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32:騎士様ご乱心・2
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馬でロチェスター伯爵家に飛び込むと、
さすがに門番は驚いたようだが、
俺が名乗るとすぐに屋敷に入ることができた。
ロチェスター伯爵とあいさつをして、
俺の妖精を迎えに来たと伝えると
すぐに侍女が案内してくれる。
案内された部屋に入ると
すぐに可愛い声が俺を呼んだ。
テトテトと可愛らしい
小走りで妖精が駆けてくる。
俺はその可愛らしい顔に
涙が浮かんでいることに気が付いた。
いったい何があったというのか。
とりあえず俺は、
ヴァレンティーナ嬢に
「俺の可愛い妖精が世話になった」
と礼を告げた。
礼儀として言っただけだが、
彼女はぷりぷりと怒った声を出す。
淑女として感情を出さないように
教育されているはずの彼女が
珍しいことだと思う。
ただそれだけこの場にいる
人間には気を許しているか、
それとも本気で怒っているのだろう。
「まったくですわ。
私の可愛いエレ様を傷つけるなんて
たとえ本家のご子息でも
許せませんわ」
その言葉に俺は眉を動かした。
「傷つける?」
可愛い妖精を傷つけたのは
まさか俺か?
いや、俺しか考えられない。
バーンズ侯爵家の使用人や、
団長が俺の妖精を傷つけることなど
あるはずがないのだから。
「エレ、俺は傷つけてしまったのか?
すまない、俺が悪かった」
俺は夢中で謝罪した。
俺から離れていくなど
言わないでくれ。
縋りつくように小さな手を
取ろうといたとき、
嫌な声が聞こえる。
「……理由も聞かず、
君は謝罪するのかい?」
まさか、と顔をあげると
マックス・ロックウエルがいた。
伯爵家の次男で、王宮に務めている。
文官肌で、騎士の俺とは
水と油のような存在だ。
一応、ブレイトン公爵家の分家筋で、
何度か顔を合わせたこともある。
こいつはずっとヴァレンティーナに
片思いをしていて、
俺が彼女の婚約者候補だった
ことがあるからか、
やたらと俺につっかかってくる。
やっとのことで婚約に
こぎつけたようだが、
それでも心配なのだろう。
優男のふりをして
ヴァレンティーナ嬢に
笑顔を振りまき、
媚びを売っている。
だが、腹の中は貴族らしく
真っ黒だし、文官らしく
策略が得意だ。
しかも、団長殿に
あこがれているというのだから
悪趣味すぎるだろう。
思わず何故ここに?と
聞いてしまったが、
嫌味な言葉が返ってくる。
余計なことを言うから
俺の可愛い妖精の顔が曇ってしまった。
だがすぐにヴァレンティーナ嬢が
フォローを入れる。
「違いますわ!
エレ様、邪魔だったのは
マックス様のほうですわ」
その言葉に、目に見えて
マックスの顔が青くなった。
優しい顔をして、
余裕ぶったふりをしているが
こいつも彼女に捨てられるのが
怖くて仕方がないのだ。
その彼女と妖精は手をつなぎ、
友情を確かめ合っている。
そう、友情だ。
友情であれば、俺は許す。
あの男のように、心は狭くないからな。
うむうむ、と頷いていると、
広い俺の心を揺さぶる言葉が
聞こえてきた。
「まぁ、まぁ、なんて可愛らしい!
さすが私の天使」
それはさすがに見逃せない。
友情でも駄目だ。
「ヴァレンティーナ嬢。
エレは俺の天使だ」
反論すると、
冷たい言葉が俺を刺す。
「何を言うの、朴念仁。
エレ様を傷つけたくせに」
その言葉に俺は膝をついた。
「エレ、俺が悪かった。
そんなに傷つけてしまったなんて、
俺が悪いに決まっている。
どうか許してくれ」
俺は妖精の小さな手を取り、
自分の額にその手を押し当てる。
騎士の誓いの仕草だ。
永遠に守るという誓いの証。
俺は真剣だったのだが、
間が抜けたようなノックの音がして
侍女がお茶を持ってきた。
俺は誓ったまま、
動くこともできない。
気まずい……。
俺の誓いは受け入れて
もらえたのだろうか。
侍女がお茶を淹れて
部屋を出ると、
「ガイ、えっと立って。
お茶を淹れてもらったよ」
と、可愛い声がする。
俺が顔を上げると、
小さな手は俺をひっぱり、
ソファーに座らせた。
俺は小さな手を握ったまま、
どうすれいいのかわからず
素直にそれに従った。
俺は小さな手を見つめ、
可愛らしい顔をそっと見る。
何やら話は進んでいるようだが
会話は聞こえてきても
俺には何の意味も持たなかった。
俺はマックスが何を言っているかより、
俺の妖精がこの手を離さないか、
それだけが心配なのだ。
俺が見ている前で、
可愛い顔がつらそうにゆがむ。
「すまない、俺の妖精に
そんな顔をさせるなんて。
いったい俺の何が悪かったのか
言ってくれ」
俺はさらに小さな手をつかみ、懇願した。
すると俺の妖精は
「ガイは悪くないよ」という。
そうだろうか。
もし俺が悪くないというなら
まだ俺のそばにいてくれるのか?
