89 / 132
88:別荘地
しおりを挟む
僕が目を覚ましたら、
知らないベッドだった。
ものすごく広いベッドで、
僕は慌てて起き上がる。
アンナを呼ぼうと思って
部屋を見回すと、
近くにあったソファーで
横になって寝ているガイがいた。
そこで僕はここが
宿屋だってことを思い出したんだ。
僕はベッドから下りて
ガイのところへ歩く。
その足音に気がついたのか
ガイが目を覚ました。
「エレ?」
「おはよう、ガイ」
僕は起き上がって
ソファーに座ったガイの隣に座る。
「なんでベッドで寝なかったの?」
僕の寝相が悪かったとしても、
ベッドはものすごく広かった。
絶対一緒に寝ても大丈夫なはずだ。
「いや、その、そうだな。
ちょっと酒を飲んでしまってな」
その言葉通り、
テーブルにはお酒のグラスがある。
「そのまま寝てしまったらしい」
ちょっと飲みすぎたようだ、
なんてガイは笑いながら言う。
「エレと旅行ができて
嬉しすぎたんだな」
そんなことを言われると
僕も嬉しくなる。
僕も!
って言おうと思ったら、
部屋をノックする音がした。
「ぼっちゃま、お目覚めでしょうか」
「うん!」
僕が返事をすると、
ガイがすぐに立ち上がり
部屋の扉を開けた。
「おはようございます、
ぼっちゃま。
よくお眠りになりましたか?」
「うん。ぐっすりだったよ」
ベッドはふかふかだったし、
ものすごく眠たかったから、
ガイがお風呂から上がるのを
待てずに寝ちゃったんだ。
僕がそういうと、
アンナは大きくうなずいた。
「それはようございました」
ん?
よかったこと……なのかな?
「では、お着替えを。
朝食は部屋に運ぶよう、
手配済でございます」
アンナはそう言いながら
僕をベッドのそばまで
移動させた。
衝立を使って、
その陰で僕を着替えさせる。
なんでこんなことするの?
ってアンナに聞いたら、
『大人のたしなみでございます』
と言われた。
『たしなみ』
また難しい言葉が出てきた。
言葉の意味は分かるけれど、
なぜ今、ガイの前で
隠れて着替えなければ
ならないのかが、わからない。
まだまだ僕には
大人の世界は難しい。
僕の着替えが終わって、
衝立の陰から出ると、
ガイはすでに着替えていた。
アンナが僕をソファーに座らせたとき、
見計らったように
ノックの音がする。
アンナが扉を開けると、
ガイの侍従が僕たちの
朝食を運んできた。
「わぁ、おいしそう」
あたたかなパンと紅茶。
それからサラダとハム。
卵も添えられている。
アンナも侍従も朝食の
準備を終えるとすぐに
部屋から出て行く。
食べ終わったら、
すぐにでも出発できる
準備をするらしい。
僕とガイは朝食を
食べながら今日の予定を
話し合った。
ガイの話では、
今日中に別荘に着くことは
できるけれど、
別の町でもう1泊してから
別荘に向かうこともできるという。
僕は初めて見る町に
わくわくしたけれど、
最初はまっすぐ別荘に
行くことにした。
だって今回の旅行は
温泉に入るためのものだもの。
その代わり、
帰路では、少し寄り道して
いろんな町を見てみたい。
お土産も欲しいし、
お土産を買うのなら
帰路の方が荷物にならないから
絶対にいいと思う。
僕の話にガイもうなずいてくれて、
僕たちは食事の後、
すぐに宿を出た。
お昼ごはん用のサンドイッチも
宿屋で作ってもらったみたいで、
それを途中休憩で食べたら、
夕方までには別荘に着くという。
初めてのお泊りだ。
昨日も初めての宿だったけど、
堪能する前に疲れて
眠ってしまったから、
今日は頑張って起きておこう。
馬車は相変わらず揺れたけれど、
僕はガイの膝に乗せてもらって、
ものすごく頑張った。
どれぐらい頑張ったのかというと、
休憩しましょう、と
馬車が止まって、
侍従の人が声を掛けてくれた時、
僕はガイの膝から下りたけど
