長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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125:山の中の館

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 馬車に揺られてたどり着いたのは
山の中だった。

ほんとだよ。

夕方になる前に出発したから
日が暮れる前に
たどり着けたけれど。

きっと夜になったら
まっくらになると思う。

心配だったアンナは
ブレイトン公爵家の侍女と
仲良くなったみたいで、
僕が出発するときには
一緒に街に出かける話になっていた。

アンナが一人で
街に出るのは心配だったから、
良かった。

それにこんな山の中に
アンナを連れてきたら
怖がると思う。

べ、別に僕が怖かったわけじゃないけど。

「荘厳だな」

馬車を下りたガイは
目の前の館を見て言う。

僕もケインも、
同じ気持ちだったと思う。

山の中を走り続けていたら、
突然、大きな建物が見えたんだ。

それもただの屋敷じゃなくて、
大きな神殿みたいな建物が、
いくつも建っている。

こんな場所にどうやって
建てたの?と思うほど
大きな集合建築だった。

僕たちが着いたときには
すでに何台もの馬車が
到着しているようだった。

僕たちの馬車は
館の使用人に任せることにした。

御者はパーティーには
出られないけれど、
ちゃんと部屋と食事は
用意されているという。

御者と別れて
建物の玄関まで行くと、
今度は燕尾服の男性が立っていた。

執事かもしれない。

「ようこそおいで下さいました」

ガイが招待状を見せると、

「これはこれは、
お待ちしておりました」

と僕たちを促す。

「パーティーが始まるまで
まだお時間がございますので
それまではゆっくりお過ごしください。

部屋は別の者に案内させましょう」

そう言った途端、
壁側で控えていた侍女が
僕たちの前でお辞儀をした。

「こちらへどうぞ。
お客様には特別なお部屋を
ご用意するように主から
承っております」

 侍女はそう言い、
もう一度頭を下げた。

「ご案内致します」

ちょっと固い口調が
アンナを思い出す。

侍女はこの建物が
パーティーを開催するために
建てられたこと。

全部で建物は
6つあり、
空から見ると
星形になっていること。

パーティー会場は
星形の真ん中の
建物だと教えてくれた。

星形の先に位置する
5つの建物は
客人用の客室だけでなく
使用人たちの部屋や
調理室などもあり、
通常の館と変わらないという。

6つの建物は1階にある
中庭で繋がっていて、
僕たちが入った玄関は、
まっすぐそのまま進めば
パーティー会場の
建物につながっているらしい。

僕たちは中庭に出て、
向かって右側の棟に
案内された。

この辺りで僕は
ガイに抱っこされる。

案内してくれていた侍女は
一瞬、驚いた顔をしたけれど
何も言わずに足を進めた。

ごめんね、
僕、長い時間歩けなくて。

しかも階段を上る気配がしたから
ガイの袖を引っぱっちゃったんだ。

思った通り、
案内された部屋は最上階だった。

侍女は部屋の前で足を止め、
僕たちを見た。

「こちらの部屋を
お使いください。

護衛の方は、
この隣の部屋を」

侍女はケインに
隣の部屋の扉を手で示す。

「お召し物を着替える際に
お手伝いが必要であれば、
私が参りますが」

「いや、大丈夫だ」

ガイが僕を床に下ろして言う。

「では、各棟、
各フロアには必ず
我々使用人が待機しております。

ご用があれば、
なんなりとお申し付けください。

部屋の中のものは
すべてご自由に使っていただいて
構いません。

不自由があるようでしたら
言っていただけましたら
できるかぎりご用意させていただきます」

「わかった、ありがとう」

ガイが返事をすると、
侍女は頭を下げて
来た道を戻っていく。

「ではまずが俺が」

ケインは僕たちの
荷物を床に下ろして、
部屋の扉を開けた。

 僕が一番乗り!って
したかったけれど、
部屋に異常が無いか
調べてから出ないと
僕は入れないんだ。

「問題はなさそうですが
すごい部屋ですね。

もし爵位とか関係なく
この部屋を与えられたのなら、
見返りは何かと
怖くなりますよ」

ケインが部屋から出てきてそう言う。