俺から離れていかないよな。
不安に満ちた俺の膝に、
ちょこん、と小さな体が乗った。
そして頭を撫でられる。
そしてほら、というように
ぬいぐるみを見せられた。
可愛い顔が落ち込む俺の顔を
覗き込んでくる。
「この獅子の子の服はね、
ガイの騎士の服を
まねして作ってもらったんだよ」
俺の……?
「ガイがいなくても、
ガイと一緒にいるみたいでしょ?」
つまり、俺とずっと
一緒にいたいってことか!?
俺の心にファンファーレが鳴る。
「僕ね、ガイと会えなくなって
寂しくなっちゃったの。
ごめんね、ガイはお仕事なのに」
なんだ、これ!
なんて可愛いんだ!
俺と会えないから、
拗ねていたのか?
どうしたらいい?
この可愛い存在を
どうしたらいんだ!?
わたわたしていると、
マックスの名前が出てきて
俺は一瞬、殺意を覚えたが。
「僕ね、だから頑張るね。
寂しくても頑張る。
だってね。僕が寂しくなったのって
ガイが大好きってことでしょ?」
ものすごい殺し文句に
俺は悶えた。
「な、え? は?
かわっ。
かわいっ。
て、天使?」
天使だろう!
妖精で天使だなんて
もう最高でしかない。
可愛すぎる!
俺は小さな体を抱きしめようとしたが
それをヴァレンティーナに邪魔をされた。
「エレ様、それはいけませんわ」
何を言う。
俺が妖精を抱きしめて何が悪い。
「なぜ朴念仁の膝に座ってますの?」
朴念仁は俺のことだな。
それこそ、何が悪い?
妖精が俺の膝に乗るのはいつものことだ。
出会った頃は可愛すぎて
俺も挙動不審になったが
いまでは通常運転だ。
「……ダメなの?」
ダメじゃないぞ、と
俺は声に出さずに返事をする。
だがヴァレンティーナは
俺とは逆の返事をした。
「当り前ですわ」
「でも僕、ガイと出会ってから
ずっとこうしてるよ?
兄様ともこうだし」
そうだ、そうだ。
人の恋路を邪魔するようなことを言うな。
可愛い妖精の前で
みっともないことはできないので
俺は心の中で反論する。
だが彼女の様子に俺の妖精は
戸惑った顔をする。
だが、まさかの援護射撃が
マックスから来た。
「婚約者の距離なんだから
近ければ近いほどいい」
それはきっと、
自分の欲望を満たすために
言っただけだと思うが。
マックスはそういうと
彼女を膝に乗せた。
案の定、ヴァレンティーナは
驚いてわたわたしている。
どんなに淑女教育を
受けているとはいえ、
いや、淑女教育を受けているからこそ、
このような密着など、
今までしたことがないのだろう。
彼女は顔を真っ赤にして
「ど、どういうことですの?」
と叫んでいる。
「ティーナ、どうしたの?
