長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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89:ちょっと一休み

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 別荘地に着くと、
管理をしているという夫婦と、
僕たちよりも先に
出発していたという
侍女や侍従たちが僕たちを出迎えてくれた。

僕はガイに部屋を案内してもらって、
ちょっと一休み。

アンナはブレイトン公爵家の
侍女たちに混ざって
一緒に仕事をしている。

ケインもブレイトン公爵の
護衛たちと交代で
訓練したり警護したりするらしい。

僕の部屋は日当たりの良い場所で
大きなバルコニーがある。

別荘は2階建てだったけれど、
部屋は1階で、中庭に
面した部屋だった。

バルコニーに出ると
階段が数段あって、
そこから中庭に出ることができる。

通常、貴族の屋敷では
1階部分は使用人たちが
行き来する場所で、
2階から上はその屋敷の
主人やその家族の部屋になる。

けれど、ガイ曰わく、
この別荘では1階に
主の部屋があり、
客間もあるという。

その理由が、温泉だ。

温泉は屋敷の各部屋にある
風呂だけでなく、
大きな大浴場にも引かれている。

大浴場はお湯の量が
多いために、1階に
設置されているらしい。

時間を決めて
使用人たちも入れるように
なってるらしいけれど、

僕は入りたくなったら
いつでも入って構わないと
ガイに教えてもらった。

それだけじゃなく、
この別荘には中庭に
露天風呂もあるという。

それも、この部屋に
面している中庭の中に。

ガイもこの別荘に来たときは
気軽に部屋から中庭に出て
露天風呂に入っているというから驚きだ。

散歩に行くように庭に行き
そのままお風呂に入るなんて
考えたこともなかった。

ガイの話では今は
季節的に無理だけれど
雪が降る時期に別荘に来ると、
寒い雪の中で熱い露天風呂に
入ることだってできるらしい。

裸で外に出るのは寒いけれど、
とてつもなく楽しいんだと
ガイは笑って僕に教えてくれた。

そのガイの部屋は、
僕の隣の部屋らしい。

でもね。
この部屋は隣の部屋と
繋がっているんだ。

しかも、扉がない。

だから僕は今、
バルコニーから部屋の中を見ると
隣の部屋から僕の部屋に
歩いてくるガイの姿が見えた。

「エレ?」

「はーい」って僕は返事をする。

ガイは「そこか」って、バルコニーまで来てくれた。

「綺麗なお庭だね」

「あぁ、その奥に温泉がある。
見に行くか?」

「行く!」

ガイはわかったとうなずき、
僕の手を引いて
バルコニーから庭に下りようとする。

僕はルームシューズを
履いていたから、
このまま庭に出て良いのか迷った。

「大丈夫だ」

ガイがそう言うので
バルコニーを出て、
階段を降りる。

すると、降りた場所には
大きな石が敷いてあり、
僕でもすぐに履けるような
サンダルが置いてある。

濡れても大丈夫な布地で
真新しいように見えた。

「いつでも露天風呂に
入れるように、
準備をさせておいたんだ」

ガイはそう言い、
靴を脱いでサンダルを履く。

僕も真似をして
置いてあったサンダルを履いた。

ちょっと大きかったけれど、
歩くのには問題なさそう。

ガイは僕の手を引き、
中庭へと足を進める。

中庭には迷路みたいな
背の高い垣根があって、
温泉はその奥にあった。

ガイが言うには、
ちょうど中庭の真ん中辺りに
温泉があるらしい。

周囲は背が高い垣根で
覆われているから
外から見られることはない。

露天風呂の入り口には
ちゃんと小屋があって、
その中で着替えることができるし、
タオルとかも小屋の中に
準備されているという。

この場所は使用人たちには
開放していないから、
本当にいつでも、
誰に気兼ねすることなく
入りに来てもいいとガイは言った。

「じゃあ、今からでも?」

僕が聞くと、
ガイは、「まぁ、そうだが」
と言葉を濁す。

「今は着いたばかりだし、
少し休んだ方が良いんじゃないか?

それにな。
夜、星を見ながら
この風呂に入るってのも
結構、良いんだ」

「星を見ながら?」

「あぁ。
子どものころは、
水筒を持ち込んで、
湯に浸かりながら星を見て、
疲れたら水を飲んで、
なんてことを繰り返してた」

ええ!?
なんかものすごく楽しそう!

「それに湯に浸かっててもな、
体が熱くなっても、
外に出て少し休んだら
すぐに冷えるだろう?

だから何度でも湯に入れるんだ」

「やってみたい!」

って思わず言うと、
ガイは「じゃあ、今夜な」と笑う。

「うん!
約束! 約束だよ」

楽しみすぎる!

