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第66話
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俺は走ってゼスじいを抱きかかえた。
「ゼスじい!ゼスじい!はあ、はあ、い、息が、無い」
呼吸が苦しくなってくる。
そんな!
さっきまで声が聞こえていた!
元気なゼスじいの声が聞こえたんだ!
クレアに寄りかかるようにしてエステルが近づいてきた。
「さっきまで、声が聞こえたんだ」
「ゲットが戦っている時には、すでに、もう」
エステルが涙を流す。
「わたくしに力があれば、このような思いはさせずに済みましたわ。わたくしに、もっと」
エステルが気を失った。
「エステル?エステル!」
「大丈夫です。ですが、魔法を使いすぎました。今は、休ませてあげましょう」
アリシアが俺に抱きついた。
「ゲットも今日は休むにゃあ」
「う、あ、」
言葉が出ない。
泣いているアリシアにかける言葉が出てこない。
俺は、幻聴を聞きながら戦っていたのか?
ゼスじいが生きていると思い込んで、俺は自分で作り出した幻聴を聞きながら戦っていた?
ゼスじいが死んで、エステルは魔法を使いすぎて気絶した。
周りは兵士の歓声に包まれていた。
ゼスじいを失って泣いている者もいたが多くの者はその事に気づかず、死の恐怖から解放され、歓声を上げている。
『勝利の宣言をするんじゃ。皆を安心させるんじゃ!』
そうだよな。
俺は、ゼスじいを地面に寝かせて立ち上がった。
右手を上げて大声で言った。
「俺達の勝利だ!!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
兵士が俺を讃える。
「ゲット卿がやってくれた!」
「ゲットならやってくれると思っていたんだ!」
「魔王はもういない!俺達は勝って生き延びたんだ!」
俺は、皆に讃えられながら、笑顔を作る事が出来なかった。
アリシアは、そんな俺の事を気にかけて、そばに寄り添った。
それでも俺は、この世界で一人ぼっちになったような、そんな気がした。
◇
黒騎士や竜化と別れ王都に戻り、ゼスじいの葬儀が行われた。
皆の体力が回復し、葬儀も落ち着いたころ、俺は王に呼び出された。
王城の部屋に入ると王と、父さん、母さんが座っていた。
俺が手招きされ椅子に座ると、父さんはすぐに話し始めた。
ゼスじいが俺の本当のおじいちゃんだった事。
父さんも母さんも前からそれを分かっていて、気づかない振りをしてゼスじいを気にかけていた事。
それを分かった上で気づかない振りをしながらゼスじいに俺を預けた事を話してくれた。
「ゼスじいは、俺の本当の家族だったのか。俺は、俺だけがずっと気づかなかった」
俺はゼスじいに言われた事を自然と声に出していた。
「国を守ろう、世界を守ろうなどと、大きなことは考えなくていいんじゃ。じゃが、自分と、その家族だけは守ってほしいんじゃ。それだけは頭の片隅に入れておいてくれんかの?」
そうか、俺は家族を守る事が出来なかったのか。
ゼスじいにひ孫を抱かせることが出来なかったのか。
心臓の鼓動が速くなる。
心が落ち着かない。
母さんが俺を抱きしめた。
俺が落ち着くまでずっと抱きしめ続けた。
しばらくすると父さんが言った。
「ゼスじいのメイスと鎧を、ゲット用に作り直したい。ゼスじいの魂をゲットに託したいんだ。俺の魂も込めて作らせてくれ」
「待つのだ、スターダストオーブがあるだろう?ゲットはそれをどう使う?それが決まってからだ」
「エステルに、託したい。出来れば、エステル用の杖にして欲しい。俺は、父さんに作って貰った装備を使いたいんだ」
俺は、危なくエステルまで失う所だった。
俺には、回復魔法の才能は無いけど、エステルにはそれがある。
「うむ、話は決まったようだ。次は式典についての話をしたいのだ」
「そう、だな」
王は俺に頭を下げて謝った。