可愛い顔になってるよ」
俺の妖精が、こともあろうか
笑顔で彼女を褒め殺し始めた。
「可愛くなどありませんわ!」と
涙をためる姿を見て
俺は哀れに思ったが、
だからと言って止めるような真似はしない。
もし止めたら、
俺の妖精がもう膝に乗って
くれなくなるかもしれないからだ。
俺のために尊い犠牲になってくれ。
「あぁ、ヴァレは可愛い。
エレミアス殿はわかってらっしゃる」
マックスは、うっとりしたように言い、
ヴァレンティーナの髪を撫で始めた。
「お膝に座ると安心するもんね」
と可愛い声がする。
つまり俺の膝に乗るだけで
安心してくれているわけだな。
ロチェスター伯爵家に
俺の妖精を迎えに来てよかった。
俺は幸せをしみじみ噛みしめ、
ぬいぐるみを抱く妖精を
背中からそっと抱きしめた。
さすがに門番は驚いたようだが、
俺が名乗るとすぐに屋敷に入ることができた。
ロチェスター伯爵とあいさつをして、
俺の妖精を迎えに来たと伝えると
すぐに侍女が案内してくれる。
案内された部屋に入ると
すぐに可愛い声が俺を呼んだ。
テトテトと可愛らしい
小走りで妖精が駆けてくる。
俺はその可愛らしい顔に
涙が浮かんでいることに気が付いた。
いったい何があったというのか。
とりあえず俺は、
ヴァレンティーナ嬢に
「俺の可愛い妖精が世話になった」
と礼を告げた。
礼儀として言っただけだが、
彼女はぷりぷりと怒った声を出す。
淑女として感情を出さないように
教育されているはずの彼女が
珍しいことだと思う。
ただそれだけこの場にいる
人間には気を許しているか、
それとも本気で怒っているのだろう。
「まったくですわ。
私の可愛いエレ様を傷つけるなんて
たとえ本家のご子息でも
許せませんわ」
その言葉に俺は眉を動かした。
「傷つける?」
可愛い妖精を傷つけたのは
まさか俺か?
いや、俺しか考えられない。
バーンズ侯爵家の使用人や、
団長が俺の妖精を傷つけることなど
あるはずがないのだから。
「エレ、俺は傷つけてしまったのか?
すまない、俺が悪かった」
俺は夢中で謝罪した。
俺から離れていくなど
言わないでくれ。
縋りつくように小さな手を
取ろうといたとき、
嫌な声が聞こえる。
「……理由も聞かず、
君は謝罪するのかい?」
まさか、と顔をあげると
マックス・ロックウエルがいた。
伯爵家の次男で、王宮に務めている。
文官肌で、騎士の俺とは
水と油のような存在だ。
一応、ブレイトン公爵家の分家筋で、
何度か顔を合わせたこともある。
こいつはずっとヴァレンティーナに
片思いをしていて、
俺が彼女の婚約者候補だった
ことがあるからか、
やたらと俺につっかかってくる。
やっとのことで婚約に
こぎつけたようだが、
それでも心配なのだろう。
優男のふりをして
ヴァレンティーナ嬢に
笑顔を振りまき、
媚びを売っている。
だが、腹の中は貴族らしく
真っ黒だし、文官らしく
策略が得意だ。
しかも、団長殿に
あこがれているというのだから
悪趣味すぎるだろう。
思わず何故ここに?と
聞いてしまったが、
嫌味な言葉が返ってくる。
余計なことを言うから
俺の可愛い妖精の顔が曇ってしまった。
だがすぐにヴァレンティーナ嬢が
フォローを入れる。
「違いますわ!
エレ様、邪魔だったのは
マックス様のほうですわ」
その言葉に、目に見えて
マックスの顔が青くなった。
優しい顔をして、
余裕ぶったふりをしているが
こいつも彼女に捨てられるのが
怖くて仕方がないのだ。
その彼女と妖精は手をつなぎ、
友情を確かめ合っている。
そう、友情だ。
友情であれば、俺は許す。
あの男のように、心は狭くないからな。
うむうむ、と頷いていると、
広い俺の心を揺さぶる言葉が
聞こえてきた。
「まぁ、まぁ、なんて可愛らしい!
さすが私の天使」
それはさすがに見逃せない。
友情でも駄目だ。
「ヴァレンティーナ嬢。
エレは俺の天使だ」
反論すると、
冷たい言葉が俺を刺す。
「何を言うの、朴念仁。
エレ様を傷つけたくせに」
その言葉に俺は膝をついた。
「エレ、俺が悪かった。
そんなに傷つけてしまったなんて、
俺が悪いに決まっている。
どうか許してくれ」
俺は妖精の小さな手を取り、
自分の額にその手を押し当てる。
騎士の誓いの仕草だ。
永遠に守るという誓いの証。
俺は真剣だったのだが、
間が抜けたようなノックの音がして
侍女がお茶を持ってきた。
俺は誓ったまま、
動くこともできない。
気まずい……。
俺の誓いは受け入れて
もらえたのだろうか。
侍女がお茶を淹れて
部屋を出ると、
「ガイ、えっと立って。
お茶を淹れてもらったよ」
と、可愛い声がする。
俺が顔を上げると、
小さな手は俺をひっぱり、
ソファーに座らせた。
俺は小さな手を握ったまま、
どうすれいいのかわからず
素直にそれに従った。
俺は小さな手を見つめ、
可愛らしい顔をそっと見る。
何やら話は進んでいるようだが
会話は聞こえてきても
俺には何の意味も持たなかった。
俺はマックスが何を言っているかより、
俺の妖精がこの手を離さないか、
それだけが心配なのだ。
俺が見ている前で、
可愛い顔がつらそうにゆがむ。
「すまない、俺の妖精に
そんな顔をさせるなんて。
いったい俺の何が悪かったのか
言ってくれ」
俺はさらに小さな手をつかみ、懇願した。
すると俺の妖精は
「ガイは悪くないよ」という。
そうだろうか。
もし俺が悪くないというなら
まだ俺のそばにいてくれるのか?
