長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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115:幸運?の騎士

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 俺は馬車から下りて
あっけにとられた。

馬車の扉を開けたのはケインだった。

「賊は?」

「全員、やられました」

やられた?
どういう意味だ?

殲滅したの間違いだろう。

俺がそう思いながら
ケインに促され、
視線を向けると、
そこには賊の死体が転がっていた。

そのそばには……魔獣がいた。

オオカミのような魔獣たちは
何十匹もいたが、
馬車を襲ってくる様子はない。

それどころか、
馬車を守るかのように
唸り、逃げていく賊に
襲い掛かっている。

ケインだけでなく、
馬車を守っていた護衛たちも
あまりのことに茫然としていた。

すぐさま確認したが、
こちらの騎士たちに
被害はないように見える。

「怪我人は?」

「ゼロです。
数は多かったですが、
たいした腕ではなかったようで」

別荘の街にある
公爵家の私設騎士団では
最近、賊が増えたという報告を受けていた。

一応、周囲の町と
連携をして討伐隊の
必要性を確認させる指示を
出していたのだが。

どうやら
その必要はなくなりそうだ。

「あの魔獣はどこから?」

「それが、気が付いたら
あっという間に馬車の前にいたんです」

それこそ、いきなり
地面から湧き出てきたかのように
大量の魔物が馬車の前に現れ、
一斉に賊に襲いかかったらしい。

敵と味方の認識もあるらしく、
こちらの騎士には見向きもしなかったそうだ。

「それで、信じがたいのですが
これ、エレミアス様の
ブレスレットと関係しているとか」

とケインが言葉を濁しつつ言う。

俺もそうとしか思えなかった。

エレミアスが「傷つかないで」と
叫んだ結果が、これかもしれない。

「これは……早く
大神官殿に鑑定を
してもらった方が良いな」

「同感です」

俺たちが見ている前で
賊たちはあっという間に
地面に沈んでいく。

そして魔物たちは
危険がなくなったことを
感知したのだろう。

あっという間にその姿を消した。

「それで、どうします?」

ケインが俺を見た。

こんな場面を
どう説明しろというのか。

「ガイ?」

小さな声がして、
馬車の扉が開く。

「待て。
エレが見るようなものではない」

血まみれの地面など
穢れのない天使が
見て良いものではないはずだ。

俺はそう思った瞬間、
強い風が吹いたかと思うと、
血の匂いが消え、

地面に転がっていた
盗賊たちの体が
草むらへと転がっていく。

「みんな、大丈夫?」

馬車の中から
可愛らしい顔が覗いた。

その美しい水色の髪に、
曇っていた空から
光が差し込む。

エレミアスに視線を向けていた 騎士たちが、小さな 感嘆の声を挙げた。

「良かった。
あのね、みんなが
怪我したら嫌だって思って。
僕ね、神様にお願いしたんだよ」

という姿に、 跪く騎士もいる。

そうだよな。
どうみてもこれは、
エレミアスが起こした奇跡だと思うよな。

俺もそう思った。

そうだ。
ブレスレットなど関係ない。

なんたって、
エレミアスは天使で妖精だからな!

よし、それしかない。
これでいこう。

「さすがだ、エレ。
エレは勝利の妖精、
いや、天使だな。

穢れのないエレの願いが
きっと神に届いたんだろう」

俺はわざと大きな声で言い、 ケインに目配せをする。

ケインは呆れた顔をしたが、

「確かにエレミアス様は
バーンズ侯爵家の天使ですからね。

これぐらいの奇跡など
簡単でしょう」

いや、ケイン。
さすがに簡単と言うのは
話を盛りすぎてる。

そんな俺たちのやりとりを
エレミアスはきょとんとして
見ていたが。

「もう、怖くない?」

と聞く。

「あぁ、大丈夫だ」

俺は馬車に近づいた。

「良かった。
あのね、僕ね、
みんなのこと大好きだから、
怪我とかして欲しくなかったの。
心配したんだ」

「そうか、そうか」

俺は頷き、
ケインに出発を促す合図をする。

ケインが頷くのを待って
俺はエレミアスを促し
馬車に戻った。

「なぁ、エレ。
エレが神に祈ったってのは
どうやったんだ?」

座席に座り、
俺は小さな体を膝に乗せた。

「えっとね。
ポケットが熱くなったの」

あのブレスレットだな。

「それで、
誰も怪我しないように、
皆を助けて、って」

「神に祈ったのか?
ブレスレットに?」

「どうだろう。
僕、夢中だったから。
誰か助けてって」

「……そうか」

となると、
やはり神の奇跡ではなく
ブレスレットの仕業だな。

まぁ、助かった。
幸運のブレスレットではありそうだ。

……エレミアス限定の
幸運である可能性はあるが。

しばらくすると、
出発の合図がして、
馬車がまた動き出す。

別の馬の嘶きが聞こえたので、
ケインが別荘の町へ
使いを出したのだろう。

騎士団に賊の報告と、
処理を任せる必要がある。

しかし、魔物を呼ぶブレスレットとは。

祝福というより、
呪い寄りだと思うのは俺だけだろうか。

天使の加護とか言うのなら
雷を落とすとか、
そう言う方向にならないか?

まぁ、あの状況で
雷なんぞが落ちてきたら
俺たちも被害にあっていた可能性はあるが。

それにしても、
難儀なものを預けられたものだ。

エレミアスがさほど
気にしてないのが救いだ。

思ったことが叶うブレスレットなど
手にした者が暴走して
身を破滅させる未来しか見えない。

「それでも、感謝する」

俺は小さく呟いた。

エレミアスが、何?と言う。

「いや、エレミアスの
願いを叶えてくれたものにな。

おかげで助かったし、
怪我人もなく、
馬車への被害もなかった」

「うん。
僕も感謝を」

エレミアスが胸の前で手を組んだ。

「ありがとう。
僕の願いを聞いてくれて。
皆が助かって、
僕、本当に嬉しかった」

エレミアスがそう言ったとき、
馬車の中の空気が
澄んだ気がした。

エレミアスも「風?」って
首を傾げたが、
馬車の窓は閉まっている。

俺は迷ったが、
「感謝されて嬉しかったんじゃないか」
と笑って見せた。

それからすぐに
先ほどのことは
無かったかのように
別の話をする。

妙なブレスレットのことは
神殿に行ってから考えよう。

今はエレミアスの
心が曇らないようにする。

「次の町で少し早いが
食事をするか」

「うん。
おいしいものがあるの?」

「そうだな。
次の町では、
俺の元同僚の騎士が
宿屋をやってるんだ。

怪我で引退したんだが、
騎士のころから
料理の腕前は凄くてな」

「えー、行ってみたい」

あっという間にエレミアスは
俺の話に食いついてくる。

元同僚の店なら
さほど心配なく食事もできるだろう。

エレミアスが疲れたのなら
移動せずに一泊してもいい。

どうせ俺は結婚したら
騎士を辞めるし、
今までたまった有休を
全部使い果たしてやる。

俺は膝の上で笑う
エレミアスを抱きしめた。

ただ、心配なのは団長だ。

何をどう説明すればいいのか……。

相談できるのが
ケインしかいないのが
心許ないが仕方がない。

団長にブレスレットのことを
どこまで秘密にできるのか。

俺は悩みつつも、
エレミアスの言葉に合わせて
笑みを浮かべた。

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