頭がぐらぐらして、
一人で歩けそうになかった。
ガイが僕を抱きあげて
馬車からおろしてくれたけれど、
僕はもう地面に寝ころびたかったぐらいだ。
馬車が止まった場所は
大きな湖のそばだった。
馬車道の横は
草原みたいな場所で、
僕たちは木陰に布を敷いて座る。
アンナが冷たい飲み物を
用意してくれて、
僕はそれを飲んで一息ついた。
ここで一旦、休憩らしい。
アンナがサンドイッチを
広げてくれて、
今度はあたたかいお茶を
カップに入れた。
外出用なので、
食器は全部木製だったけれど、
ちゃんとお茶はあたたかい。
「頑張ったな」
ってガイが僕の頭を撫でてくれる。
「うん」
「ほら、あれが別荘だ」
ガイの指す方向を見ると、
大きな湖の反対側に
確かに屋敷が見える。
「この辺りはもう、
ブレイトン公爵家の領地になる。
ブレイトン公爵領は
王都には近いが、
見ての通り、自然が多い。
鉱山も所有してはいるが、
あまり目立った産業もなくてな。
ただ、温泉が湧く土地が
かなり見つかっているから、
観光地として収入を得ているんだ」
僕はガイを見た。
ガイは凄い。
ちゃんとブレイトン領のことを知っている。
僕は……全然わからない。
バーンズ侯爵領のことも、
教えてもらったことは知っている。
でも、ただそれだけだ。
実際にこの目で見たこともないし、
いつかガイと一緒に
領地に行ったとしても、
僕はガイに説明どころか
案内することもできないだろう。
「どうした?」
僕が落ち込んだことに気が付いたのか
ガイが僕の顔を覗き込む。
「ううん。なんでもない。
ただガイはなんでも知ってるんだなって」
「俺はエレよりも長く生きてるからな」
ガイは笑って僕の頭を撫でた。
「それより、食べれそうか?」
「う……ん」
サンドイッチを見て
僕は言葉を濁す。
正直、あまり食べたくない。
「ぼっちゃま、
こちらはいかがでしょうか」
アンナが僕に焼き菓子を見せた。
「パウンドケーキでございます」
「うん、ありがとう。
それなら食べれそう」
僕がアンナにお礼を言うと、
なぜかアンナはちらりとガイを見た。
「いいえ、このアンナ、
ぼっちゃまのことを
すべて理解しておりますので」
「?? そうだね?
アンナは僕のことを
よくわかってくれてると思う。
いつも感謝してる」
ありがとう、って言ったら
またアンナは珍しく
口元を少し上げてガイを見る。
なんだか満足そう?
「たしかに、アンナは
すごい侍女だな。
魔石を使って
水の温度を変えるとは。
旅先で冷たい水や
熱いお茶を飲めるとは
思ってなかった」
ガイがアンナを褒めるので
今度は僕が得意気になってしまう。
「当然でございます。
何があっても対応できるよう
魔石は常に常備しております。
それに、この旅では、
ぼっちゃまが快適に
お過ごしになれるよう、
宿屋の空調、
飲食物の温度など
すべて魔石で調整できるよう、
通常以上に準備して参りました」
「アンナ、すごい!
僕のためにありがとう!」
僕が手放しでほめると、
アンナはまた口角を上げる。
「いいえ、当然のことでございます。
アンナは、ぼっちゃまのために
ここにおりますので」
ちらり、とまたアンナはガイを見た。
なぜかガイが悔しそうだ。
もしかしてアンナが優秀だから
羨ましいのかな。
ブレイトン公爵家にアンナは
渡すことはできないけれど。
でも、結婚したら
ガイは僕と一緒に住むし、
アンナも一緒だ。
「ガイ、大丈夫だよ。
結婚したら、アンナも一緒だよ」
ガイが、え?と僕を見る。
「アンナが優秀だから、
いいな、って思ったんでしょ?
でも結婚したらガイもアンナに
お世話してもらえるよ」
「いや、俺はいい」
「私はぼっちゃま専属ですので」
と二人の声が重なった。
ものすごく気が合った気がするのに、
二人で互いを拒否するの?
