長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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100:庭での食事

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 僕はアンナに髪を洗ってもらった後、
少し休憩することにした。

夕食までには
まだ時間があると思う。

森を探索して、
ちょっと疲れたみたいだ。

というか、ドキドキしすぎて
疲れたんだと思う。

ガイのキス。

何度も重なった唇と、
それから、ちゅって
吸われた瞬間を思い出し、
僕は体を熱くしてしまう。

アンナは冷たいお茶を
準備したらすぐに
部屋を下がったから
気が付かなかったと思うけれど。

僕ってば、自分でもわかるぐらい
おかしくなってしまった気がする。

だって頭の中が
ガイでいっぱいなんだもん。

僕はソファーに座り、
冷たいお茶を飲んだ。

でも、グラスに唇が
触れた瞬間、
またあのキスを思い出して
僕は恥ずかしくなる。

あれが、ねやごと、なんだよね。

しかも最初のステップだったみたい。

あれが初歩だとしたら、
今度はどんなことをするんだろう。

僕、ちゃんとできるかな?

だって、あのキスだけで
僕は心臓がバクバクで、
何も考えられなくなったもの。

あれ以上のことなんて
できそうにない。

僕は胸を押さえて
顔を熱くしたり、
唇を指でなぞってぼーっとしたり。

どれぐらいの時間過ごしたのか、
気が付けば冷たかったお茶は
次にグラスに触れたときは
ぬるくなっていた。

「エレ」

「ひゃっ」

急に声を掛けられ、
僕はびっくりして立ち上がる。

「すまない、驚かせたか?」

ガイが隣の部屋との間から
顔をのぞかせていた。

「ううん。大丈夫」

「その、森は嫌だったか?」

「そんなことないよ、
馬に乗るの、
初めてだったから
ちょっと疲れただけで。

あ、でも、楽しかったよ。
また行きたい」

疲れたっていうと、
二度と馬に乗せてもらえないかも、
と僕は、楽しかった、って
慌てて付け足した。

ガイの表情が一瞬、曇ったからだ。

「そうか、良かった」

ガイがほっとしたように言う。

もしかして、馬じゃなくて
あのキスのことを
聞いてきたのかも?

と、思ったけど、
訂正するのも変なので
僕はそれ以上は何も言わず、
ガイに隣に座るように促した。

僕の隣をポンポンってすると、
ガイはすぐに僕の隣に座ってくれる。

「夕飯だが、今日は庭で
食べようと思うだが、
どうだ?」

「庭で?」

「あぁ、エレが以前、
屋台の肉が食べたいと
言っていただろう?