「まぁ、言われたら
言われた時だな」

ガイは僕の背を押した。

「よし、部屋で休むか。
ケインも休んでいいぞ」

「了解です」

「エレミアス様、
あとで迎えに参ります」

「うん。ありがとう」

ケインは僕たちが
部屋に入るのを見届けてから
頭を下げて隣の部屋へ行く。

部屋に入ってすぐ僕は
「わぁ」と思わず声が出た。

だって壁が全面、
ガラスになっていて、
外の景色が丸見えだったんだ。

山の上に建っているから、
視界を遮るものは何もない。

目の前では、
遠くにある海に
小さな夕日が沈んでいく。

街も見える。
小さくて沢山ある家の屋根。
教会の高い塔も。

窓の近くには
大きなソファーがあり、
テーブルの上には
花が飾られている。

しかも、そのソファーセットは
階段の下にあった。

なんで部屋の中に階段?
って思ったけれど。

部屋の床が、
ソファーの近くだけ
数段低くなっていて
ソファーに座ろうと思ったら、
階段を下りる必要がある。

なんで部屋の中にまで
階段を作るの?

って僕は思ったけれど、
実際にソファーに座って
納得した。

だってね。

ソファーに座ったら、
段差があるから、
部屋の中が見えなくなる。

そして、窓に目を向けると
ただ、空しか見えなくて。

この世界に、たった一人。
取り残されたような、
そんな感覚になった。

「すごいな」

僕の隣に座ったガイが言う。

「うん」

「ロチェスター伯爵は
芸術や文化の発展に
力を入れていると有名なんだ」

「そうなんだ。
この建物も、
異国の文化なのかな」

可愛くて新しいものが
好きなティーナを思い出し、
僕はなんとなく、納得した。

「しかし、これはいいな」

ガイが僕の肩を引き寄せる。

「何が?」

「隠れてエレにキスができる」

そう聞こえた途端、
唇が重なった。

「こんな高台だ。
外から見られる心配は
ないだろうが。

もしアンナと来ていても、
ここなら、邪魔されそうにない」

そうかも、と思って
僕は笑ってしまった。

アンナも連れてきてあげたかったけど、
実際にアンナがこの部屋を見たら
ソファーは禁止だとか、
色々言うかもしれない。

僕とガイは視線を合わせて
もう一度、キスをする。

ガイは僕の髪を優しくなでて、
「今は、ここまでにしよう」
って立ち上がった。

「可愛いエレを堪能してたら
パーティーどころではないからな」

なんて軽く言われて
僕は顔を熱くしてしまう。

ソファーから離れて
僕は広い部屋を見回した。

一番最初に目に入ったのは
大きな窓だった。

近づいてみると、
バルコニーはなかったから
外に出ることはできない。

それに、窓にはカギがなく、
開閉もできそうになかった。

ガイは転落防止のためだろうという。

それからソファーの近くには
階段の上だったけれど、
カウンターバーがあった。

見てみたら、
グラスやカップだけでなく、
お酒などの飲み物や、
軽食なんかも置いてある。

この部屋は角部屋だったので、
壁は、ほぼ全方位窓だった。

その部屋の角に近い場所に
なぜか仕切りがある。

何を隠しているのかと思ったら、
奥には大きな天蓋ベッドが
1つ置かれていた。

寝ているところを
見られないように仕切りが
あるのかもしれない。

ベッドとは逆方向を見に行くと、
お風呂場があった。

ガイの別荘の温泉を
見た後だったから
大きいとは思わなかったけど、

僕の部屋にあるような
バスタブではなくて、
大人が2、3人は
入れるような大きなお風呂だ。

配置から考えて、
このお風呂場の隣が、
ケインのいる部屋に
面しているんだと思う。

脱衣所にはタオルも
沢山準備してあったし、
至れり尽くせりだ。

「エレ」

部屋を探索していたら
ガイに呼ばれた。

どうしたのかと振り返ると、
ガイが「おいで」って
両手を広げている。

「なぁに?」

僕に甘えて欲しいって
主張している兄みたいだ。

でも僕はちゃんと
ガイの腕に飛び込むけれど。

「せっかく二人っきりなんだ。
部屋の探索もいいが、
俺を忘れないでくれ」

「忘れるわけないよ」

僕は笑う。
ガイが本気で言っている
わけではないって
わかってるからだ。

ガイは僕につられたように
少し笑ったけれど。

「本気だぞ」って言って。

また唇がそっと重なったんだ。

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