長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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75:王女様とカオス

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 今日は王宮に来ている。
婚約式の予行練習があるんだ。

兄のおかげで、
婚約式に着る服も、
なんとかなりそうだし、

今日は実際に神聖教会を
見せてもらって
当日の動きを確認するんだ。

その後、あのお姫様と
お茶を飲むことになっている。

ガイも教会での
予行練習は一緒に
してくれるはず。

はず、というのは、
僕とガイが朝
顔を合わせてすぐに
騎士の人がガイを呼びに来て、
そのままガイは「すまない」
ってどこかに行ってしまったんだ。

だから僕は今、
なぜか王宮の1室で、
父と、母と、王妃様と、
ガイのお母さんと、
お姫様と一緒に
結婚式の衣装を決めている。

……なんで?

そしてみんな僕に
ドレスを着せようとする。

ほんと、なんで?

お姫様は最初は僕に
「妖精さん、お会いしたかったわ」
って優しく言って、
僕の手を取り、「あのときはありがとう」
って笑ってくれた。

優しいお姉さんだと思ってたんだけど、違ってた。

このお姫様は、
自分がやりたいことは、
どうしてもやりたい!」って
主張する人だった。

確かに兄の話を聞いて、
王宮の庭を貸し切りにしたり、
僕に会いたいって、
何度も王太子殿下を
使って伝言したり。

ちょっと強引な人かも、
って思ってはいたけれど。

僕の目の前は、
魔王様も真っ青なほど
混沌としている。

疲れ切った僕を
王宮侍女たちがソファーに
座らせてくれて、
冷えたお茶を飲ませてくれる。

そのうえ、大きな扇で
僕に優しい風を
送ってくれるので、
ようやく汗が引いてきた。

僕が座ったソファーの前は
大きな絨毯が敷いてあったんだけど。

その前には、僕が着る?
ドレスが山ほど置かれている。

その周囲には、
結婚式のためのデザイン画が
散乱していて。

僕の父と母が楽しそうに
二人で!
僕の衣装を選んでいて、
その横でガイのお母さんが
連れてきていたデザイナーに
あれがいい、これがいい、
と、デザイン画を見ながら
注文している。

その隣でお姫様が
自分の侍女たちに命じて
床にドレスをさらに
並べさせて、
ちらちら僕を見ながら
なぜか!
ドレスを選んでいる。

僕、もう帰りたい……。

「あの、申し訳ございません。
うちの姫様が
我がままを申しまして」

急に僕は話しかけられ、
びっくりした。

僕の隣に、
一人の従者が膝をついている。

「申し遅れました。
私、姫様のお側付きとして
共に参りました
モレノ・ルソシアスと申します」

「ルソシアスさん?」

「どうぞ、私のことは
モレノとお呼びください」

そういってモレノさんは
膝をついたまま、
僕と同じ高さの視線で
お姫様を見た。

「姫様は隣国で
寂しく過ごされていたのです」

「寂しい?
王女様なのに?」

「はい、姫様は
幼い頃からこの国の
王子殿下と婚約が
決まっておりました。

それゆえ、政治的配慮もあり、
付き合う友人、
接する大人たちも、
すべて国王陛下の
采配で決まっておりました。

それは裏を返せば、
姫様が心を緩めて
接することができる
友人がいないということになります。

近寄ってくる令嬢たちは
すべて父君である
陛下の意向を酌んだ者
たちなのですから」

僕は楽しそうに
ドレスを選ぶお姫様を見た。

もしかしたら、
こうやって誰かと
一緒にドレスを選んだり
おしゃべりしたり
したかったのかな?

お姫様も僕と一緒で
友達がいなかったから。

でも僕とお姫様だと
友達というのは
無理な気がする。

だって僕の方が
年下だし、
身分とかもあるし。

そう思っていたけれど。

「エレちゃま、
これはいかがです?」

エレちゃま??

お姫様が侍女を連れて
僕のそばまでくる。

「まぁ、モレノ、
お前は下がっていなさい」

「はい、姫様」

モレノさんが立ち上がり、
壁まで下がると、
お姫様は笑顔で僕を見る。

「このドレス、素敵でしょう?
エレちゃまは可愛い
妖精ですから、

この大きなフリルが
ついているのが
似合うと思いますの。

ほら、妖精の羽のよう」

「まぁ、王女殿下、
エレちゃんは天使ですのよ。
同じ羽であれば、
こちらのフリルがよろしいわ」

ガイのお母さんが
そこに割り込んできた。

「おばさま、エレちゃまは
体も小さいのですから、
羽も小さいべきでは?」

お姫様とガイのお母さんは
小さい頃からの知り合いで
仲良しなんだって。

公爵家だもんね。

ちなみに僕の父とも
知り合いだったみたい。

「エレミアス、これはどうだ?
お前は私の妻に似て、
美しい顔立ちだからな。

幼い衣装よりも、
こういうのが良いだろう」

と、父までも
デザイン画を持ってくる。

その横で母が
「美しいだなんて」と
嬉しそうな顔をした。

この前、同じようなことが
起こったときは、
僕がドレスを着るって
言えば解決すると思ったけれど。

今回は違う。
僕がドレスを着るって
言ったとしても、
今度はどのドレスを着るかで
みんな、もめるんだ。

僕もう、疲れちゃったし、
帰りたい。

ガイもどこかに行っちゃうし。

僕はなんだか悲しくなってきた。

「まぁ、エレミアス。
どうしたの?」

って母が慌てて言ってくれたけれど。

僕の目から涙がだらだらと
流れてしまう。

母が僕を抱きしめ、
ハンカチで涙を拭いてくれた。

「どうしたの?
疲れちゃった?」

僕は母の声にうなずく。

「みんな、喧嘩してるみたいで、
僕、そんなの嫌だし、

僕が着る服は
なんでもいいって言ったら
みんな仲直りできると
思ったけど、
そうじゃないし……」

ぐしゅぐしゅと僕は
母に泣きついてしまう。

僕の言葉に、
大盛り上がりだった
室内が静まった。

「そうね、ごめんなさいね。
あなたの気持ちを
置き去りにしていたわ。

でもね、母様も父様も、
この場にいてくださる
皆がエレミアスの
ことが大好きで、
力になりたいって
集まってくださったのよ」

僕はうなずいたけれど、
それはわかってるけど、
涙が止まらないんだ。

「失礼、ここに
エレミアスがいると
聞いてきたのだが」

「失礼します」

兄とガイの声がした。

僕が母の腕の中から
扉を見ると、
ガイが焦った様子で
僕の前まで走ってきた。

「エレ!
どうしたんだ、
何故泣いてる?」

僕は母の腕から
抜け出して、
ガイに両手を差し出した。

だっこ!
だっこして!

って主張したら
ガイはすぐに僕を
抱き上げてくれた。

僕はガイにしがみついて
ぎゅう、ってした。

「皆さん、
父も義母も付いていて、
なぜこんなことに?」

兄がこめかみを押さえながら言う。

「楽しすぎて、
暴走しちゃったのよね、あなた」

「ああ、まあ、そうだな。
可愛いエレミアスの
晴れ舞台だからな」

母と父の声が聞こえるけれど、
今の僕にはガイの方が大事だ。

ガイのお母さんや
お姫様も何か言っている。

でも、そんな言葉より、
ガイにぎゅう、って
される方が大事。

でも。

「あらあら、
母よりも大事な人が
できちゃったのね」

なんて聞こえてきた
母の声だけは、
なぜか耳に残った。


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