「すまん、だが、皆を安心させたいのだ」
俺は、王を責める事が出来ない。
王がやりたい事も、その苦しみも分かってしまう。
そして次の日、式典が開かれることが決まった。
【式典当日】
日が昇り、大勢の民が広場に集まり、兵が式典を警備する。
王はエステルにスターダストオーブを渡し、エステルが礼をして受け取ってからスターダストオーブに祈りをささげた。
スターダストオーブが輝いて杖に変わった。
民から喝采と拍手が巻き起こった。
エステルが下がると王が大きな声で言った。
「英雄ゲット!前へ!」
俺が前に出ると、王は高らかに宣言した。
「ゲット、そなたは6将の軍事侵攻を3度食い止め、マイルド王国の平和に貢献した。よってオールラウンダーの家名を授ける!ゲット・オールラウンダー!万能のゼスと同じ家名を授ける!」
歓声が響いた。
だが、王が静まるよう合図を送る。
「続いて、領地を授ける。ゲット・オールラウンダーに始まりの村を授ける!」
この事は昨日の話し合いで決まっていた。
本来はもっと大きな領地を授けたいが、他の貴族が出世する俺をよく思っていない件を聞かされた。
俺としては政争に巻き込まれにくい辺境で、しかも小さな村の方が管理しやすくて都合が良かったし、貴族としても俺は影響力の少ない辺境にいる方が都合がいい。
しかし王は無理をして貴族とやり合いながら俺に大きな領地を授けようとしているようだった。
王の顔には疲労が見え、それでも貴族とやり合っているようなので、俺は無理をしないよう伝えたのだ。
王を見ていると、ダストの記憶に出てきた疲れた工場長の顔が脳裏に浮かび、重なって見えた。
過労になった人と同じ顔、王を見てそれが分かったのだ。
領地の件を断るのは駄目と言われた。
『魔物を倒す能力と領地を管理する能力は違う』
『何かを任せる時は失敗に備えて小さくやらせて損失を防ぐべきだ』
その点を突いて俺は小さな領地だけの管理を望み、今の状況に落ち着いた。
正確に言えばエステルやエムルもいる。
失敗する可能性は低いとは思ったが、ダストやガルウインを見て思う。
『人がいる事のリスクもある』
日本にいる時と同じで、厄介な人間はこの世界にもいるのだ。
俺は家名と領地を授かると、すぐに始まりの村を目指した。
【王、アベレージ視点】
大臣と王は2人で話をする。
「ゲットは旅立ったか」
「はい」
「ごほごほ!ごほ!」
「王、風邪を引いたまま政務を続けるからです!すぐに休みを取るのです!」
「はあ、はあ、もう少しなのだ。帝国と終戦し、もう少しで国が落ち着くのだ」
「そう言っていつも休まないではありませんか!」
「仕方がない。休めば貴族が国を食い物にする」
「では、せめてはちみつティーを用意します」
「頼む」
ゼス、お前が生きていれば、ゲットにオールラウンダーの家名を授ける事を反対しただろうか?
だが、この国は人がいないのだ。
まともに政務をこなそうとする者が。
民から奪わず、与えようとする者が足りんのだ。
それに、私はゲットにオールラウンダーの名を継がせたかった。
私は、ゲットに謝った時のゲットのあの顔を見て確信した。
ゼス・オールラウンダーと同じ、こちらを気にかけ、思慮深く、そして凄味を帯びたあの姿を思い出す。
修羅をまとい、優しそうで、しかしオーラをまとったような存在感を帯びたゲットを見て思った。
あの凄味は、苦しみをまとって生まれたものだ。
苦しみがゲットを成長させた、いや、成長するしかなかった。
私が、ゲットを追い詰めたのだ。
ただ一人、突出し突き抜けたゲットに頼った結果か。
私にもっと力があれば、こんな思いはさせなかったものを。・
自分の無力を痛感するが、反面嬉しいと思う面もあった。
「ゼス、お前の魂は、ゲットに受け継がれている」
苦しい感情と反発するように、私は、それが、その事が、とても嬉しく思えた。
「ゼスじい!ゼスじい!はあ、はあ、い、息が、無い」
呼吸が苦しくなってくる。
そんな!
