ANGEL -エンジェル-

蜜星

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癒-healing-

P26.今は、甘実さんがいるから

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「この前のこと、お礼を言いたかっただけなのにすみません」

「謝らないでよ!大丈夫だよ?というか、ここ入っていいの?」

あの後、放課後に図書室で会うことになり、図書資料室にいた。

「大丈夫ですよ、図書委員なんで。」

「そっか、こんなところがあるなんて知らなかったよ」

「図書委員でもめったに入ることはないんですよね…ほとんど物置状態で」

ほこり臭い資料室の椅子に二人で座る。

甘実さんがいるだけで、
この部屋の雰囲気が変わる気がするな…
そういえば名前を聞いたときにどこかで聞いたことがあると思ったけど、“あの甘実かんな”さん…だよな…
確か去年の学園祭のミスコンで、全校生徒の半数以上の票を獲得して優勝したっていう…

入学したころから騒がれてて
名前は知っていたけど…聞いていたより…
いやいやいや、何考えてんだ僕は!

「どうしたの?」

ぶんぶん首を振る僕を
甘実さんが不思議そうに覗き込んでいる。

「い、いえ、なんでも!」

「そう?…あ、あの日のことは本当に気にしなくていいからね?…ただね、お願いがあるんだけど…」

「…?はい。」

「私の、あの力のことは誰にも話さないでほしいの。あの日のことも…」

「え?…そんなこと、人に言ったりしませんよ!」

暗黙の了解でそんなことは言わないのが当たり前だと思っていた。
そもそもそんなことを信じる人はそうそういないだろう。
甘実さんはよかったぁ…と肩を下している。

「僕のことも話さないでくださいね。」

冗談交じりに言うと、当たり前だよ!っと即答する。
子どもっとぽくて、可愛らしい印象しか持たないな…
なのに、あの時はなぜあんなにも大人っぽい…
いや、神々しい印象に感じたのだろうか…
何もかも包み込まれているような、とても暖かいものを感じたのだろうか。

「あの時、僕を止めてくれなかったら、左腕を切りをとしてたかもしれないですからね…本当にありがとうございました。」

「…今は、大丈夫なの?」

「え?」

「まだ、死にたいって思ってる?」

そうだ…僕は、死ぬ気だったんだろうか?
あの時、本気で傷が消えるのに逆らって、手首を傷つけ続けて…
きっと死なないことが分かっていたから、
いくらやっても死なないって確信があったから、
だからこそ、そんな自分に対しても刃を向けたかったのかもしれない…




「今は、甘実さんがいるから」




「…へ?」

「僕は同じ悩みを持つ仲間だと思っていますから…
甘実さんがいれば、頑張れそうです。」

思わず出た本音の言葉だったが
なんだか恥ずかしいことを言ってしまったことに気づいて、甘実さんを見ると

彼女は、今まで見たことがないくらい顔を赤らめていた。

























あの日以来、彼女はよく放課後の図書室に来るようになっていた。

よくアンデルセンの童話集を、
窓際の席で小さな手でページをめくっていた。

閉館になって、僕が戸締りを終えると図書室の外にいて、一緒に帰ろうと、笑顔を向けてくれた。

あの雨から、俺たちはいろんなことを話し、お互い惹かれあっていたように感じた。




僕は甘実さんが好きだ。



甘実さんも…きっと…











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