僕はわくわくしながら
ガイと部屋に戻る。

その後、ガイに屋敷の
中を案内してもらい、
屋敷の中の大浴場の場所や
食堂の場所なども聞いた。

僕とガイの部屋は
扉もなく続いているけれど、
ここはもともと、
ガイが小さいころに
家族で過ごすための部屋だったらしい。

子どもたちが勝手に
露天風呂に行かないように
子供部屋と夫婦の部屋を
隣同士にしたけれど、

それでも不安だからと、
部屋と部屋との間の
壁の一部を壊してしまったんだとか。

「俺も小さいころは
やんちゃしていたんだ」

と照れくさそうに言うガイに
僕は笑ってしまう。

見てみたかったな、
子どもの頃のガイ。

僕の部屋はガイと
ガイのお兄さんが
小さいころに使っていた
部屋らしくて、
家具とかは入れ替えたけれど、
部屋の壁紙とかはそのままらしい。

「ほら、ここ」

ガイが僕の部屋の
ベッドの横の壁を指さす。

壁にはたくさんの印が付いていた。

「これは?」

「兄と俺とで背比べしててな。
背の高さに合わせて
壁に傷をつけてたんだ」

そんなことして大丈夫なの?
って僕は驚いた。

壁に傷をつけるなんて。

しかも壁の傷はたくさんあって、
僕の背よりも高い場所まで
しるしが付いている。

「ガイって、
小さいころから
背が高かったんだね」

「そうだな。
ただこの印は俺が
16歳くらいの頃の傷だからな」

ガイはそういって
僕の髪を撫でる。

「エレもこれからだ」

「うん」

そうだ。
僕もこれから背が伸びるはず!
だって成長期だもの。

壁の傷以外は、
僕の部屋もガイの部屋も
置いてある家具や
壁紙なども全部同じだ。

ただ、ガイの部屋の
ベッドの方がかなり大きい。

きっとガイの両親が
使っていたベットなんだろう。

僕の部屋のベッドは
新しいものになっていたから、
もしかしたら僕のために
買い替えてくれたのかもしれない。

僕はガイが使っていたベッドでも
良かったんだけどな。

「じゃあ、ちょっと休むか」

一通り説明したと
ガイが言ったとき、
部屋の扉を誰かがノックする。

「ぼっちゃま。
アンナでございます」

「アンナ?
いいよ、入って」

僕がそういうと、
アンナがワゴンを押して
部屋に入ってきた。

「お茶のご用意をして参りました」

「うん、ありがとう。
ちょうど休憩しようと
思ってたんだ」

僕が近くのソファーに座ると
ガイも向かいの椅子に座ってくれる。

アンナが僕の前で
お茶を淹れて、それから
小さな焼き菓子をテーブルに置いた。

「ぼっちゃま、
お召し上がりになりましたら
少しお休みください」

「え? 大丈夫だよ」

「いけません。
馬車の旅はお疲れでしょう。
夕食まで時間がまだございます。

ここで無理をして
また体調を崩されでもしたら
兄君様が何と申されるか……」

確かに、って僕は思った。

無理して熱を出したりしたら、
もう屋敷の外に
出してもらえないかもしれない。

「わかった。
じゃあ、食べたら休むね」

「はい。
夕食の時間になりましたら
お声掛けさせていただきます」

アンナはそう言って頭を下げた。

「ガイは?
ガイも僕と一緒に休む?」

アンナが部屋から出るのを見送り
僕はガイを見た。

僕が休んだら
ガイがひとりぼっちになっちゃう。

「そうだな。
じゃあ、エレが休むまで
そばにいよう」

「ほんと?」

「あぁ」

「やった!」

僕は嬉しくて立ち上がり、
ガイの膝に座る。

「じゃあね、じゃあね、
一緒に寝る?」

「そ、そ、それは……」

ガイを見上げると
耳を赤くしたガイは、
「夜なら」と小さく言う。

夜?
夜は一緒に寝てくれるってこと?

「じゃあ、夜はお風呂に行って
一緒に寝よう」

僕がそういうと、
ガイは、なぜか周囲を見回してから
「そうだな、邪魔が入らなければ」
ってうなずいた。

邪魔なんて誰もしないよ、って
僕は笑ってお茶を飲む。

それから僕はガイと一緒に
お茶を飲んでから、
ベッドに潜り込む。

疲れてないし、
眠くない、って思ってたけど。

ガイに手を握ってもらったら
やっぱり疲れてたんだと思う。

僕はあっという間に眠ってしまったんだ。



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