さっきまで声が聞こえていた!
元気なゼスじいの声が聞こえたんだ!
クレアに寄りかかるようにしてエステルが近づいてきた。
「さっきまで、声が聞こえたんだ」
「ゲットが戦っている時には、すでに、もう」
エステルが涙を流す。
「わたくしに力があれば、このような思いはさせずに済みましたわ。わたくしに、もっと」
エステルが気を失った。
「エステル?エステル!」
「大丈夫です。ですが、魔法を使いすぎました。今は、休ませてあげましょう」
アリシアが俺に抱きついた。
「ゲットも今日は休むにゃあ」
「う、あ、」
言葉が出ない。
泣いているアリシアにかける言葉が出てこない。
俺は、幻聴を聞きながら戦っていたのか?
ゼスじいが生きていると思い込んで、俺は自分で作り出した幻聴を聞きながら戦っていた?
ゼスじいが死んで、エステルは魔法を使いすぎて気絶した。
周りは兵士の歓声に包まれていた。
ゼスじいを失って泣いている者もいたが多くの者はその事に気づかず、死の恐怖から解放され、歓声を上げている。
『勝利の宣言をするんじゃ。皆を安心させるんじゃ!』
そうだよな。
俺は、ゼスじいを地面に寝かせて立ち上がった。
右手を上げて大声で言った。
「俺達の勝利だ!!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
兵士が俺を讃える。
「ゲット卿がやってくれた!」
「ゲットならやってくれると思っていたんだ!」
「魔王はもういない!俺達は勝って生き延びたんだ!」
俺は、皆に讃えられながら、笑顔を作る事が出来なかった。
アリシアは、そんな俺の事を気にかけて、そばに寄り添った。
それでも俺は、この世界で一人ぼっちになったような、そんな気がした。
◇
黒騎士や竜化と別れ王都に戻り、ゼスじいの葬儀が行われた。
皆の体力が回復し、葬儀も落ち着いたころ、俺は王に呼び出された。
王城の部屋に入ると王と、父さん、母さんが座っていた。
俺が手招きされ椅子に座ると、父さんはすぐに話し始めた。
ゼスじいが俺の本当のおじいちゃんだった事。
父さんも母さんも前からそれを分かっていて、気づかない振りをしてゼスじいを気にかけていた事。
それを分かった上で気づかない振りをしながらゼスじいに俺を預けた事を話してくれた。
「ゼスじいは、俺の本当の家族だったのか。俺は、俺だけがずっと気づかなかった」
俺はゼスじいに言われた事を自然と声に出していた。
「国を守ろう、世界を守ろうなどと、大きなことは考えなくていいんじゃ。じゃが、自分と、その家族だけは守ってほしいんじゃ。それだけは頭の片隅に入れておいてくれんかの?」
そうか、俺は家族を守る事が出来なかったのか。
ゼスじいにひ孫を抱かせることが出来なかったのか。
心臓の鼓動が速くなる。
心が落ち着かない。
母さんが俺を抱きしめた。
俺が落ち着くまでずっと抱きしめ続けた。
しばらくすると父さんが言った。
「ゼスじいのメイスと鎧を、ゲット用に作り直したい。ゼスじいの魂をゲットに託したいんだ。俺の魂も込めて作らせてくれ」
「待つのだ、スターダストオーブがあるだろう?ゲットはそれをどう使う?それが決まってからだ」
「エステルに、託したい。出来れば、エステル用の杖にして欲しい。俺は、父さんに作って貰った装備を使いたいんだ」
俺は、危なくエステルまで失う所だった。
俺には、回復魔法の才能は無いけど、エステルにはそれがある。
「うむ、話は決まったようだ。次は式典についての話をしたいのだ」
「そう、だな」
王は俺に頭を下げて謝った。
「すまん、だが、皆を安心させたいのだ」
俺は、王を責める事が出来ない。
王がやりたい事も、その苦しみも分かってしまう。
そして次の日、式典が開かれることが決まった。
