長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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114:次の町へ

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 翌朝、早くから僕たちは
馬車に乗り込んだ。

別荘の使用人たちには
何度もお礼を伝えた。

馬車は行きと同じで、
僕はガイと二人っきりだ。

馬車が出発すると
僕はあっという間に眠くなる。

昨日寝るのが遅くなってしまったんだ。

ガイは僕が寝てても
ベッドから抱き上げて
馬車に運ぶから大丈夫だって
昨夜から言ってくれていたけれど。

やっぱりちゃんとお礼は
言いたいから、
僕は頑張って起きたんだ。

「少し寝るか?」

ってガイが僕に言う。

僕はうん、ってガイの膝に寝転がった。

 昨日の夜は、
露天風呂に何回も入った。

夕食を食べて、
アンナに寝間着を準備
してもらってから。

皆が眠っている時間に
ガイとこっそり、
露天風呂に行ったんだ。

悪いことをしてるみたいで
僕はドキドキしてしまった。

庭も露天風呂も
夜に歩けるように
足元には魔石で明かりがあったし、
何の問題もなく
僕たちは露天風呂に行けた。

僕は3つの風呂を
順番に入ったし、
疲れたら風にあたって
冷たい水を飲んだ。

たまにガイに抱きしめられて、
キスされたけど。

胸が熱くなって、
でも楽しくて。

ガイの腕の中で
空を見上げたら、
ものすごい数の星が輝いていて
本当に星が落ちてきそうだった。

僕が見惚れていたら、
ガイも僕のそばで
一緒に夜空を見上げてくれた。

「綺麗だな」
って言ってもらえて、
この瞬間の空を、
きっと一生忘れないだろうって思った。

あの露天風呂に入った日から、
僕とガイは何も変わってないけど
ちょっと変わったところもある。

僕がこうやって甘えるのも、
膝に乗るのも、
いつものことだけど。

でも、空気がちょっとだけ違う。

僕の髪を梳く太い指が、
今まで以上に、優しい。

二人っきりになった瞬間、
触れるだけのキスをする。

甘い空気が生まれて、
でも、アンナたちが来たら
それはすぐに消えてしまう。

子どもがいたずらをした後みたいに。

ちょっとドキドキで、
わくわくで、
楽しくて。

そんな空気を
ガイと一緒に味わうのが、
とても嬉しい。

ガイとの距離が
物凄く近くなったと
感じているのは
僕だけじゃないと思う。

僕が馬車に乗る前に、
ケインがそっと
「屋敷に戻ったら
団長に気づかれないように
気を付けてくださいよ」
って耳打ちされたんだ。

僕が驚いたら、
「浮かれた空気が
充満してます」って
真顔で言われた。

気を付けなくちゃ。

兄に僕とガイがあんな
キスをしたってバレたら
絶対に叱られると思う。

だって兄は僕が
大人になることに
反対してるから。

……と、思うようになった。

ねやごとの意味も
僕は知らなかったし、
学院に行っていたのに
屋敷の外の世界のことは
何一つ知らずに生きてきた。

それって、
兄がそう仕向けていたからだと
今ならわかる。

そうやって兄は僕を
守ってくれていたんだろうけど。

でも僕は大人にならなくちゃ。

今まで通りは、やっぱり嫌だ。

だから今は無理でも、
兄に「僕は大人になったよ」って
守ってくれなくてもう大丈夫だよ、って
そう言う日が来るように
頑張ろうと思う。

……今は、甘えたいから
頑張らないけど。

と、ちらりとガイを見上げると、
ガイは、ん? と僕を見る。

「なんでもない」

なんでもないんだけど、
ガイにこうやって
見守られるのは
くすぐったい気もする。

幸せだなぁ、って。

あのブレスレットは、
僕の獅子のぬいぐるみの
首に巻いてある。

ガイの瞳の色をした鈴と
一緒に、首飾りみたいにしたんだ。

似合っていたし、
獅子の子も、とっても
可愛くなったと思う。

そのぬいぐるみは
僕の服のポケットに入っているけど
わざわざ出したりはしない。

僕はできるだけ
ブレスレットを気にせずに
過ごそうと決めたんだ。

 ガイが言っていた
大神官様がいる街は
少し先だけれど、

その街につくまでに
いくつも小さな町があるから
休憩するのであれば、
良さそうな町で
休憩しようと、ガイは言う。

僕はそれまでの間、
目を閉じて眠ることにした。

ウトウトしていたら
ポケットの中のブレスレットが
また熱くなるのを感じる。

『なんでだよ。
なんで俺様を無視すんだよ』

そんな声が聞こえる。

『俺様はな、
すっげぇ金を呼び込めるし、
すっげぇ美人だって手に入れられるぞ』

僕、そんなの興味ないし。

『権力だって、なんだって
思いのままだぞ』

それこそ、必要ないし。

僕、お金も権力も、
美人さん? も何もいらないの。

だって今が
一番、幸せだもん。

って僕が心の中で言うと、
物凄く悲しい気持ちが
僕に伝わってきた。

えっと、僕に何がして欲しいの?

『俺様、俺様のこと……』

声がどんどん小さくなる。

「エレ!」

急に呼ばれて、
僕は飛び起きた。

ぎゅっとガイに抱きしめられる。

馬車が物凄く揺れている。

それから剣が交わる音と、
怒鳴り声。

……戦ってる?

「賊だ」

ガイが短く言う。

「こんな町付近で、
襲ってくる者がいるなんて」

ガイが剣を持つ。

「大丈夫だ。
護衛たちは腕利きだし、
たいした奴らではない」

そういうけれど、
ガイの表情は怖いほど真剣だ。

怖い、って僕は思った。

僕はガイがいるけど
ケインは?

後ろの馬車にいるアンナは?

「やだ!
誰も傷つかないで!」

って僕は叫んだ。

そしたら、
ポケットの中が
ものすごく熱くなって。

「うわっー!」って
大きな男の人の声が
すぐそばで聞こえた。

それから「逃げろ!」って声も。

いろんな焦る声が聞こえて、
ガイが僕を抱きしめて
耳をふさいでくれた。

しばらくしたら
馬車が揺れなくなって、
馬車の戸がノックされる。

ガイが僕を離して、
ここにいるように、と
僕を座席に座らせた。

僕は怖くて震えてしまったけれど。

足手まといになることは
わかっていたから、
素直にうなずいた。

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