僕は目を丸くして
二人を見つめてしまった。
知らないベッドだった。
ものすごく広いベッドで、
僕は慌てて起き上がる。
アンナを呼ぼうと思って
部屋を見回すと、
近くにあったソファーで
横になって寝ているガイがいた。
そこで僕はここが
宿屋だってことを思い出したんだ。
僕はベッドから下りて
ガイのところへ歩く。
その足音に気がついたのか
ガイが目を覚ました。
「エレ?」
「おはよう、ガイ」
僕は起き上がって
ソファーに座ったガイの隣に座る。
「なんでベッドで寝なかったの?」
僕の寝相が悪かったとしても、
ベッドはものすごく広かった。
絶対一緒に寝ても大丈夫なはずだ。
「いや、その、そうだな。
ちょっと酒を飲んでしまってな」
その言葉通り、
テーブルにはお酒のグラスがある。
「そのまま寝てしまったらしい」
ちょっと飲みすぎたようだ、
なんてガイは笑いながら言う。
「エレと旅行ができて
嬉しすぎたんだな」
そんなことを言われると
僕も嬉しくなる。
僕も!
って言おうと思ったら、
部屋をノックする音がした。
「ぼっちゃま、お目覚めでしょうか」
「うん!」
僕が返事をすると、
ガイがすぐに立ち上がり
部屋の扉を開けた。
「おはようございます、
ぼっちゃま。
よくお眠りになりましたか?」
「うん。ぐっすりだったよ」
ベッドはふかふかだったし、
ものすごく眠たかったから、
ガイがお風呂から上がるのを
待てずに寝ちゃったんだ。
僕がそういうと、
アンナは大きくうなずいた。
「それはようございました」
ん?
よかったこと……なのかな?
「では、お着替えを。
朝食は部屋に運ぶよう、
手配済でございます」
アンナはそう言いながら
僕をベッドのそばまで
移動させた。
衝立を使って、
その陰で僕を着替えさせる。
なんでこんなことするの?
ってアンナに聞いたら、
『大人のたしなみでございます』
と言われた。
『たしなみ』
また難しい言葉が出てきた。
言葉の意味は分かるけれど、
なぜ今、ガイの前で
隠れて着替えなければ
ならないのかが、わからない。
まだまだ僕には
大人の世界は難しい。
僕の着替えが終わって、
衝立の陰から出ると、
ガイはすでに着替えていた。
アンナが僕をソファーに座らせたとき、
見計らったように
ノックの音がする。
アンナが扉を開けると、
ガイの侍従が僕たちの
朝食を運んできた。
「わぁ、おいしそう」
あたたかなパンと紅茶。
それからサラダとハム。
卵も添えられている。
アンナも侍従も朝食の
準備を終えるとすぐに
部屋から出て行く。
食べ終わったら、
すぐにでも出発できる
準備をするらしい。
僕とガイは朝食を
食べながら今日の予定を
話し合った。
ガイの話では、
今日中に別荘に着くことは
できるけれど、
別の町でもう1泊してから
別荘に向かうこともできるという。
僕は初めて見る町に
わくわくしたけれど、
最初はまっすぐ別荘に
行くことにした。
だって今回の旅行は
温泉に入るためのものだもの。
その代わり、
帰路では、少し寄り道して
いろんな町を見てみたい。
お土産も欲しいし、
お土産を買うのなら
帰路の方が荷物にならないから
絶対にいいと思う。
僕の話にガイもうなずいてくれて、
僕たちは食事の後、
すぐに宿を出た。
お昼ごはん用のサンドイッチも
宿屋で作ってもらったみたいで、
それを途中休憩で食べたら、
夕方までには別荘に着くという。
初めてのお泊りだ。
昨日も初めての宿だったけど、
堪能する前に疲れて
眠ってしまったから、
今日は頑張って起きておこう。
馬車は相変わらず揺れたけれど、
僕はガイの膝に乗せてもらって、
ものすごく頑張った。
どれぐらい頑張ったのかというと、
休憩しましょう、と
馬車が止まって、
侍従の人が声を掛けてくれた時、
僕はガイの膝から下りたけど
頭がぐらぐらして、
一人で歩けそうになかった。
ガイが僕を抱きあげて
馬車からおろしてくれたけれど、
僕はもう地面に寝ころびたかったぐらいだ。
馬車が止まった場所は
大きな湖のそばだった。
馬車道の横は
草原みたいな場所で、
僕たちは木陰に布を敷いて座る。
アンナが冷たい飲み物を
用意してくれて、
僕はそれを飲んで一息ついた。
ここで一旦、休憩らしい。
アンナがサンドイッチを
広げてくれて、
今度はあたたかいお茶を
カップに入れた。
外出用なので、
食器は全部木製だったけれど、
ちゃんとお茶はあたたかい。
「頑張ったな」
ってガイが僕の頭を撫でてくれる。
「うん」
「ほら、あれが別荘だ」
ガイの指す方向を見ると、
大きな湖の反対側に
確かに屋敷が見える。
「この辺りはもう、
ブレイトン公爵家の領地になる。
ブレイトン公爵領は
王都には近いが、
見ての通り、自然が多い。
鉱山も所有してはいるが、
あまり目立った産業もなくてな。
ただ、温泉が湧く土地が
かなり見つかっているから、
観光地として収入を得ているんだ」
僕はガイを見た。
ガイは凄い。
ちゃんとブレイトン領のことを知っている。
僕は……全然わからない。
バーンズ侯爵領のことも、
教えてもらったことは知っている。
でも、ただそれだけだ。
実際にこの目で見たこともないし、
いつかガイと一緒に
領地に行ったとしても、
僕はガイに説明どころか
案内することもできないだろう。
「どうした?」
僕が落ち込んだことに気が付いたのか
ガイが僕の顔を覗き込む。
「ううん。なんでもない。
