長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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47・親子カメの騎士・2

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 俺は団長のことを
一瞬、考えたが、
すぐにまたセバスチャンの
声に集中した。

セバスチャンは言う。

「フェルナンド様は最初は
奥様のお腹に宿る命に
戸惑っておられる様子でした。

それは生まれてからも。

ですが、
フェルナンド様は兄として、
エレミアス様を守り、
支えることを
お選びになりました。

思えばフェルナンド様も
エレミアス様と接することで
愛情を知り、家族というものを
学んでいたのかもしれません。

旦那様も、フェルナンド様も
エレミアス様を中心に
人としての感情や愛情、
家族のつながりを学び、
成長されたのだと思います。

だからこそ、
バーンズ侯爵家は
エレミアス様を中心に回っているのです。

何ものもエレミアス様を
傷つけることがないように。

害する者を近づけないように。

実際に、エレミアス様の世界は
この屋敷の中だけでした。

旦那様は幼いころから
エレミアス様に家庭教師を
お付けになりましたが、
それは貴族学院に行かなくても
構わない、という
思いがあったからです。

この屋敷の中で、
守られ生きていければいい、
そうお思いになったのでしょう。

エレミアス様はその旦那様の
期待にそうように
勉学に励み、成長されました。

エレミアス様がこの
広大な屋敷の中で
行く場所といえば
自室とサロンだけ。

中庭に出ることさえ
ままならない状態で
ずっとお過ごしでございました。

そのサロンもまた、
旦那様がエレミアス様が
庭に出たいというので、
それならば、と作ったもの。

窓から見える中庭に
エレミアス様が実際に
足を踏み入れたのは、
エレミアス様が7歳を
過ぎたころでございました」

俺は純粋に驚いた。
病弱だと聞いていたが、
そこまでだったとは。

いや、バーンズ侯爵の
過保護ぶりの方が
すごいと言えばいいのか。

「そしてエレミアス様が
お庭を散歩するようになり、
またこのバーンズ侯爵家は
大きな変化が生まれたのです」

またか?
今度はなんだ?