【式典当日】
日が昇り、大勢の民が広場に集まり、兵が式典を警備する。
王はエステルにスターダストオーブを渡し、エステルが礼をして受け取ってからスターダストオーブに祈りをささげた。
スターダストオーブが輝いて杖に変わった。
民から喝采と拍手が巻き起こった。
エステルが下がると王が大きな声で言った。
「英雄ゲット!前へ!」
俺が前に出ると、王は高らかに宣言した。
「ゲット、そなたは6将の軍事侵攻を3度食い止め、マイルド王国の平和に貢献した。よってオールラウンダーの家名を授ける!ゲット・オールラウンダー!万能のゼスと同じ家名を授ける!」
歓声が響いた。
だが、王が静まるよう合図を送る。
「続いて、領地を授ける。ゲット・オールラウンダーに始まりの村を授ける!」
この事は昨日の話し合いで決まっていた。
本来はもっと大きな領地を授けたいが、他の貴族が出世する俺をよく思っていない件を聞かされた。
俺としては政争に巻き込まれにくい辺境で、しかも小さな村の方が管理しやすくて都合が良かったし、貴族としても俺は影響力の少ない辺境にいる方が都合がいい。
しかし王は無理をして貴族とやり合いながら俺に大きな領地を授けようとしているようだった。
王の顔には疲労が見え、それでも貴族とやり合っているようなので、俺は無理をしないよう伝えたのだ。
王を見ていると、ダストの記憶に出てきた疲れた工場長の顔が脳裏に浮かび、重なって見えた。
過労になった人と同じ顔、王を見てそれが分かったのだ。
領地の件を断るのは駄目と言われた。
『魔物を倒す能力と領地を管理する能力は違う』
『何かを任せる時は失敗に備えて小さくやらせて損失を防ぐべきだ』
その点を突いて俺は小さな領地だけの管理を望み、今の状況に落ち着いた。
正確に言えばエステルやエムルもいる。
失敗する可能性は低いとは思ったが、ダストやガルウインを見て思う。
『人がいる事のリスクもある』
日本にいる時と同じで、厄介な人間はこの世界にもいるのだ。
俺は家名と領地を授かると、すぐに始まりの村を目指した。
【王、アベレージ視点】
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「ゲットは旅立ったか」
「はい」
「ごほごほ!ごほ!」
「王、風邪を引いたまま政務を続けるからです!すぐに休みを取るのです!」
「はあ、はあ、もう少しなのだ。帝国と終戦し、もう少しで国が落ち着くのだ」
「そう言っていつも休まないではありませんか!」
「仕方がない。休めば貴族が国を食い物にする」
「では、せめてはちみつティーを用意します」
「頼む」
ゼス、お前が生きていれば、ゲットにオールラウンダーの家名を授ける事を反対しただろうか?
だが、この国は人がいないのだ。
まともに政務をこなそうとする者が。
民から奪わず、与えようとする者が足りんのだ。
それに、私はゲットにオールラウンダーの名を継がせたかった。
私は、ゲットに謝った時のゲットのあの顔を見て確信した。
ゼス・オールラウンダーと同じ、こちらを気にかけ、思慮深く、そして凄味を帯びたあの姿を思い出す。
修羅をまとい、優しそうで、しかしオーラをまとったような存在感を帯びたゲットを見て思った。
あの凄味は、苦しみをまとって生まれたものだ。
苦しみがゲットを成長させた、いや、成長するしかなかった。
私が、ゲットを追い詰めたのだ。
ただ一人、突出し突き抜けたゲットに頼った結果か。
私にもっと力があれば、こんな思いはさせなかったものを。・
自分の無力を痛感するが、反面嬉しいと思う面もあった。
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