長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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78:わがまま姫と才女

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 私はヴァレンティーナ。
ロチェスター伯爵家の一人娘ですわ。

ロチェスター家は古くから続く
名家ですし、領地も辺境とはいえ
港に面していて、
とても潤っていますの。

そんな私と縁付きたい方々は
沢山いるので、
私の元には多くの手紙や
招待状が毎日のように届く。

もっとも、婚約者が決まり、
私がバーンズ侯爵家のご子息、
エレミアス様の親友!と
周知されてからは、
それもずいぶんと
収まりましたけれど。

なにせ、エレミアス様は
バーンズ侯爵家の秘宝とも
隠された天使とも
噂されていたほど。

バーンズ侯爵家のすべてで
愛され、守られてきた存在ですの。

その天使の気分を害するような
恐れ知らずの者など、
この国にはいませんわ。

なんといっても、
バーンズ侯爵家はこの国の
王家でさえ、その気になれば
覆せるとまで言われているのですから。

それは武力でもそうですし、
経済力としても王家に
引けは取らない……いえ、
それ以上だと噂されておりますの。

もちろん、ロチェスター領も
栄えてはおりますが、
バーンズ侯爵領にはかないません。

とにかく、
そんな重要な天使と私は
親友!

親友ですの。

一緒にお茶を飲み、
可愛らしいぬいぐるみを
愛で、レースを褒めあう。

なんて素晴らしいの!

そんな私とエレ様の友情に
割り込む手紙が、
今日、届きましたの。

隣国の王女、ミレット王女殿下から。

「友達になりたいですって、
しかもエレ様とは
もう友達になったですって!?」

私からエレ様を取り上げる気かしら。

でも相手は次期王妃。
下手な真似はできない。

ここは、リリ姉様と
ブレイトンのおばさまに
連絡を取らなくては。

王女殿下がエレ様の
魅力に気が付くのは当たり前ですが
それを独り占めするのとは
また別の話ですわ。

どうせ私と友達になったと
触れまわって、エレ様を
懐柔する気なのですわ。

エレ様は人を疑うことを
知らない稀有な方ですもの。

相手は綺麗な顔立ちを
しているとはいえ、
隣国の王女。

社交界を知り尽くしているはず。

その王女がエレ様に
目を付けたということは、

エレ様を自分がこの国の
王妃になったときの
ため布石にするつもりに
違いないですわ。

この国の社交界は今、
ブレイトンのおばさまが仕切っている。

そして政治面では、
陛下に誰よりも近く、
意見が言えるバーンズ侯爵が
支えていると言ってもいい。

その二家を繋ぐのがエレ様だ。

エレ様を押さえれば、
社交界も、政治も、
一手に握ることができる。

危険極まりない相手だ。

私は急いでリリ姉様と
ブレイトンのおばさまに
連絡を取り、それから
王女殿下に返事を送った。

その3日後、
私は王宮で開かれる
王女殿下の茶会に招待された。

参加するのは、
王女殿下と私だけ。

まずは私が様子を見て、
リリ姉様とおばさまに
報告することになっている。

私は緊張しながら
王家の庭に着いた。

茶会の席ではすでに
王女殿下が座っている。

「ご招待をありがとう存じます。
ミレット王女様。」

私はロチェスター家の一人娘、
ヴァレンティーナでございます」

ゆっくりと膝を折り、
カーテシーをする。

王女は座ったまま
「ミレットよ」と笑う。

「さぁ、お座りになって。」

と言われ、私は座った。

周囲に侍女はいない。
人払いをしたのだろうか。

「そんなに警戒しないで」

王女は言い、私にお茶を勧める。

「あなたの懸念もわかるわ。
あの妖精さん、可愛いもの」

にこやかに王女は言う。
でも声は威厳に満ちていた。

さすが、王族だ。

「でもね、この国に
混乱をもたらす気はないわ。
だって私が嫁ぐ国ですもの。

私が愛する人の国よ?
大切にするのは当たり前だわ」

王女はそう言い、
でもね、と言葉を続ける。

「友達ぐらい、いてもいいと思わない?
自国での私は、ただのお姫様。

姫を演じるのは嫌じゃないけど、
本音で話せる人が
一人もいないのは寂しいでしょ?」

「……その相手が私だと?」

「ええ、そうよ。
エレちゃまの親友である
あなたなら、信用できるわ」

エレちゃま?

