったなぁ」
しみじみ、という殿下に
俺は猛烈に殺意を覚えた。
「そんなに怒らないでもいいだろ。
本心を言っただけなんだから」
と悪びれもせずに殿下は言うが、
本心だから何を言っても
構わないというわけではない。
俺が殿下を冷たい目で見ると、
まぁまぁ、と殿下は言う。
「わかってるんだけどね。
高位貴族の女性たちの考え方は
貴族らしい考え方だし、
それが大事だってこともね。
王子妃が君の可愛い
バーンズ侯爵家の天使のようでは
務まらないし、潰れてしまう。
そういう意味では、
どの令嬢も満点なんだけど」
僕にも好みがあるからなぁ、
なんて殿下は笑った。
「でもまぁ、今日で最後だし。
今日の見合いは午後からだろ。
いいよ、もう今日は
仕事をあがっても」
「は? いいんですか?」
「うん、だって君、
ものすごくやつれてるし、
そんな君じゃ、令嬢たちを
抑える役に立ちそうにないからね」
なんて言われたが、
怒る気にはなれない。
それどころか俺は
ありがたすぎて殿下を
拝んでしまいそうになる。
「はいはい。
感謝はもういいから。
君の可愛い婚約者のところに
もう行ってあげたら?
僕もちょっと意地悪だったかな、
って反省してるし」
「……反省、でしょうか」
「うん。だってさ。
僕はあの令嬢たちから
好きでもない伴侶を選ぶんだよ?
選ぶ基準は、王子妃に必要な
素質や要素をどれだけ持っているか。
僕の意見は関係ない。
でも君は、可愛い愛する人を
伴侶にするんだろ?」
意地悪ぐらいしたくならない?
なんて言われて、
俺は言葉に詰まる。
「でも、君の恋を応援してるのも
ほんとのことだから」
はい、仕事はこれで終わり。
と、パチンと両手をたたく殿下に
俺は深く頭を下げた。
「では失礼いたします」
殿下の前を辞して、
俺も素直に反省していた。
俺は婚約に対して浮かれていた。
だってあの可愛い妖精が
俺の伴侶になるのだ。
だが、殿下は違う。
殿下は何があっても、
恋愛はできない。
恋愛指南書をどんなに読んでも。
愛しいと思う人ができたとしても。
殿下は国のために、
王子妃にふさわしい相手と
結婚しなければならないのだ。
俺も配慮が足りなかったと思う。
反省しつつも俺は騎士団に戻り、
騎士服を着替えた。
まだ昼を少し過ぎたぐらいの時間だ。
まずは一度屋敷に戻り、
それから妖精に会いに行こう。
そう考えていた俺が
騎士団を出たところで、
早馬に出くわした。
騎士団への早馬なので
何事かと思ったが、
話を聞くと俺宛だった。
封筒にはバーンズ侯爵家の
家紋が入っており、
差出人はバーンズ侯爵家の
執事からだ。
団長と連盟かと思ったが、
あて名は俺一人の名が入っている。
俺は入れ違いにならなくて
良かったと手紙の封を開けた。
手紙は簡素に、
俺の妖精が一人で
外出してしまったと書いてある。
行先はロチェスター伯爵家。
そしてこの件は、
団長には内密に、と書いてある。
俺は、サーっと血の気が引いた。
団長には内緒なんてことできるのか?
いや、それ以前に、俺の可愛い
大事な妖精が外出だと!?
俺は大慌てで殿下のところに踵を返す。
妖精のことはもちろん心配だ。
だが、行先はヴァレンティーナ嬢の
ところだから、慌てることはない。
だが、そう、だが。
この件が。
バーンズ侯爵家の天使が、
団長殿の許可なく屋敷の外に
出てしまったのだ。
やばい。
やばすぎる。
バーンズ侯爵家に忠誠を
誓っているはずの執事が、
わざわざ団長に内緒で、
俺に早馬を送ってきたぐらいだ。
この件が団長に知られたら
大事になるに違いない。
俺は第二殿下の執務室に飛び込んだ。
「なんだ! 驚くじゃないか。
どうしたんだ?」
忘れ物か? などという第二殿下に
俺は大慌てで持っていた手紙を見せる。
それを読んだ途端、
殿下の顔色が真っ青になった。
「殿下、俺は今から
ヴァレンティーナ嬢のところへ
迎えに行ってきます。
このことは団長殿に
絶対に!
絶対に気が付かれないよう
ご配慮をお願いします!」
「え、いや、あ、うん」
勢いよく頭を下げたが、
殿下はものすごく嫌そうな顔をした。
だが、団長が怒ったときのことを
思い浮かべたのだろう。
顔色を悪くしたまま頷いた。
「それでは、俺はこれで」
殿下に団長のことを頼み、
俺は馬に飛び乗る。
俺の妖精が自ら屋敷を出るなんて!
いったいなにがあったんだ?
こんなことなら、
殿下の提案を断り、
今まで通り、時間が空くたびに
会いに行けばよかった。
俺が目を離したばっかりに!
俺は後悔をしながら
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