あれと似たよなものを
庭で作ろうと思ってるんだ」

あの屋台の?
凄い。
食べたい。

僕の表情を見て、
ガイは笑った。

「本物の屋台の肉は固くて味も濃いからな。
庭で焼くのは、エレのために
用意した柔らかい肉だ。

だから味を占めて
一人で屋台のものを食べたらダメだぞ」

「大丈夫だよ、
一人で屋台には行けないもん」

これはほんと。
だって一人で町を出たら
迷子になるって僕はわかったから。

もうあんな怖いのは嫌だもの。

ガイは良い子だ、って
僕の髪を撫でてくれた。

それから僕を抱っこして
庭に連れ出してくれる。

庭では使用人たちが
コンロやテーブルを準備していた。

コンロもテーブルも
ものすごく大きくて、
テーブルは数が多い。

僕とガイが少し離れたところで
様子を見ていると、
大きなコンロに火が付けられて、
肉がその上に乗る。

甘辛いタレの匂いがしてきて
食べてないのに
おなかいっぱいな気分になる。

僕の姿をアンナが見つけて、
僕とガイの椅子を用意してくれた。

僕の目の前では
肉や野菜が焼かれていく。

それ以外にも、
フルーツやパスタ、
パンやサラダなど、
肉以外の料理も
大きな皿に盛られて
厨房から運んでいるんだと思う。

どんどんテーブルに乗せられた。

「ガイ、こんなにたくさんの
料理を作って大丈夫?」

あの宿場町で食べた食堂の
料理以上にたくさん
テーブルに料理が並んでいく。

「あぁ、大丈夫だ。
今日は客を招いているんだ」

「お客さん?」

え。僕、大丈夫かな?
ちゃんと挨拶できるか心配だ。

「大丈夫だ。
エレの知ってる人だから」

ガイが僕の背中を支えてくれる。

誰? って思っていたら、
「こんにちはー」と明るい
女性の声がした。

あれ、って思ったら
執事さんに連れられて
パン屋のキャシーさんがやってきた。

手には籠いっぱいの花持っている。

「今日はお招きありがとうございます。
あの、これ、うちの庭の花ですけど」

僕たちの前でキャシーさんが
花籠を差し出した。

すかさずアンナがそれを受け取る。

「まさか、ご領主様の
ご子息とは知らずに、
申し訳ありませんっ」

ってキャシーさんは頭を下げる。

「いや、自己紹介はしてなかったし
かまわない」

僕も立ち上がって
キャシーさんに挨拶をする。

「こんにちは。
今日はありがとう」

「いえ、なんか、
何もしてないのに、
ご招待してもらって、
本当にすみません。

あ、あのクリーム、ありがとうございます。
ほんとに凄いです」

とキャシーさんが僕に両手を広げて見せてくれる。

「こんなに、手が綺麗になりました」

「うん、良かった」

確かにガサガサしいた指先が
綺麗になっている。

「失礼致します!」

僕がキャシーさんの指を
見ていると、今度は男の人の声がした。

顔を上げると、
あの怖かった騎士が立っていた。

僕はびっくりして
ガイの腕を掴んじゃったけど、
そうだ、この人は怖くない人だって
思い直した。

「よく来てくれた」

「いえ、私のような者にまで
ご招待いただき、
ありがたく存じます」

「エレが気にしていてな」

ガイが僕の顔を覗き込んだ。

そうだ。
僕が後悔していたから、
それに気が付いてガイは
この二人を呼んでくれたのかも。

僕はガイの腕から手を離して
「あの、僕、助けてもらったのに、
泣いてばかりでごめんなさい」

僕は頭を下げる。

「まって、お貴族様に
そんなことされたら……」

「いえ、俺はその、何も…」

二人が慌てたように言う。

でも僕は、キャシーさんに
もう一度、声を掛けてくれて
嬉しかった、ってお礼を伝える。

それからこの騎士にも。

「いきなり泣いてごめんなさい。
あのとき、怖かったのは
騎士さんじゃなくて、
カバンを盗った人のことだったの。

でも僕、誰かに。にらまれたの
初めてだったから、
騎士さんも怖い人に思えてしまって」

「いえ、その、俺はいつも
声がでかくて、顔が怖いと
言われていて……その」

しどろもどろに、騎士は言う。

「職務の時は仕方がない。
愛想を振りまく騎士もいないからな」

ガイがそう言って、
僕の背に手をまわした。

「今日はお礼のために呼んだんだ。
沢山食べて帰ってくれ」

ガイの言葉に二人は頷いた。

それからすぐに肉が焼けたと
料理人たちが肉を持ってくる。

それからあっという間に
無礼講みたいになった。

ガイは私設騎士団の騎士たち
全員を呼んでいたみたいで、
仕事が終わったという騎士たちが
何人も庭にやってくる。

ただ今から仕事だという騎士もいて
そう言った騎士たちは
僕に挨拶をして庭から出て行く。

キャシーさんは料理人たちに
タレの作り方を聞いたり、
アンナにクリームの塗り方を
教えてもらったりしている。

僕より年上なのに、
人懐っこいというか、
コミュニケーション能力が高い。

僕はガイに料理を取ってもらって
ガイの膝の上で食べることしかできない。

僕もいろんな人と
おしゃべりできたらいいんだけど。

でも、緊張して知らない人と
お話をするより、
ガイとひっついていた方が安心する。

日が暮れてくると、
庭には明かりが灯り、
お酒も準備された。

騎士たちは大喜びだし、
使用人たちも交代で
食事を始めている。

キャシーさんとあの騎士は
そろってお礼を言って
夜遅くなるからと
帰って行った。

あの騎士がキャシーさんを
家まで送ってくれるらしい。

アンナもようやく食事をするみたいだ。

ぼーっと庭の様子を見ていたら、
ガイが耳元で僕に囁いた。

「エレ、温泉に行くか?」

「え、でもいいの?」

「あぁ、うちの使用人たちは
こういうのにも慣れてるからな。
大丈夫だ」

そういうと、ガイは僕を抱き上げる。

ここは玄関すぐ横の庭だから、
露天風呂に行くには中庭まで
移動しなければならない。

二人っきりで温泉……。

僕はあのキスを思い出した。

あの、大人のキス。

僕の初めてのねやごと…

また、あれをするのかな?

嫌じゃないけど、
でも、なんか恥ずかしい。

でもするって決まったわけじゃない。

でも、でも。

僕は心臓がドキドキしてきた。

それを誤魔化したくて
ガイの首にしがみつく。

「エレ? どうした?」

「ううん。あの、その、
温泉、楽しみ」

「そうだな。
今日は飲み水を準備して
ゆっくり入ろう」

ガイの言葉に僕は
なんとか平静を装って頷いた。
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