長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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96:迷子

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 大変だ!
僕は今、ものすごく焦っている。

なんでって、
僕はたぶんだけれど、
迷子になってしまったんだ。

僕はガイと手を繋いで
町を歩いていた。

そしたら後ろから
女性の悲鳴が聞こえてきて、

ケインとガイが僕を守るように
振り返った。

その時、僕の背にガイが
回ったから、繋いでいた手が
離れちゃったんだ。

その時、3人の男の人たちが
僕の方へ走ってくるのが見えた。

「ひったくりよー!」って
女性の声がする。

たぶんだけど、
僕たちを周囲で守ってくれていた
護衛たちがその3人を
押さえ込むように僕の前に出た。

でも、犯人の一人が
護衛たちの手から抜け、
僕の方へ向かってくる。

ケインがその男を
捕まえようとしたら、
その男は持っていたカバンを
僕の後ろに投げたんだ。

その後ろにまだ一人、
仲間がいたみたいで、
咄嗟にガイがその仲間を
捕まえるべく走りだした。

あっという間のことで、
僕は1歩も動けなかった。

ものすごい騒ぎで、
憲兵みたいな人たちが来て、
ガイやケインが話を聞かれて。

僕はそばで待ってたんだけど
人が多くて、どんどん
ガイたちの後ろに追いやられた。

でも近くにいたしし、
大丈夫だって思ったんだ。

人がいっぱいで、
ガイの姿が見えなくても、
すぐそばにいるって思ってた。

でも、気が付いたら
僕は道の端に、
ひとりぼっちだったんだ。

どうしよう。

僕、迷子になんかなったことがない。

だって外にでたことなかったもん。

こんな時、どうしたらいいのかわからない。

どうしよう、どうしよう。

「どうしたの?」

オロオロしていたら、
籠に花をいっぱい入れた女性が
僕に声を掛けてくれた。

「あの、あの」

「お花、いる?
好きな人に告白できずに
困ってるの?」

「えっと、あの」

僕はなんて言っていいかわからない。

「もうすぐ昼だし、
よかったらお花、あげるわよ?」

「あの、お花……」

「朝から売り歩いたんだけど、
全然売れないの。
やっぱり屋台が人気よねぇ」

そう言って笑う女性は
茶色い長い髪を
指で掻き上げた。

茶色い大きな目が
幼そうに見えるけれど、
僕よりは年上だと思う。

「どの色がいいかしら?
あなた、好きな人はいる?」

「ぼ、僕……」

好きな人は、いる。
でも、ガイはどこかに行ってしまった。

僕は、べしょーって涙が出てきた。

「やだ、どうしたの?
おなかすいた?
花より食べ物?
それともお腹痛い?」

「僕、迷子なの」

「えぇ!?」

って女の人は大きな声を挙げた。

「迷子ってあなた、いくつ?」

「十四歳」

「迷子なの?」

「……うん」

大きいのに、って思われたかな?

でも、迷子なんだもん。

「あぁ、待って。
ほら、泣かないで。
大丈夫よ。
えっと、迷子の子は……
そう、騎士団の詰め所に行けばいいわ」

「騎士団?」

「そうよ。
領主様の私設騎士団があるの」

ものすごく強くて
頼れるんだから。

って女の人は言う。

それから「ここよ」
って小さなカードを見せてくれた。

このお祭りで困ったときは、
ここに来てください、って
騎士団の人たちが配っているものらしい。

僕はそのカードをもらったけど、
一人で行ける気がしない。

僕の様子に気が付いたのか
女の人は「大丈夫、
一緒に行ってあげる」と
僕の手を引いた。

騎士団だったら、
大丈夫かな?

もしかしたらガイがいるかも。

でも、ガイも僕を探して
くれているかもしれない。

ここから動いていいのかな

「あの、ちょ、ちょっと待って」

僕は近くの街路樹の枝に、
ポケットに入れていた
ぬいぐるみを置いた。

ぬいぐるみの
鈴にさっきのカードを
はさむのを忘れない。

女の人は優しくて、
僕にハンカチを貸してくれて、
町のことを教えてくれた。

町は観光で栄えているけれど、
昔は鉱山の町だったとか、
温泉が出るようになってから
領主様は観光に
力を入れるようになったとか。

領主様って、ガイのお父さんのことだよね。

女の人は僕の手を握っていたけれど、
騎士団の詰め所までくると
「ここよ」と言い、手を離す。

「ひとりで行ける?」

「僕、一人で?」

「ええ、一緒に行ってあげたいけれど、
ほら、あなた、貴族様でしょう?

