長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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50:溺愛の騎士様・2

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 貴族社会というのは、
恐ろしいところだ。

俺はそれを体感してきたし、
嫌悪感を感じて
今まではできるだけ避けてきた。

俺は次男なので公爵家を
継ぐことはない。

また騎士であれば、
積極的に社交界に
顔を出す必要はないと
今までは思っていた。

だが、貴族である限り
社交界に出ないわけには
いかないだろうし、

ましてや、これから
俺はバーンズ侯爵家に婿入りする。

今後はエレミアスを支えるためにも
積極的に社交界に参加する必要がでてきた。

座学が苦手な俺が、
領地経営などできるわけがない。

であれば、俺ができるのは
エレミアスを守ることだけだ。

社交界の毒婦たちだけでなく
令息たちだって油断ならない。

できるだけエレミアスが
社交の場に出ずに済むように
俺がなんとかしなければ。

今回の事件は、エレミアスに
会って浮かれていた俺に
かなりの打撃を与えてくれた。

今回の被害者が
第二殿下だったから
まだよかったものの、
これがエレミアスだったら
どうなっていたことか。

実際、もし令嬢のたくらみが
成功していて、第二殿下が
媚薬を口にしたとしても
第二殿下の体調的には
なんの問題もなかっただろう。

俺が不能になった事件もあり
殿下たちは毒だけでなく
媚薬の類に体を慣らす
訓練が施されていたし、

それ以前に、殿下の口に
入るものにはすべて、
直前で毒見役が毒見をする。

また殿下たちは今回のような
複数人が一堂に会する場所で
何かを口にすることはない。

令嬢たちは知らなかったもしれないが、
殿下の側近であれば、
誰もが知っていることだ。

殿下たちは、たとえ
王宮であっても、
信頼できる者がいない場で
飲食をすることはない。

必要であれば、
食器に口をつけて、
食事をする素振りはする。

だが本当にそれらを
口に入れることは一切ないのだ。

今回の場も、集団見合い、
茶会という名目があり、

一応、殿下たちにも
紅茶が用意されていたのだろうが、
殿下たちがそれを飲むことはない。

もしかしたら、
場を和ますために
紅茶のカップに唇は
触れたかもしれないが、
紅茶を飲むことはなかったはずだ。

つまり、あの令嬢は
計画した時からすでに
すべてが破綻していた。

この計画が令嬢の家の
当主が画策したというのなら
調査不足だと言わざるを得ない。

令嬢が単独で行ったのなら
相手が悪かったし、
浅はかな真似を、と言うしかない。

こう言っては何だが、
今回、媚薬が盛られたのが
殿下たちでよかったのだ。

もしこれが、あの
人を疑うことを
知らないエレミアスだったら。

何の疑問もなく、
エレミアスは媚薬入りの
紅茶を飲むに違いない。

考えてもみろ。
あの可愛い唇に媚薬が……。

もともと可愛く、
どんな仕草でも愛らしい
あのエレミアスはが
うるんだ瞳で俺を見てきたら。

膝にちょこんと乗り、
小さな指で……

俺は馬に乗りながら
ぶんぶん、と首を振った。

俺の動きなど
馬は気にせずに
走り続けるが、
乗馬中に邪念を持つのは危険だ。

そう、危険だろう。

あんな可愛く、
けしからんことを
想像するなど、
天使への冒涜でしかない。

などと考えていたら、
あっという間に王宮に着いた。

とにかく今は仕事だ。

面倒な令嬢たちと
やりとりするのは同僚たちに
任せておいて、
俺は事件を起こした令嬢の
両親や、一族の当主との
話し合いをするための
資料を作らねばならない。

いつまでも書類仕事が
苦手だと言っている場合ではないし、

俺は騎士団に所属しているが、
第二殿下の側近扱いなので、
騎士団と殿下たちとの
橋渡し的な役割を担っているのだ。

最終的には俺が
第二殿下とともに、
話し合いの場に着くことに
なるかもしれない。

事件を起こした令嬢には、いや、
一族にとって辛い沙汰が
下りるとは思うが、

俺としてはこの事件を機に
社交界にはびこる
『既成事実さえあればなんとかなる』
という風潮を一掃したいと思っている。

今回の件が公表され、
厳しい沙汰が下されれば、
少なくとも高位貴族ばかりを
狙った馬鹿な策を取る令嬢や
その家の当主たちは
今後は自重するだろう。

それがいずれ社交界に
参加する予定の
エレミアスを守ることにもつながる。

とにかく早く
資料をまとめて、
第二殿下に提出しなければ。

この事件の処理が終わったら
休日はまたエレミアスと
一緒に過ごすことが
できるようになる。

そうだ。
団長にエレミアスが
騎士団への見学を希望していると
伝えなければ。

許可は下りるだろうか。

いや、許可が下りなくても
俺は連れて行くぞ。

あんなに可愛い顔で
行ってみたい、と言っていたのだ。

その願いは俺が叶えねば。

団長の鋭い視線など、
エレミアスのためなら
どおってことない!

と、息巻いていたが。

「戻ったか」

という短く鋭い声に、
俺の勇み足だった気分が
急降下した。

馬を馬番に預けて、
殿下の元に向かおうと
した時に、急に団長に声をかけられた。

まさか、俺の帰りを
待っていたのだろうか。

「ずいぶんとのんびりだったな。
俺の可愛いエレはどうだった?」

俺は、ゴクリ、と唾をのむ。

夕食を一緒に食べて
あの可愛い顔を堪能したことを
もしや、責められているのか?

確かに通常の休憩時間は
大幅に過ぎてるが、
だが、何時までに帰ってこいとは
言わなかったじゃないか。

などと思っても口に出すことなど
できるはずもない。

「あの子は大人しくしていたか?」

「は、はい。
少し熱があったようですが、
食事をとり、薬を飲んで
眠る姿を確認して戻りました」

俺が平静を装い、
そう答えると、団長は
そうか、と俺を見る。

「不埒な真似はしてないな?」

「するはずもありません!」

俺は即答した。

してない、してないぞ。
心の中で思っただけだ。

「ならいい」

団長はそれだけ言うと
踵を返す。

「さっさと来い」

「え? は?」

「第二殿下がお待ちだ」

団長だけでなく、
第二殿下まで待たせていたのか!

俺は焦り、慌てて団長の背中を早足で追った。
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