長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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74:婚約式とドレス

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 その日は、朝から学院で
僕は楽しく授業を
受けた日だった。

ティーナは婚約式に
着ていくドレスの話を
してくれていたし、

ライリーとサイラスも
自分たちが仕立て屋に
行った話をしてくれた。

僕の婚約式だけど、
皆が笑顔で準備をしてくれていて
僕は嬉しくなる。

僕はにこにこ笑顔で
馬車に乗り、
タウンハウスに戻った。

「エレミアス様、
嬉しそうですね」

一緒に馬車に乗っていたケインが言う。

「うん。だってね、
みんな僕の婚約式が
楽しみって言ってくれるんだ」

「そうですね。
エレミアス様も待ち遠しいでしょう」

「うん。
でも、今日はちょっとだけ、
憂鬱なんだ」

「と、言いますと?」

「今日ね、デザイナーさんと
ガイのお母さんが来るでしょ?」

僕はその出迎えもあるから
午前中でこうして
帰宅しているんだけど。

「ガイのお母さんはね、
僕にドレスを着て欲しいみたいなんだ」

「あー」

とケインは短く声を出した。

「僕ね、ライリーにも
サイラスにも聞いたんだ。

男の子はドレスを着ないって。

だからね、婚約式も
結婚式もドレスは着ないよ、って
なんとなく伝えたんだけど。

どうしてだろう、
うまく伝わらないんだ」

だから、今までも
何度かデザイン画を
持ってきてくれたんだけど、
なぜかドレスの絵ばかりなんだ。

それをやんわりと断るんだけど、
なんというか、押しが強い?

よくわかんないけど、
気が付いたら「じゃあこれを
もうちょっと変えてくるわね」
みたいな感じで言われて、

また次にデザイン画を
見せてもらったら、
またドレスなんだ。

僕はもう、
ドレスを着た方が
いいのかな、って思う。

この悩みに関しては
さすがにケインも解決策がないみたい。

はぁ、と息を吐くと、
馬車が止まった。

どうやらタウンハウスに
着いたみたいだ。

「少しお待ちを」

ケインがそう言って
先に降りてから、
僕に手を貸してくれる。

僕がゆっくりと馬車から下りると
いつもはアンナとセバスチャンが
出迎えてくれるんだけど。

「エレミアス!」

玄関の前で大きく名前を呼ばれた。

「父様! 母様!」

僕の両親がいる。

僕は大急ぎで玄関まで行くと、
父が腕を伸ばして、
ぎゅって抱きしめてくれた。

「会いたかったぞ!」

「うん。父様。
僕も、会いたかったです」

「あなた。
私が先ですわ」

父の横から母がそう言って
父の腕をひっぱった。

抱きしめられた腕の力が緩んで
僕は母に抱きしめられる。

「元気だった?
しんどくはない?」

「はい、母様。
僕はとっても元気です。
もう学院にだって
毎日通えるんですよ」

「そう。よかったわ」

久しぶりに母様に抱きしめられ、
僕は嬉しくなる。

「さぁ、居間に行きましょう。
お土産がたくさんあるのよ」

「はい、母様」

「おい、二人とも、
私を置いていくな」

僕と母が歩き出すと、
その後ろを父が付いてくる。

僕が父を振り返ると、
父は僕を見つめ、
目元を緩めた。

父は兄と同じ水色の髪と
青い目だったけれど、
兄よりも目が細くて、
ぱっと見、ちょっと怖い。

でも少し吊り上がった目が、
僕をとらえた瞬間、
ふにゃっと下がるんだ。

僕はその、ふにゃっと
なるのを見るのが好き。

だって、
父は怖いだけじゃなくて
僕を愛してくれてるってわかるから。

僕たちは居間でお茶を飲み、
父と母のお土産を
見せてもらっていた。

「あ、そうだ、
父様、母様、今日僕は
この後、予定があるんです」

「知ってるわよ。
ブレイトン夫人と
婚約式の衣装を決めるんでしょ?

それに合わせて、
こちらに来たんですもの」

母は、笑って言う。

「そうなんですか?」

「うむ。
エレミアスの衣装には
口を出さねばならんからな」

と、父まで言うので、
僕はびっくりした。

だって父は王宮に
勤めていたことがある
とは聞いていたけど、
服とか装飾品を気に掛ける
ような人じゃないと思っていたから。

少しすると、ガイのお母さんが
デザイナーさんと一緒に
到着して、僕はみんなで
衣装部屋まで移動する。

両親たちはすでに
仲良しみたいで、
デザイナーさんは
少し緊張した顔だったけれど、
僕の衣装だというデザイン画を
何枚も見せてくれた。

それに試着できるようにと
いろんな服も持ってきてくれているという。

でも。

「あら、いいわね」
と母がデザイン画を手に取ると

「こちらも可愛らしいですわ」
とガイのお母さんが言う。

「これはどうだ?
エレミアスの天使っぷりが
映えると思うが」
父までもがデザイン画を取り合う。

そしてそれらすべてが
なぜかドレスのデザインだった。

「父様、母様も。
僕はドレスは着ませんよ」

この言葉は、これで何度目だろう。

そう思いながら言ったのだけど。

「は? 着ないのか?
何故だ?」

って父が目を見開いて僕を見る。

え?
だって。
ドレスは女の子の服でしょ?

「まあ、まあ、そんなことは
関係ないのよ。

あなたはこんなに可愛いんですもの。
何を着てもきっと似合うわ」

と母が言い、
ガイのお母さんも
大きくうなずいている。

え、でも、だって。

「3人とも、
いい加減にしてください」

衣装部屋に新しい声が聞こえた。

振り返ると兄が立っている。

「兄さまー」

わーん。
って僕が兄に抱き着きに行くと、
兄は僕を抱っこしてくれる。

「父上も、義母上も、
まったく、大人げない。
エレミアスが着たい服を
着せてあげればいいでしょう」

「母上も、エレのところに
押しかけて無理強いは
やめてください」

って兄の後ろから
ガイも顔を出した。

「ガイも来てくれたの?」

「あぁ、俺の母がすまない。
なかなか衣装が決まらないと
言うのでな。
様子を見に来たんだ」

「時間もないことだし、
今日、ここで決めてしまおう」

兄が言うと、
ずっと無言で立っていた
デザイナーさんが嬉しそうに
こくこくと首を縦に振る。

きっと困ってたんだろうな。

これ、僕がドレスを着たら
解決する話なのかな。

「エレ、お前はどうしたい?」

兄に聞かれ、僕は悩む。

「ドレスは……着るのが
大変なんです。
疲れちゃうし。

でも、母様たちが
着てほしいのなら、
頑張ります」

「エレ、婚約式は
頑張るもんじゃない」

兄が優しく言ってくれる。

「ガイディス、お前の意見は?」

「お、俺は婚約できるなら
なんでも構いません」

「……素直すぎだな」

呆れたように兄は言う。

「とにかく私が話をまとめます。
君がデザイナーか?
持ってきた案をすべて出してくれ」

兄様、かっこいい!
頼りになる!

僕は嬉しくなって
兄にしがみついて、
顔をすりすりしてしまった。

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