「か弱く小さく生まれたエレミアス様が
おひとりで行動できることを知り、
旦那様も奥様も安心したのでしょう。

もちろん、そのころには
フェルナンド様も立派に
兄としてエレミアス様を
支え、守ることができております。

そこで旦那様は奥様を連れ
このタウンハウスから居を移し、
領地にこもるようになりました」

セバスチャンが目を伏せる。

「エレミアス様は戸惑ったことでしょう。

今まで常に愛情を一身に受け、
愛してくれていた両親が
いきなり領地に行ったまま、
帰ってこなくなったのです。

エレミアス様は旦那様たちが
年に数回、タウンハウスに戻ってくると
それはそれれは喜ばれて。

はしゃぎすぎて熱が出てしまうほどでした。

それなのに、またお二人が
領地に戻るというと、
けなげな笑顔でお二人を送り出して」

セバスチャンは言葉を詰まらせ、
ハンカチを取り出すと
そっと目頭を押さえた。

「そのころからでございます。

フェルナンド様が【兄】として
エレミアス様を人目もはばからず
甘やかし、過保護な行動を
するようになったのは」

セバスチャンの話では、
お茶の時間になると
膝に乗せたり、
頬にキスをしたり、
抱きしめたり。

そんなスキンシップが
激しくなったのは
その頃からだったらしい。

エレミアスは自分の身体が
弱いことを気にして
我が儘を言わない子どもだった。

だからこそ、
甘やかす必要があると
団長は使用人たちに
言っていたらしい。

「そしてぼっちゃまは、
この屋敷の中だけの、
狭い世界で大切に、
大切に育てられたのです。

私たち使用人一同、
誇りをもってお守りし、
何不自由なく、ぼっちゃまを
お育てできたと思っております。

ですが」

セバスチャンは間抜けな
親子カメ状態の俺に視線を向けた。

「この時間が止まったような、
狭い世界でぼっちゃまが生涯
過ごすのは無理だということは
わかっておりました。

それゆえに。
ぼっちゃまが外の世界を知った時、
優しい御心が壊れないか、
我々は心を痛めていたのでございます」

貴族学院に通うようになっても
エレミアスの生活に変化はなかった。

さほど学友との交流が
なかったからだろう。

だが、俺と言う人間が
エレミアスの守られた世界の
扉を開いてしまったのだ。

「我々はガイディス様をずっと
見ておりました。

本当にエレミアス様を
お守りできる方なのか。

バーンズ侯爵家の
秘宝とまで言われている
エレミアス様を心から
愛してくださる方なのか。

そして我々のぼっちゃまが
愛するに足る方なのか」

セバスチャンは俺に視線を向けた。

「あなた様は騎士団に所属しておられる。

フェルナンド様は騎士団長を務めておられ、
あなた様の上司になる。

その兄君様と対立することになっても、
あなた様は本当にエレミアス様を
我々のぼっちゃまを守ることが
できる存在であるのか、
我々は見極めておりました」

その言葉に俺は頷く。

見られていることには気が付いていた。

常に残念な姿ばかり
バーンズ侯爵家の使用人たちに
見られてはいたが、
それでもエレミアスに愛を乞う姿は
本物だと理解してくれているはずだ。

もちろん、エレミアスを
守るためであれば、
団長とも敵対できる。

……できればやりたくはないが。

セバスチャンは俺を見据えて言った。

「我々はバーンズ侯爵家に
忠誠を誓う者。

バーンズ家の意向に逆らうことはできません。

ですが、ガイディス様は違う。

どうぞ、ガイディス様のやり方で、
ぼっちゃまをお守りください。

外の世界を排除するのではなく、
ぼっちゃまに、本来の世界を、
この屋敷以外にも、素晴らしいものは
あるのだと、教えて差し上げてください」

それはこの屋敷に仕える者
すべての総意だという。

「この先、何十年もこのまま、
というわけにはいきますまい。

そうであれば、できるだけ
早く、ぼっちゃまには
外の世界を、本当の世界を
知るべきだと我々は思っております」

ただ、外の世界は危険もある。
それが心配だとセバスチャンはいう。

確かに外の世界は、
何も知らないエレミアスに
とっては、危険なことばかりだ。

俺が不能になる原因を作った社交界も
エレミアスがバーンズ侯爵家を
継ぐのであれば、今後、
関わり合いを持つ必要もでてくるだろう。

なにせ、エレミアスは可愛くて天使だ。

人を疑うことを知らないエレミアスは
格好の餌食だろう。

「ですが、私は思うのです。
その危険な世界を、
ぼっちゃまと一緒に歩き、
その背を支え、守る方となら、

ぼっちゃまは新しい世界を知り、
もっと喜びや愛にあふれた未来を
手に入れることができるのではないかと」

その為であれば、
お二人が結ばれることも、
我々は応援致します。

と、セバスチャンは頭を下げる。

俺はありがとう、と言ったが、
それはどういう意味かと
頭の中で反復した。

脳みそが沸騰していたので
素直に受け取ったのだが。

俺とエレミアスが結ばれる、
つまり結婚するのは当然のことだ。

これを応援されなければ
成しえないなど、ありえない。

となると……
結ばれる、とは、あれか?

ね、ね、閨のはなしか?

身も心も結ばれるとか、
そういう意味なのか!?

「とはいえ、今はまだ
婚姻前でございます。

おたわむれもほどほどに」

セバスチャンそう言うと
俺に視線を向ける。

そして
「食事の準備をして参ります。
準備ができたら
お声掛けいたしますので」
と部屋から出て行った。

最後にちらり、と俺を見た視線は
厳しいもので。

それ以上触れたら許しませんぞ、
と言われているようだった。

触れないぞ、触れないとも。

だが俺の昂る下半身と
沸騰した脳みそはどうしたらいい?

いや、とにかくこの可愛く
小さな体を俺の上からベットへ……

移動させねば、と腕を動かすと、
エレミアスが「ん」と声を出す。

ダメだ。
せっかく寝ているのに
動いたら起こしてしまう。

だが、このままでは俺の身がもたない。

どうすればーーーっ!

心の中で叫んだが、
もちろん、助けが来るはずもなく。

俺はエレミアスが目を覚ますまで
ただじっと、身体を強張らせることしかできなかった。



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