俺から離れていかないよな。
不安に満ちた俺の膝に、
ちょこん、と小さな体が乗った。
そして頭を撫でられる。
そしてほら、というように
ぬいぐるみを見せられた。
可愛い顔が落ち込む俺の顔を
覗き込んでくる。
「この獅子の子の服はね、
ガイの騎士の服を
まねして作ってもらったんだよ」
俺の……?
「ガイがいなくても、
ガイと一緒にいるみたいでしょ?」
つまり、俺とずっと
一緒にいたいってことか!?
俺の心にファンファーレが鳴る。
「僕ね、ガイと会えなくなって
寂しくなっちゃったの。
ごめんね、ガイはお仕事なのに」
なんだ、これ!
なんて可愛いんだ!
俺と会えないから、
拗ねていたのか?
どうしたらいい?
この可愛い存在を
どうしたらいんだ!?
わたわたしていると、
マックスの名前が出てきて
俺は一瞬、殺意を覚えたが。
「僕ね、だから頑張るね。
寂しくても頑張る。
だってね。僕が寂しくなったのって
ガイが大好きってことでしょ?」
ものすごい殺し文句に
俺は悶えた。
「な、え? は?
かわっ。
かわいっ。
て、天使?」
天使だろう!
妖精で天使だなんて
もう最高でしかない。
可愛すぎる!
俺は小さな体を抱きしめようとしたが
それをヴァレンティーナに邪魔をされた。
「エレ様、それはいけませんわ」
何を言う。
俺が妖精を抱きしめて何が悪い。
「なぜ朴念仁の膝に座ってますの?」
朴念仁は俺のことだな。
それこそ、何が悪い?
妖精が俺の膝に乗るのはいつものことだ。
出会った頃は可愛すぎて
俺も挙動不審になったが
いまでは通常運転だ。
「……ダメなの?」
ダメじゃないぞ、と
俺は声に出さずに返事をする。
だがヴァレンティーナは
俺とは逆の返事をした。
「当り前ですわ」
「でも僕、ガイと出会ってから
ずっとこうしてるよ?
兄様ともこうだし」
そうだ、そうだ。
人の恋路を邪魔するようなことを言うな。
可愛い妖精の前で
みっともないことはできないので
俺は心の中で反論する。
だが彼女の様子に俺の妖精は
戸惑った顔をする。
だが、まさかの援護射撃が
マックスから来た。
「婚約者の距離なんだから
近ければ近いほどいい」
それはきっと、
自分の欲望を満たすために
言っただけだと思うが。
マックスはそういうと
彼女を膝に乗せた。
案の定、ヴァレンティーナは
驚いてわたわたしている。
どんなに淑女教育を
受けているとはいえ、
いや、淑女教育を受けているからこそ、
このような密着など、
今までしたことがないのだろう。
彼女は顔を真っ赤にして
「ど、どういうことですの?」
と叫んでいる。
「ティーナ、どうしたの?
可愛い顔になってるよ」
俺の妖精が、こともあろうか
笑顔で彼女を褒め殺し始めた。
「可愛くなどありませんわ!」と
涙をためる姿を見て
俺は哀れに思ったが、
だからと言って止めるような真似はしない。
もし止めたら、
俺の妖精がもう膝に乗って
くれなくなるかもしれないからだ。
俺のために尊い犠牲になってくれ。
「あぁ、ヴァレは可愛い。
エレミアス殿はわかってらっしゃる」
マックスは、うっとりしたように言い、
ヴァレンティーナの髪を撫で始めた。
「お膝に座ると安心するもんね」
と可愛い声がする。
つまり俺の膝に乗るだけで
安心してくれているわけだな。
ロチェスター伯爵家に
俺の妖精を迎えに来てよかった。
俺は幸せをしみじみ噛みしめ、
ぬいぐるみを抱く妖精を
背中からそっと抱きしめた。
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