長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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62:優しい騎士団長?

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 僕は食堂に響く大きな声に
驚いて動けない。

「カッコイイだってよ!」

「騎士さんだってさ!」

「誰だよ、あの可愛い子」

「見学?
誰かの身内か?」

いろんな声が一斉に
聞こえてくるから
僕はよく聞き取れなかった。

でも嫌な声じゃないと思う。

僕を敵視してるとか
そういうのじゃなくて。

珍しいものを見たとか、
可愛いものをみたとか、
そんな反応に見える。

可愛いぬいぐるみを
見たときのティーナと
同じに思えた。

ティーナと騎士たちを
比べたら、ティーナは
怒るかもしれないけれど。

食堂は最初に来たときと
同じように騒がしかったけれど。

全員の視線が
僕に向いてるような気がする。

僕がガイを見ると
ガイは苦笑していた。

ケインといえば、
僕の護衛だからか、
僕を守るように
僕に背を向けて立っている。

「静かに。
騒がず、静かに食べろ」

食堂に突然、よく通る声が響いた。

瞬間、騎士たちの声が消える。

僕も声をした方を見ると
兄が食堂に入ってきた。

「兄様」

僕が兄を呼ぶと、
兄はあっという間に
僕の前まで来た。

「食堂から大きな声が
聞こえてきたからな。
エレが困ってないか見に来た」

兄はそう言い、
ガイとは逆隣に座る。

あの執務室は3階だったし
食堂から離れているのに。

兄のところまで
声が届くなんて、
やっぱり騎士って
声が大きんだって、
僕は妙に感心してしまう。

「どうだ?
騎士団の食堂は。
驚いただろう」

兄が僕の手元にある
トレーを見ながら聞く。

僕は「うん」って頷いた。

「でもね、兄様、
僕、一人でトレーをもって
このお皿を乗せて
席まで運んだんだよ」

すごいでしょ!って
僕が言うと、兄は
えらいぞ、って頭を
撫でてくれた。

たったそれだけで
僕は得意げになってしまう。

兄はそれから僕の皿の
赤い実をつまんで、
「ほら」と僕の口元に持ってきた。

兄に食べさせてもらうのは
いつものことだったから、
僕は素直に口を開けた。

あーん、と口に実を入れると、
甘い果汁が口に広がる。

ぷち、っとはじけるような
触感がして、
甘い果汁が出てくるのだ。

「ふふ、甘くておいしいね」
って僕は兄に感想を伝えたけど。

その間も、騎士たちの声は
全く聞こえなくて。

さっきまではあんなに
おしゃべりしていたのに。

もしかしたらみんな、
兄のことが怖いのかな。

兄の前だと話せなくなる……とか?

ガイも兄は苦手みたいで、
僕と兄の前とは話し方も
仕草や態度も全然違う。

兄は強いし、怖そうだけど
それだけじゃないんだ。

兄はとっても優しい。

僕のために、
僕がどうやったら
幸せになれるかを考えて
動いてくれる。

でも僕だけが特別じゃなくて
兄は優しいから、
騎士たちみんなのために、って
動いていると思うんだ。

そんな兄の優しさを
部下である騎士たちが
知らないのはもったいないし、
悲しいって思った。

「ねぇ、兄様」

「なんだ?」

「みんな、兄様が
すごく優しいってこと、
知らないのかな」

僕がそういうと、
近くに座っていた
騎士がぶーっと水を噴きだした。

「私は団長だからな。
少しぐらいは
怖がってもらわないと
示しがつかないんだ」

つまり兄は、
わざと怖がられるように
行動してるってことなんだ。

統率を取るってことは
そういうことなのかもしれない。

「そうなんだ。

怖がられながら
仕事をしないとダメだなんて
騎士団長って大変すぎる……
兄様、可哀そう」

僕は兄の髪をなでなでする。

「でも僕はちゃんと
兄様が優しいって
知ってるから。

兄様は優しくて、
素敵で、
恰好良くて、
大好きです」

って言ったら、
兄は嬉しそうな顔をした。

「さぁ、食べたら
屋敷に戻りなさい。

あまり無理をしない方が良い。

一般公開日にも見に来るつもりだろう?」

「はい」って僕は良い子の返事をする。

確かに迷子になったし
疲れてしまった。

それに、ここで無理して
皆と騎士団に遊びに来れなかったら
それこそ、悲しい。

「ケイン、ガイディス、
エレのことを頼んだぞ」

と兄が言い、席を立つので
僕も慌てて立ち上がって
兄の腰に抱き着いた。

「兄様、今日も待ってますね」

「あぁ、夕食までには戻る」

兄はそういい、
食堂から出ていく。

僕が兄とやり取りしているうちに
ケインが僕のトレーと食器を
片づけてくれていた。

「ありがとう、ケイン」

「いえ、では先に行き、
馬車の準備をしておきます」

そういい、ケインは足早に
食堂から出てった。

僕はケインを見送ってから、
ガイに、行こう、って言う。

するとガイは僕の隣に立ち、
怖い顔で周囲を
見回していたけれど、
急に僕を抱き上げた。

「ガイ、僕はまだ歩けるよ?」

疲れたけど、
歩けないほどではない。

「いや、危険だから
こうして俺が馬車まで送ろう」

危険?
騎士団の中にいるのに?

「それに俺がエレを
抱っこしたい」

そう言われると嬉しくて、
僕もガイに抱き着いた。

「ふふん。
この妖精は俺のものだからな」

ガイが小さく何かつぶやく。

「ガイ? なに?」

「いや、屋敷まで送る許可が
団長から下りているからな。
馬車で一緒に帰ろう」

その言葉に僕は嬉しくなる。

「じゃあ、馬車でも
お膝に乗ってもいい?」

今日は一人で頑張る日だったけど。

もういいよね。
あとは屋敷に帰るだけだもん。

疲れたから、
今日はもうガイに甘えたい。

「もちろんだ」
ってガイが言うから、
ふふ、って僕は笑ってしまう。

だって僕は、ガイの膝に乗るのも
大好きなんだ。

「俺も大好きだ」って
ガイが僕の耳元で言う。

あれ?
僕、また口に出てたのかな?

でもいいや。
ガイに好きって言われるのも、
僕は大好きだもん。

あの女性……王女様も、
ちゃんと大好きって
伝えることができてたら、

大好きって、あの王子様に
言ってもらえてたらいいな、って

僕はそんなことを思いながら、
ガイと一緒に馬車に乗り込んだ。


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