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113:アンナの幸せ
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僕は使用人たちに
ちゃんと謝罪して
持ち場に戻ってもらった。
ケインもアンナもだ。
それからガイに膝に乗せられて
何があったかを詳しく聞かれている。
僕はガイにブレスレットを見せた。
「なるほどな。
不思議な力があるのは
疑いようがないな」
ガイがそういい、
ブレスレットを人差し指と
親指でつまみ上げた。
なんか、汚いものを
触るときみたい。
きっと物凄く稀有で
高価な物なのに、
そんな扱いでいいのかな。
「エレを見初めた眼は
褒めるところだが、
エレの迷惑になるのなら
処分も考える必要があるかもな」
そう言うと、
ガイの指先でまた
ブレスレットが震える。
ガイは一瞬、
驚いた顔をしたけど
「なるほどな」とつぶやいた。
「エレ、明日は馬車で1日掛かるが
エレメントの町に行こう」
「エレメント?」
「あぁ、そこは昨年引退した
大神官殿がいる教会がある。
これを見てもらおう」
「うん」
ガイはブレスレットを
ハンカチに包んでテーブルに置く。
「身に着けるのは、
大神官殿に見てもらってからだな」
「わかった」
テーブルの上でブレスレットが
小刻みに震えていけれど、
もし身につけて
取れなくなったら怖いし。
勇気のある人なら、
幸運のアイテムだ!って
喜ぶんだろうけど、
こういうところが
僕は臆病なんだと思う。
「どうした?」
僕がしょんぼりしたからか
ガイが僕の顔を覗き込む。
「ううん。あのね、
今日も……一緒に温泉に行く?」
「そ、そ、そう、だな」
露天風呂のことがあって
なんとなくお互い、
恥かしいような、
そんな気配がしていて。
あれからちゃんと
誘えなかったけど、
今日が最後なら
一緒にはいりたい。
「よし、夕食までには
時間があるな。
今から大浴場に行くか。
今の時間なら
誰も入ってこないだろう」
夕食を食べたら
夜は露天風呂だ、と
ガイは笑う。
僕が頷くと、
そっと唇が重なった。
「この前みたいな無茶は
しないから」
僕は恥ずかしくて
体が熱くなる。
「無茶……じゃないよ」
何とかそれだけ言うと、
ガイはもう一度
キスをした。
「行く、か」
ガイは膝に乗ったままの
僕を抱き立ち上がる。
僕が落ちないように
ガイの首に腕を回すと、
ガイはちらりとテーブルを見た。
ブレスレットのことを
気にしてるのかな。
でも、このまま置いておいても
誰も触らないと思う。
物凄く珍しいもので、
価値があるのかもしれないけれど。
僕にとっては、
ガイと一緒にいる時間の方が大事だ。
だって僕が欲しくて
手に入れたわけじゃないし。
まだ自分のもの、って感覚じゃない。
無くなっても構わないし、
必要な人の手に行くのなら
それでもいい。
それから僕たちは
大浴場でお風呂に入った。
この前みたいに
ガイに咬みつくような
キスはされなかったけれど。
僕は頬やおでこに
何度もキスされた。
ガイに聞くと、
僕は気が付かなかったけれど、
大浴場には小さなサウナ室があって、
そのために水風呂が
準備されていたみたい。
僕は熱いのが苦手だから
サウナは無理だけど、
なるほどって思った。
あとピリピリしたお湯は、
血行が良くなるとかで、
年配の人には人気のお風呂だとか。
僕の背が届かないぐらい
深いお風呂の場所は、
ある一人の騎士のために
造られたという。
なんでも、
かつて大将軍と
言われていた人が
ガイのお母さんと仲良しだったらしい。
その人の身長は
ガイよりもずっと高くて、
普通に風呂に入ると、
水かさが低く、
風邪を引いてしまいそうになったんだとか。
それを聞いたガイのお母さんが
この別荘の大浴場を改装して、
大将軍が高齢のため
引退した後、何度も
この別荘に招待していたんだって。
友情って凄い。
もしかしたらサウナも
電気の魔石風呂も、
その人のために
作ったのかもしれない。
僕たちがお風呂に入っていたら
アンナが様子を見に来てくれた。
わざわざ様子を見に来なくても
僕はもう溺れないけど。
そんな子供じゃないよ、って
アンナに言ったら、
「念のためでございます。
不埒者が出る可能性が
ございますので」
と、厳しい口調で言う。
ほんと、心配症なんだから。
ブレイトン公爵家の別荘で
不埒者なんて出るはずないし。
でもせっかくアンナが
来てくれたから、
僕はアンナに髪を洗ってもらうことにした。
ガイは先に出て、
夕食の準備を見てくるという。
今日はここに来た日みたいに
ガイが朝、森で狩ってきた
お肉で領地の料理を作ってくれるらしい。
僕は結局、温泉のふちに
頭を乗せて、上を向いて
髪を洗ってもらっている。
僕はガイが頭を洗うのを
横目で見てたんだけど、
ガイは頭から水をかぶって
バシャバシャしていた。
あれができるのは、
髪が短いからだと思う。
「ねぇ、アンナ」
「なんでございましょう」
「僕も髪を短く切ったら
一人で髪を洗えるようになるかも」
僕の言葉に、アンナの手が止まる。
「アンナ?」
「いえ、それは賛成しかねます」
「そう?」
なんで?と僕は思う。
髪が長いと不便だ。
毎日、アンナに手入れを
してもらわないとダメだし、
僕は一人で髪を洗うこともできない。
「ご不便もございましょうが、
ぼっちゃまの美しい髪を
愛でることを喜びと
される方も多くいらっしゃいますので」
アンナはそんな言い方をした。
でも僕の頭には、すぐに
兄の姿が思い浮かんだ。
それから、
あまり会わないけど父と母と。
僕の家族は僕の頭を
すぐに撫でて、可愛い髪飾りを
僕にプレゼントしてくる。
そういえば、
ガイのお母さんや
リリ姉様も僕に女性用の
髪飾りをつけて遊んでいた。
とっても楽しそうだったし、
僕が髪を切ってしまったら、
みんな、悲しむかも?