ただガイはなんでも知ってるんだなって」
「俺はエレよりも長く生きてるからな」
ガイは笑って僕の頭を撫でた。
「それより、食べれそうか?」
「う……ん」
サンドイッチを見て
僕は言葉を濁す。
正直、あまり食べたくない。
「ぼっちゃま、
こちらはいかがでしょうか」
アンナが僕に焼き菓子を見せた。
「パウンドケーキでございます」
「うん、ありがとう。
それなら食べれそう」
僕がアンナにお礼を言うと、
なぜかアンナはちらりとガイを見た。
「いいえ、このアンナ、
ぼっちゃまのことを
すべて理解しておりますので」
「?? そうだね?
アンナは僕のことを
よくわかってくれてると思う。
いつも感謝してる」
ありがとう、って言ったら
またアンナは珍しく
口元を少し上げてガイを見る。
なんだか満足そう?
「たしかに、アンナは
すごい侍女だな。
魔石を使って
水の温度を変えるとは。
旅先で冷たい水や
熱いお茶を飲めるとは
思ってなかった」
ガイがアンナを褒めるので
今度は僕が得意気になってしまう。
「当然でございます。
何があっても対応できるよう
魔石は常に常備しております。
それに、この旅では、
ぼっちゃまが快適に
お過ごしになれるよう、
宿屋の空調、
飲食物の温度など
すべて魔石で調整できるよう、
通常以上に準備して参りました」
「アンナ、すごい!
僕のためにありがとう!」
僕が手放しでほめると、
アンナはまた口角を上げる。
「いいえ、当然のことでございます。
アンナは、ぼっちゃまのために
ここにおりますので」
ちらり、とまたアンナはガイを見た。
なぜかガイが悔しそうだ。
もしかしてアンナが優秀だから
羨ましいのかな。
ブレイトン公爵家にアンナは
渡すことはできないけれど。
でも、結婚したら
ガイは僕と一緒に住むし、
アンナも一緒だ。
「ガイ、大丈夫だよ。
結婚したら、アンナも一緒だよ」
ガイが、え?と僕を見る。
「アンナが優秀だから、
いいな、って思ったんでしょ?
でも結婚したらガイもアンナに
お世話してもらえるよ」
「いや、俺はいい」
「私はぼっちゃま専属ですので」
と二人の声が重なった。
ものすごく気が合った気がするのに、
二人で互いを拒否するの?
僕は目を丸くして
二人を見つめてしまった。
60
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない
深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。
聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。
ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。
――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。
何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。
理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。
その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。
――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。
傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
断罪回避のために親友と仮婚約したはずが、想像以上に執着されていた。
鷲井戸リミカ
BL
ある日アーサーは、自分がネット小説の世界に転生していることに気が付いた。前世の記憶によれば親友のフェルディナンドは、悪役令息という役割らしい。最終的に婚約者から婚約破棄され、断罪後は国外追放されてしまうのだとか。
大事な親友が不幸になるのを見過ごすわけにはいかない。とにかく物語の主人公たちから距離をとらせようと、アーサーはフェルディナンドを自分の婚約者にしてしまった。
とりあえず仮婚約という形にしておいて、学園を卒業したら婚約を解消してしまえばいい。そう考えていたはずがアーサーのとある発言をきっかけに、フェルディナンドの執着が明らかになり……。
ハッピーエンドです。
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
拗らせ問題児は癒しの君を独占したい
結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。
一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。
補習課題のペアとして出会った二人。
セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。
身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。
期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。
これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる