長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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126:夜の社交パーティー

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 僕は少し休んだ後、
ガイに手伝ってもらって
持ってきた衣装を着た。

部屋に案内してくれた侍女が
そろそろ招待客が
出そろったので
パーティーを開始すると
言いに来てくれたのだ。

ケインもすぐに着替えて
部屋にやってきた。

ケインの服は、
騎士っぽい服だった。

街で買ったのかと聞くと、
もともと、何があっても
対応できるようにと
持ってきていたらしい。

本人曰く、
「慣れない服だと、
動きが鈍りますので」だった。

「でも、僕とガイみたいに
お揃いにしたらよかったのに」

3人並んでお揃いなんて
素敵だと思う。

というと、
ケインは心底嫌そうに
「勘弁してください」っていう。

「ケインは護衛だからな。
主人と揃いの服は無理だろう」

ガイがケインの言葉の後に
付け加えるように言い、
僕の頭を撫でる。

「あとはエレの髪だな」

僕はこのままでも良いけど、
長くて邪魔だから
一つにまとめた方が良いかも。

「あ、俺、アンナから
預かってきましたよ」

ケインが髪飾りを取り出す。

細い銀細工で、
薔薇の花がかたどられている。

「ちょっといいですか?」

椅子に座る僕の後ろに
ケインは立つと、
「失礼します」って
僕の髪を櫛で梳き、
髪飾りをつけてくれた。

「うまいもんだな」

「昔は弟たちの髪は
全部俺が整えてましたからね」

ケインはそう言い、
「できました」と
僕に鏡を見せてくれた。

「綺麗、ありがとう」

耳に掛かる髪が
後ろで束ねられている。

これなら髪を気にせず
お菓子を食べれるよね。

「さぁ、行くか」

僕とガイは並んで、
ケインは1歩後ろを
歩いてパーティー会場へ行く。

会場に行くのは簡単だ。

階段を下りて
中庭に出たら
もう入り口があるんだから。

 僕たちが会場に入ると
すでに多くの人たちが
集まっていた。

立食パーティーの
ようで、あちこちに
ビュッフェのテーブルが
あったけれど、
それだけでなく
会場のあちこちに
ゆっくり団らんできるようにか、
椅子やソファーが置いてあった。

ソファーの下には
ラグが敷いてあり、
小さなテーブルもある。

異文化交流が目的だから
堅苦しい感じではないのだろうと
ガイは言う。

親しくなれそうな人がいたら
椅子に座って交流を
深めてもいいし、
うまくいけば何らかの
商談もできるのだろうと
ケインも僕に小さな声で
教えてくれる。

 僕たちが会場に
入るとすぐに使用人が
僕たちに飲みものを渡してくれた。

どう見てもお酒だったので
僕はグラスを持っているだけだ。

ケインもガイも
飲まなくていい、と僕に合図をする。

少しすると
ロチェスター伯爵が姿を現し、
交流会の開始の挨拶をした。

その間、僕は周囲を見回した。

どうみても異国風と言える
人たちが沢山いる。

肌の色が浅黒い人もいれば、
来ている服が、どうみても
大きな布を体に巻き付けて
いるだけのような人もいる。

もっとも、ただの布ではなくて、
とても美しい織物だったけれど。

ロチェスター伯爵の挨拶が終わると
あちこちでいろんな国の
言葉が聞こえてきた。

「これはこれは、
ブレイトン公爵家のご子息では?」

この国の貴族らしい人が
声を掛けてきた。

ガイのことを知ってる人みたい。

ガイが挨拶を返していると、
その声を聞きつけた人たちが
どんどんガイのところに集まってくる。

知らない人ばかりで、
ちょっと怖い。

それに熱意が過ごい。

「ブレイトン公爵家と
繋がりたい人間も
多いんでしょうね」

と僕の隣でケインが言う。

ガイはあまり社交界に
出ないから、
こういう場所で出会ったら
すかさず仲良くなりたい人が
声を掛けてくるんだとケインが
僕に教えてくれた。

「じゃあ、エレミアス様は
あっちでお菓子でも食べます?」

ケインが僕のお酒を回収して
近くのソファーを指さした。

「いいのかな」

ガイに何も言わないで
移動して大丈夫かと
不安になる。

「近くですし、大丈夫でしょう」

でもケインはたいしたことないと
言うように僕をソファーに促した。

毛の長いラグの上のソファーは
物凄く柔らかくて
座り心地が良かった。

まだパーティーも
始まったばかりだから
座っている人はいない。

ソファーの近くには
ビュッフェ台があって
ケインはそこから飲み物と
お菓子を持ってくるという。

ガイのいる場所と
ビュッフェ台との距離は
そんなに離れていないし、
僕でも頑張れば
数秒ぐらいで
たどり着けそうな距離だ。

そう思うと、
ちょっとだけ安心する。

まぁ、僕を傷つける人なんて
この場所にはいないだろうけど。

と、思っていたら、
僕の背中を、どん、と
衝撃が襲った。

ソファー越しだったから
そんなに痛くはなかったけど
びっくりした。

驚きすぎて、
思わず涙が浮かんだぐらいだ。

僕がそっとソファーの背を
覗き込むと、僕以上に
泣きそうな顔をしている
小さな男の子と目が合った。

え?
なんで子ども?

真っ黒な髪と、
褐色の肌をした子どもは
どうみても5歳ぐらいの子だ。

よく見ると瞳も黒く見える。

しかも僕と同じように
目には涙がたくさんたまっていた。

「な、泣いちゃだめだよ」

と僕は言ったけど、
言った瞬間、涙がこぼれた。

それを見た男の子は僕を見て
小さな手を伸ばした。

その瞬間、その子の目からも
涙が落ちたけれど、
小さな手は僕の頭をなでなでする。

「ありがとう、優しいね」

って僕も男の子の頭を
撫でてあげた。

そしたら視線が合ったので
僕たちは、にこ、って笑いあう。

「どうしたの?
このパーティーは
子どもは出れないんだよ」

夜のパーティーへの参加は
10歳以下の子どもは
王家が禁止している。

男の子は僕の声に
首を傾げた。

「あ、言葉、わからない?」

言葉が通じないのかも。

僕は男の子を観察してみた。

服はこの国の者と似ている。

でも、首から下げている
青い石には見覚えがあった。

確かこの国から
かなり遠い国から
発掘される石だったと思う。

この国では珍しい石だと
家庭教師に図鑑を
見せられたことを僕は思い出した。

確かあの国の言葉は……

『大丈夫?
もしかして、迷子?』

言葉は学んでいたけれど、
実際に使うのは初めてだ。

通じるか不安だったけれど、
男の子は僕の言葉に
ぱっと表情を明るくした。

『うん、あのね。
パパと来たの。
僕は寝てなさいって言われて
部屋で寝たけど、
目が覚めたの』

『一人ぼっちで怖くなった?』

僕が聞くと、
男の子は気まずそうな顔をする。

『わかる。
僕もひとりぼっちになったら
怖くなるもん』

『お兄ちゃんなのに?』

『怖いのに、年齢は関係ないよ』

って僕は答えた。

それに僕、まだ大人じゃないもん。
学生だもんね。

『怖かったら
甘えてもいいし、
泣いてもいいんだ』

胸を張って答えたら
男の子はコロコロ笑った。

『男なのに変なの』

『変じゃないよ。
それに泣いたって、
みんな、僕のこと
可愛いって言ってくれるもん』

『可愛い?
それ、嬉しい?』

『嬉しいよ、
可愛いは褒め言葉でしょ?』

そういうと、
男の子は不思議そうな顔をする。

この国とは文化が違うから
感じ方も違うのかも。

「エレミアス様、どうしました?」

ケインが戻ってきた。

手にはジュースと、
お菓子が乗ったお皿がある。

「ケイン、あのね、
お菓子とジュース、
もう一人分、持ってきて」

「は?」

「ほら、ここにね。
もう一人いるの。
迷子だって」

「迷子?
また迷子ですか?」

「……僕が迷子じゃないからね」

僕の言葉にケインは
テーブルにグラスとお皿を置くと
僕のそばに来た。

「ほら」

と僕がケインの視線を
ソファーの背に促したら、
ケインは目を丸くした。

ソファーの背を覗き込んだまま
ケインは動きを止めている。

「エレミアス様、
迷子じゃなくて
これは誘拐ですよ。

いったいどこから
連れてきたんです?」

なんでそういう発想になるかな。

いくら僕でも、
勝手に子どもは連れてこないよ。

もう、って怒ったら、
男の子が『この人も可愛い?』って聞く。

ケインが?
可愛い?

『まさか。
可愛いは褒め言葉だけど、
ケインは可愛くないよ』

思わず笑ったら、
男の子もつられて
楽しそうに声をあげて笑った。


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