「そうか、そうだよね。
じゃあ、これからもずっと
アンナに髪を洗ってもらうかも。
ごめんね、アンナ」
「いえ、ぼっちゃまが
謝ることなどございません。
それこそ、
このアンナにとっては
褒美ともとれることでございます」
アンナは一生、
ぼっちゃまにお仕え致しますので。
アンナはそう言ってくれる。
「うん、ありがとう。
僕もアンナがいてくれたら嬉しい」
髪をお湯で流されて
僕が目を開けると、
溶けるような表情で
笑っているアンナの顔が見えた。
いつもの訓練された顔ではなく、
思わずといった様子で。
口元が上がるだけの微笑でもない、
ほんとに嬉しいって顔だった。
僕はびっくりして、
でも僕が見たことがばれたら
アンナはまた無表情に
戻るかもしれないって僕は思って。
僕はアンナの顔には
気が付かなかったふりをして
また目を閉じた。
僕はやっぱり、恵まれている。
ブレスレットなんかなくても
幸せだなぁ、ってそう思った。
ちゃんと謝罪して
持ち場に戻ってもらった。
ケインもアンナもだ。
それからガイに膝に乗せられて
何があったかを詳しく聞かれている。
僕はガイにブレスレットを見せた。
「なるほどな。
不思議な力があるのは
疑いようがないな」
ガイがそういい、
ブレスレットを人差し指と
親指でつまみ上げた。
なんか、汚いものを
触るときみたい。
きっと物凄く稀有で
高価な物なのに、
そんな扱いでいいのかな。
「エレを見初めた眼は
褒めるところだが、
エレの迷惑になるのなら
処分も考える必要があるかもな」
そう言うと、
ガイの指先でまた
ブレスレットが震える。
ガイは一瞬、
驚いた顔をしたけど
「なるほどな」とつぶやいた。
「エレ、明日は馬車で1日掛かるが
エレメントの町に行こう」
「エレメント?」
「あぁ、そこは昨年引退した
大神官殿がいる教会がある。
これを見てもらおう」
「うん」
ガイはブレスレットを
ハンカチに包んでテーブルに置く。
「身に着けるのは、
大神官殿に見てもらってからだな」
「わかった」
テーブルの上でブレスレットが
小刻みに震えていけれど、
もし身につけて
取れなくなったら怖いし。
勇気のある人なら、
幸運のアイテムだ!って
喜ぶんだろうけど、
こういうところが
僕は臆病なんだと思う。
「どうした?」
僕がしょんぼりしたからか
ガイが僕の顔を覗き込む。
「ううん。あのね、
今日も……一緒に温泉に行く?」
「そ、そ、そう、だな」
露天風呂のことがあって
なんとなくお互い、
恥かしいような、
そんな気配がしていて。
あれからちゃんと
誘えなかったけど、
今日が最後なら
一緒にはいりたい。
「よし、夕食までには
時間があるな。
今から大浴場に行くか。
今の時間なら
誰も入ってこないだろう」
夕食を食べたら
夜は露天風呂だ、と
ガイは笑う。
僕が頷くと、
そっと唇が重なった。
「この前みたいな無茶は
しないから」
僕は恥ずかしくて
体が熱くなる。
「無茶……じゃないよ」
何とかそれだけ言うと、
ガイはもう一度
キスをした。
「行く、か」
ガイは膝に乗ったままの
僕を抱き立ち上がる。
僕が落ちないように
ガイの首に腕を回すと、
ガイはちらりとテーブルを見た。
ブレスレットのことを
気にしてるのかな。
でも、このまま置いておいても
誰も触らないと思う。
物凄く珍しいもので、
価値があるのかもしれないけれど。
僕にとっては、
ガイと一緒にいる時間の方が大事だ。
だって僕が欲しくて
手に入れたわけじゃないし。
まだ自分のもの、って感覚じゃない。
無くなっても構わないし、
必要な人の手に行くのなら
それでもいい。
それから僕たちは
大浴場でお風呂に入った。
この前みたいに
ガイに咬みつくような
キスはされなかったけれど。
僕は頬やおでこに
何度もキスされた。
ガイに聞くと、
僕は気が付かなかったけれど、
大浴場には小さなサウナ室があって、
そのために水風呂が
準備されていたみたい。
僕は熱いのが苦手だから
サウナは無理だけど、
なるほどって思った。
あとピリピリしたお湯は、
血行が良くなるとかで、
年配の人には人気のお風呂だとか。
僕の背が届かないぐらい
深いお風呂の場所は、
ある一人の騎士のために
造られたという。
なんでも、
かつて大将軍と
言われていた人が
ガイのお母さんと仲良しだったらしい。
その人の身長は
ガイよりもずっと高くて、
普通に風呂に入ると、
水かさが低く、
風邪を引いてしまいそうになったんだとか。
それを聞いたガイのお母さんが
この別荘の大浴場を改装して、
大将軍が高齢のため
引退した後、何度も
この別荘に招待していたんだって。
友情って凄い。
もしかしたらサウナも
電気の魔石風呂も、
その人のために
作ったのかもしれない。
僕たちがお風呂に入っていたら
アンナが様子を見に来てくれた。
わざわざ様子を見に来なくても
僕はもう溺れないけど。
そんな子供じゃないよ、って
アンナに言ったら、
「念のためでございます。
不埒者が出る可能性が
ございますので」
と、厳しい口調で言う。
ほんと、心配症なんだから。
ブレイトン公爵家の別荘で
不埒者なんて出るはずないし。
でもせっかくアンナが
来てくれたから、
僕はアンナに髪を洗ってもらうことにした。
ガイは先に出て、
夕食の準備を見てくるという。
今日はここに来た日みたいに
ガイが朝、森で狩ってきた
お肉で領地の料理を作ってくれるらしい。
僕は結局、温泉のふちに
頭を乗せて、上を向いて
髪を洗ってもらっている。
僕はガイが頭を洗うのを
横目で見てたんだけど、
ガイは頭から水をかぶって
バシャバシャしていた。
あれができるのは、
髪が短いからだと思う。
「ねぇ、アンナ」
「なんでございましょう」
「僕も髪を短く切ったら
一人で髪を洗えるようになるかも」
僕の言葉に、アンナの手が止まる。
「アンナ?」
「いえ、それは賛成しかねます」
「そう?」
なんで?と僕は思う。
髪が長いと不便だ。
毎日、アンナに手入れを
してもらわないとダメだし、
僕は一人で髪を洗うこともできない。
「ご不便もございましょうが、
ぼっちゃまの美しい髪を
愛でることを喜びと
される方も多くいらっしゃいますので」
アンナはそんな言い方をした。
でも僕の頭には、すぐに
兄の姿が思い浮かんだ。
それから、
あまり会わないけど父と母と。
僕の家族は僕の頭を
すぐに撫でて、可愛い髪飾りを
僕にプレゼントしてくる。
そういえば、
ガイのお母さんや
リリ姉様も僕に女性用の
髪飾りをつけて遊んでいた。
とっても楽しそうだったし、
僕が髪を切ってしまったら、
みんな、悲しむかも?
「そうか、そうだよね。
じゃあ、これからもずっと
アンナに髪を洗ってもらうかも。
ごめんね、アンナ」
「いえ、ぼっちゃまが
謝ることなどございません。
それこそ、
このアンナにとっては
褒美ともとれることでございます」
アンナは一生、
ぼっちゃまにお仕え致しますので。
アンナはそう言ってくれる。
「うん、ありがとう。
僕もアンナがいてくれたら嬉しい」
髪をお湯で流されて
僕が目を開けると、
溶けるような表情で
笑っているアンナの顔が見えた。
いつもの訓練された顔ではなく、
思わずといった様子で。
口元が上がるだけの微笑でもない、
ほんとに嬉しいって顔だった。
僕はびっくりして、
でも僕が見たことがばれたら
アンナはまた無表情に
戻るかもしれないって僕は思って。
僕はアンナの顔には
気が付かなかったふりをして
また目を閉じた。
僕はやっぱり、恵まれている。
ブレスレットなんかなくても
幸せだなぁ、ってそう思った。
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