長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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63:呼び出された兄

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 俺は執務室の窓から
外を見ていた。

目の前では訓練を終えた騎士たちが
汗を拭きながら移動しているのが見える。

今日は可愛い義弟が
騎士団見学に来た。

本当なら粗野で
乱暴な騎士が多くいる
騎士団の見学など
させたくはなかったが、

次期当主になるのなら、
いつまでも屋敷の中で囲い、
守っているわけには
いかないだろと
第二殿下に指摘を受け、
仕方なく許可を出したのだ。

わかってはいる。
俺の可愛い義弟……エレミアスが
外に出たがっているのは。

だがもう少しだけ、
俺の可愛い義弟でいて欲しいと思う。

それにしても、
エレミアスはいつも
予想外のことをしでかす。

貴族学院で友人を作ったと
ヴァレンティーナ嬢の
名を挙げたときは驚いた。

ヴァレンティーナ嬢は、
ロチェスター伯爵家の
一人娘だったが、
ロチェスター家は我が家と
同じぐらい栄えた領土を持っている。

しかも領土はやや狭いながらも
港に面しており、
外交や貿易に関しても
重要な場所になる。

我が家は社交界から
遠ざかっているため、
ロチェスター家とは
親しい間柄ではなかったが。

できれば付き合いたいと
思っていた家だった。

ヴァレンティーナ嬢は
ガイディスの家で
行儀見習いをしていたというが、
血縁的に言えば、
ブレイトン公爵家とは
かなり縁遠いはずだ。

遠縁すぎる、
とまでは言わないが
それでも行儀見習いとして
本家に呼びよせるほどではない。

だがブレイトン公爵夫人は
ヴァレンティーナ嬢を
手元に置き、
手なずける方法として、
行儀見習いとして
呼び寄せたのだ。

さすが社交界の女王とでも
言えばいいのか。

社交界を牛耳り、
ブレイトン公爵家を
繁栄させる要を担っているのは
やはり夫人だと言わざるを得ない。

だがエレミアスは
その夫人の義息子となり、
ヴァレンティーナ嬢と
エレミアスは親友だという。

これはかなりの功績だ。

しかも、エレミアスは
ブレイトン公爵夫人に
気に入られている。

ブレイトン公爵家に
訪問した後、

ドレスを着て
疲れた様子で帰ってきたときは
さすがに怒りを覚えたが。

それでも、
夫人に気に入られ、
女王の後継者とも
噂されるヴァレンティーナ嬢と
親友であるということは、

今後、人に不慣れなエレミアスが
社交界で何かしでかしても
なんとかなるだろう。

おそらくはこの二人が
エレミアスの盾に
なってくれるはずだ。

いや、それだけではない。

このドレス遊びには、
リリック・モルガン嬢も
かかわっているらしい。

モルガン伯爵家は
優秀な文官を輩出すると
言われている家系で、
当主は現在、この国の
宰相を担っている。

そんな女性にも
気に入られたというのだから
義弟には愛される
天賦の才があるとしか思えない。

俺はそこまで考え、
息を吐いて執務室の椅子に座る。

すでに定時を過ぎており、
この部屋には俺一人だ。

早く帰るとエレミアスには
言ってしまったが、
この分だと夕食には間に合わないだろう。

残念に思うが、
それどころではない案件が
手元に舞い込んできた。

俺は先ほど届けられた手紙を見た。

封には王太子殿下の印が
押されている。

おそらく、エレミアスが
迷い込んだ秘密の庭の件だろう。

あの秘密の庭と呼ばれる場所は、
王族の執務室がある棟と、
騎士団の訓練所との間にある
小さな中庭だった。

王族の居住区は城の奥深くにあるが、
殿下たちの執務室は別だ。

有事の際にすぐに動き、
王族を守れるようにと、
殿下たちの執務室と
騎士団はかなり近い場所にある。

エレミアスが迷い込んだとしても
位置的にはおかしくはない。

通常であれば、
誰でも使用できる中庭だが、

毎日、中庭にあるガゼボ周辺が
ある一定の時間だけ、
立ち入り禁止になる。

それはこの国の王太子殿下と
その婚約者である
隣国の王女が茶会を開くからだ。

警備上の問題もあるが、
それよりも、王女が
王太子殿下と二人っきりで
お茶を飲みたいと
口にしたために、

お茶会の時間だけは
中庭の立ち入りが
禁止されてしまったのだ。

まさか王太子殿下と
隣国の王女が逢瀬のために
中庭を貸し切っていると
公表するわけにもいかず、

騎士団や文官たちは
その茶会の時間のことを
秘密の花園、
秘密の庭
という隠語を使うのが
暗黙の了解となっている。

 エレミアスの姿がないと
ガイディスが執務室に来たとき、
俺はすぐにあの花園を思い出した。

ガイディスたちは訓練場に
足を向けたが俺はその
逆方向にある花園に
足を向けたのだ。

俺が花園に足を向けると、
案の定、エレミアスが
王女殿下と一緒に
茶を飲んでいた。

王女殿下は思慮深く、
エレミアスの名を呼ばず、
妖精さん、と話をしている。

少なくともお咎は受けずに
済みそうだ。

とにかく穏便に、
エレミアスをこの場から
連れ出さなければ。

そう思っていた時だ。

急に王太子殿下が
乱入してきた。

おそらく、王女殿下を
見張らせていた護衛が
エレミアスのことを
報告したのだろう。

王太子殿下は大声で
エレミアスに怒鳴りつけた。

瞬間、殺意が沸いたが、
俺はそれをどうにか抑える。

すぐに王女殿下が
エレミアスをかばい、
あっという間に二人の世界が始まった。

もとより、互いに惚れあった仲だ。

幼少の頃より王太子殿下は
王女殿下を慕っていたし、

今回、王女殿下を避けていたのは
あまりにも王女殿下が
美しく成長されていて
どう接して良いのか
わからなかっただけなのだ。

それは王太子殿下の
側近だけでなく、
王宮に務める者は
誰でも察していたが、

エレミアスに話をする
王女殿下の言葉から考えると、

肝心の王女殿下は
心変わりを危惧していたのだろう。

ちょっとしたすれ違いだったが、
それをエレミアスが
解決してしまったようだ。

王太子殿下は
あの花園にいた妖精が
俺の義弟だと調べたようだ。

エレミアスに手を出す
馬鹿が生まれないように、
食堂で牽制したことで
すぐにわかったのだろう。

エレミアスとの夕食に
間に合いそうにないから
断ろうかと思ったが、

あの王女殿下との
茶会の話であれば、
話を聞く価値はある。

王太子殿下が何を言うかわからないが、
エレミアスを害するのであれば、
王太子であろうと
俺は容赦はしない。

俺は王太子殿下を
失脚させるだけの種は持っている。

面倒くさいから
何もしていないだけだ。

王太子殿下もそのことには
気が付いているはずだ。

馬鹿なことを言ってこなければいいのだが。

俺は父と同じで権力に興味があるわけではない。

ただ都合がよいから権力を持っているだけだし、
可愛いエレミアスを守るために、
バーンズ侯爵家を繁栄させるために動いているだけだ。

そのことを王太子殿下が
忘れているのであれば、
今、釘をさしておくのも悪くはない。

俺はベルを鳴らして
侍従を呼び、
タウンハウスに使いを出す。

エレミアスに夕食までに
帰れないと伝言をしたのだ。

一緒に夕食を食べれないと知ると、
きっと残念がるだろう。

できるだけ早く帰らねば。

俺はそう思い、
手元の手紙の封を開けた。


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