「それにあなたも私も
似てると思うの。

女だからとその優秀さを
疎ましいと言われ、

跡取りならば、
優秀であれ、と言われる。

その理不尽さは、
私も理解してるわ」

まぁ、私は王女で、
嫁ぐ身だから、
この国に嫁いでしまえば
そういうのからは
解放されるけれど。

と王女は扇を広げて
口元を隠す。

「でもあなたは違うわ。
この国で爵位を継ぎ、
生きていかなければならない。

ましてや、
あのブレイトン公爵夫人の
お気に入りなんでしょう?

領地繁栄に社交界に、
きっと大変だと思うの。

あなただけで、
エレちゃまを本当に
社交界から守りぬけて?」

その言葉は、胸に刺さった。

ブレイトン公爵夫人も
いつかは引退する。

次期公爵夫人のリリ姉様も
社交界での立ち回りは凄い。

でも、基本的にリリ姉様は
高位貴族の女性だけれど、
公爵夫人のように
家のために、
王家のために、
私情を切り捨てることはしない。

いや、それが必要な
場面を実際には
経験したことがないはずだ。

女同士の戦いには
強いかもしれないが、
そこに政治が絡むと
どうなるかわからない。

今、公爵夫人が社交界で
女王であるのは、
実質、ブレイトン公爵領の
采配を夫人が担っているからだ。

夫人は今、社交界だけでなく
政治の場面にでも
かなりの顔が利く。

私はその後を継げるよう、
夫人に教えを請うているのだ。

リリ姉様ではなく、
私が。

「勘違いしないでね。
私はあの可愛らしい妖精さんと
仲良くしたいだけなの。

純粋で無垢で、可愛らしくて。

社交界の汚い欲望に
穢されて欲しくないのよ」

それは私も激しく同意してしまう。

「だからね、お友達になりましょう。

私とあなたが手を組めば、
エレちゃまは無垢な妖精のまま
社交界で愛でられる存在になるわ。

誰も手が出せない、
ただ愛される存在に。

私はそんな妖精ちゃんと
お茶を飲んで、
ちょっと愚痴を言ったりして。

公務で疲れたときに、
癒してほしいだけなの。

もちろん、そこには
あなたもいていいわ」

どお?

と言われ、私は息を止めて王女を見た。

その瞳を見つめると、
じっと見つめ返される。

本気、のようだ。

「私は、エレ様がただ
愛でられるだけの存在では
満足できませんわ」

私ははっきり言う。

「私はエレ様の親友ですもの」

エレ様は今、成長しようとしている。

侯爵家の籠の中から
飛び出して、
いろんな体験をして。

エレ様は可愛らしいけれど、
人形やぬいぐるみではない。

私はエレ様をただの
鑑賞用のおもちゃになんて
絶対にしたくない。

たとえ、王女殿下の言葉でも、
これだけは譲れない。

その決意で言ってしまったけれど。

私が譲れないものと、
伯爵家を天秤にかけるような
真似をしてよかったのかと、
一瞬、脳裏に後悔がよぎる。

「いいわね、素敵。
私もエレちゃまと
親友になれるかしら」

王女殿下は私の反撃を
ころころ笑って見逃した。

「ねぇ、いいでしょ?
王女の私に向かって、
自分の意見を言える伯爵令嬢。

私はそういう相手を求めていたの」

そういって王女は握手を
求めるように私に手を差し出す。

「私の身分も、あなたの 身分も。関係なしよ。

お友達になって」

本当なら、ブレイトンおばさまに
話をしてから決めるべきだと思う。

でも私は、
まっすぐに私を見つめる瞳に、
負けてしまった。

「はい、握手」

そう言って握られた手は、
少し震えている。

「よろしくね。
私のお友達」

「ええ。よろしくお願いいたしますわ」

もしかしたら、
この王女様は本気で
友達が欲しかっただけなのかもしれない。

ウダウダ理由を説明しなければ
友達一人、作ることができない、
寂しく不器用な女性のような気がした。

「では、お友達になった記念に、
学院でのエレ様の様子を
聞かせて差し上げますわ」

そういうと王女は嬉しそうに
目を輝かせた。

エレ様を愛でる会、
もし作ったら、王女様を
会員1号にしてさしあげよう。

そんなことを考えながら
私はエレ様との出会いを語りだした。

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