長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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 ガイの話では、
あのひったくりの犯人たちは
祭りの度に集団で
お金を奪う常習犯だったらしい。

 護衛やケインたちも
私設騎士たちと一緒に
犯人たちを捕まえて、
その後、私設騎士の人に
状況を説明しているうちに
僕の姿が見えなくなったことに
気が付いたという。

 でもガイが僕のぬいぐるみが
樹の枝に置いてあるのを見つけて
慌てて騎士団の詰め所に来たらしい。

 僕はものすごく心細かったけれど、
迷子になった時間は、
ほんの数分だったみたいだ。

 ガイは護衛の人に命じて
アンナが使用しているのと
同じだというクリームを
持ってこさせた。

僕はそれを女の人に
お礼として手渡すことにする。

ここまで連れてきてもらって
本当に助かったから。

ガイはあの怖い騎士と
なにやら話をしているので、
僕の隣にいるのはケインだ。

「お姉さん、これどうぞ」

女の人の籠の中にあった花は
全部ガイが買い取った。

花は別の護衛が
馬車に運んでくれている。

「いいの?
私、あまりなにもしてないけど」

「うん。僕ね、
声を掛けてもらって
嬉しかったから。

これはね、僕のアンナが
手が荒れるからって、
いつも塗ってるクリームなの」

「……ものすごく
高級品の気もするけれど、
ありがたく頂いておくわ」

女の人は、キャシーと名乗った。

この町で普段はパン屋を
営んでいるという。

でも花まつりの日は、
朝、パンを焼いてから
籠に庭で咲いた花を
入れて売りに出るんだそう。

ガイはこの後、
キャシーさんのパンの店にも
パンを買いに行こうと言う。

キャシーさんは大喜びだ。

「エレ、行くか」

ガイが僕のそばに来る。

僕は両手を広げた。

抱っこして、だ。

今日はもう、抱っこしかない。
だってもう離れたくないもん。

僕の様子を見ていた
キャシーさんは目を丸くして
「まぁ、確かに花はいらないか、
それとも全部かのどちらかよね」
とつぶやく。

「改めて礼を言う」

ガイがキャシーさんに言うと、
とんでもない、と
キャシーさんは手を振った。

「貴族様に失礼な真似を致しました」

「構わない。
楽にしてくれ。
エレの恩人だ。
それにこの町は俺の町でもあるんだ」

領主の息子だから、
という意味でガイは
言ったと思うけれど、
キャシーさんには
意味がわからなかったみたいだ。

それでもキャシーさんは
僕たちを店まで案内してくれた。

普段は昼過ぎには
パンは全部売り切れるらしいが
今日はお祭りなので、
まだまだパンは沢山残っていた。

花の形をしたパンだけ
売り切れているという。

ガイはじゃあ、と
残っているパンをすべて
購入した。

別荘のみんなで
食べればいいという。

キャシーさんも、
お店にいたキャシーさんの
両親も大喜びでガイにお礼を言っていた。

僕も嬉しくてガイにお礼を言う。

でも、こんなにお金を使って
大丈夫だったのかな。

パンは全部袋に入れて
護衛の人が持ってくれた。

ケインは、
「俺は護衛ですんで」と
言って、荷物を持とうとはしない。

いいのかなぁ。

「ねぇ、ガイ。
あんなに沢山、
買ってよかったの?」

「あぁ、お礼を兼ねてたし、
こういう時は、
金を使う方がいいんだ」

「そうなの?」

「王都で金を使って
経済を回すことも大切だが、
どうせなら領地で
お金を落した方が、
領民にとってはいいだろう?」

確かに!

「すごい、すごい。
ガイはそこまで考えてるんだ」

僕はそんな考えを
持ったことがなかったから驚いた。

でもそうだと思う。

お金を持っている人が
領地でお金を使えば、
その分だけ領地は潤うんだ。

「やっぱりガイは凄いなぁ」

ガイに抱っこしてもらったままで
僕はガイに抱き着く。

「そうでもないさ。
俺も父や兄の受け入りだ」

ガイは笑うけど、
知識で知っているのと
実際にできるのとは
僕は違うと思う。

「もう、ガイ。好き」

「え? は?」

思わず言うと、
ガイはおたおたする。

でもちゃんと
「俺もだ」って小さな声で
返事をしてくれた。

ふふふ。
こういうの、いいな。

さっきまで僕は迷子で
べしょべしょしてたけど。

ガイが来てくれただけで
僕はあっという間に元気になる。

僕はガイに抱っこしてもらったまま
花祭りの町を移動した。

アンナのために花の髪飾りを買って、
それから、おやつのお菓子も買う。

もちろん、花の形をした焼き菓子だ。

それから本屋にも寄った。

ガイが欲しい本があるというので
立ち寄ったんだ。

ガイが会計している間、
僕はケインと一緒に
本屋の中で待っている。

今度はもう迷子にはならないぞ!

ちゃんとケインのそばで待つんだ。

とはいえ暇なので、
本屋の中を見回す。

あ、って僕は思った。

ケインのそばから
動けないから
遠くから本を見るだけだけど。

背表紙に『閨の教科書』って
文字が書かれている。

そうだ。
閨問題だ。

ケインたちは
婚約者か好きな人にしか
聞いたらダメっていってた。

ということは、
ガイになら聞いてもいいんじゃないかな。

ケインたちも詳しくは
知らないみたいだったから、
僕がガイに教えてもらったら
二人にも教えてあげられるかも。

でも婚約者としか
話ができないのに、
本なんて売ってるものなのかな?

誰でも学べるんだったら、
婚約者だけ、とかにはならないよね?

うーん、あの本の中身が見てみたい。

でもケインのそばから
離れるわけにはいかないし。

「すまない、待たせた」

僕が迷っているうちに
ガイが戻ってきてしまった。

「どうした? エレ」

「ううん、なんでもない」

やっぱりガイに聞くしかない。

それにまだこの町に
滞在するんだもの。

どうしても欲しくなったら
この本屋に買いに来たらいいんだ。

僕はそう結論付けて、
やっぱり、抱っこ、と
ガイに抱っこしてもらう。

「今日はもう戻るか」

「うん」

迷子になって泣いたせいか
ちょっと疲れちゃた。

でも、ガイと離れたくないな。

「ねぇ、ガイ」

「なんだ?」

「帰ったら一緒に
お昼寝しよう?」

「え?」

「僕ね、今はガイと離れたくないんだ」

でも疲れたの。

って僕が言うと、
ガイは「そ、そうか」って返事をする。

そして。

「アンナが許可したらな」
って言った。

なぜアンナの許可がいるのか
わからない。

それにアンナは侍女だから
許可を出すのなら
僕がガイの方だと思う。

僕は首をかしげるしかない。

でも。

「大丈夫だよ、
アンナは僕がしたいことに
反対はしないもん」

僕がそういうと、
ガイは、そうだな。って
苦笑しながら頷いた。



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