こんな綺麗な指をして。
私とは世界が違うし、
関わらない方が良いわ」

言われている意味がわからない。

「私はただの平民だし、
あなたと一緒に居て
変な疑いをかけられてもこまるもの」

「疑い? どんな?」

「そうね、誘拐……とか?」

そんなわけないのに。

僕は今度は自分から
女の人の手を握る。

誘拐なんて勘違いは
絶対にないと思うし、
何より僕は一人で知らない場所で
迷子ですって説明できると思えない。

女の人は僕が手を握ると
驚いたみたいだったけど、
しょうがないわね、と肩をすくめる。

確かに女の人の手は
カサカサしている。

アンナの持っている
お手入れ用のクリームがあれば
僕が塗ってあげるのに。

「こんにちはー」

女の人が詰め所の前で
大きな声を出す。

詰め所は小さな小屋で、
木製の扉が付いていたけれど、
扉は開けっ放しだった。

「どうした?」

「迷子を連れてきました」

「迷子?
どこだ?」

ガイと同じぐらいの年の
少し怖そうな騎士が
きょろきょろと周囲を見る。

「この子です」

「あぁ?」

冗談言いに来るな、と
強い口調で言われ、
僕はまたべしょ、ってなった。

「ちょ、なぜ泣く!?」

「騎士様、この子が迷子なんです」

泣かせないでください、って
女の人が僕が持っていたハンカチで
涙を拭いてくれた。

「迷子って、こんなに大きいのにか?
家がわからないのか?」

大きな声で言われただけで、
僕は怖くなってしまう。

だってこんな厳しい声で
僕に話しかける人なんて
今までいなかったんだもの。

「ちょっと、騎士様。
怖がらせないでください」

「怖がらせてなんか、ないだろう!」

と怒鳴る声が、もう怖い。

「うえぇ」

思わず声が漏れる。

「ちょ、泣くな!」

「怖い~っ」

「ほら、怖いって!」

女の人が僕を守るように
騎士と僕の間に立ってくれる。

「エレ!」

そこに僕の大好きな声が聞こえた。

振り返るとガイが走ってくるのが見える。

「ガイ―っ」

僕がガイを呼ぶと、
あっという間にガイは僕の
前に来ると、僕を抱き上げた。

「大丈夫か?
心配した!
すまない、一人にしてしまたった」

僕はガイの首に腕を回し、
ガイの頬に自分の頬を擦り付ける。

「ガイディス様!?」

怖い騎士がガイを見て敬礼する。

「ガイ、この怖い人、知ってるの?」

「怖い?
貴様、エレを怖がらせたのか?」

「い、いえ、
迷子というので、
職務質問を……」

「怖かったの。
僕、一人ぼっちで……
道で、誰もいなくて」

ぽろぽろ涙が出てくる。

ガイが僕を下ろして、
背中をさすってくれる。

「でもね、お姉さんが
声を掛けてくれたの」

「お姉さん?」

「お花の、お姉さん。
僕をここまで連れてきてくれたの」

ガイがようやく
そばにいる女の人に視線を向けた。

「そうか。
このカードはその女性が
エレに渡したんだな」

ガイが僕に獅子の子の
ぬいぐるみを渡してくれた。

「うん、僕にね、
大丈夫?って。
ハンカチ貸してくれた」

「そうか。感謝する」

「い、いえ、その私は別に」

「ガイ、あのね。
お姉さんね。
お花が売れ残っちゃったんだって」

「そうか。
では全部俺がいただこう」

「え? え? いいんですか?」

「あぁ、もちろんだ」

「それとね。
アンナのクリームを
お姉さんにあげたいの」

「アンナの?」

ガイは首をかしげたが、
わかった、と頷いた。

「エレミアス様!」

「ケイン」

ケインが遠くから
走ってくる。

「あれほど迷子には
ならないでください、って
言っておいたでしょう」

ケインは僕の前に来るなり、
そんなことを言う。

「好きで離れたわけじゃないもん」

「心配したんですよ。
もしエレミアス様に
何かあったら、
一生、屋敷で監禁コースでした」

「兄様には内緒にしてて!」

っと、咄嗟に叫んだ僕は
悪くないと思う。


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