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第3章 学園に通おう

78話 夫婦

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 ソファを立って2人のところに歩いていく。

 奴隷商さんは2人を呼んでくれるって言ってたけど、やっぱり足枷は重そうだし、大した距離があるわけじゃないし僕が歩いていくことにした。

 僕がバナくんを降ろして立ち上がると、護衛としてツヴァイくんも立ち上がるけど……まあ、今度は止めなくていいか。

 2人に危険があるとは思わないけど、バナくんみたいに怖がったりもしないだろうからツヴァイくんの好きにさせよう。

 バナくんはまだちょっとツヴァイくんのこと怖いみたいだから、ソファで待ってるかな?と思ったら、僕について来た。

 そして、ツヴァイくんの反対側に回ると、ちょっと恥ずかしそうにしながら僕の腕に抱きついてくる。

 それを見て対抗心が湧いちゃったのか、ツヴァイくんが僕に寄り添って手を握ってくる。

 ヤバい、色々我慢し過ぎてツヴァイくんのワガママな部分が漏れてきちゃってる。

 とうとう最後には、ソファに残ってくれてそうだったムーサくんまで僕の後ろについて、服の裾をつまんでる。

 使用人になってくれるかもしれない人たちのところに初めての挨拶に行くというのに、なんかよく分からない陣形が出来上がってしまった。

 ちょっと離れてついてきてる奴隷商さんも生暖かい目で見ているし、恥ずかしい。

 と言うか、これ絶対向こうから断られるやつだ。

 いや、まあ、でも、前にムーサくんも言ってたけど、雇う前に僕んちのありのままの姿を見てもらうというのもひとつの考え方だろう。

 ……いや、ここまで恥ずかしい状態はあんまりないけど、最悪の状況を先に見てもらうのは有りだ。

 後で知られて、騙されたと思われるよりよっぽど良いと考えよう。

 そう諦めをつけて、この陣形のまま2人に寄っていく。

 2人の前まで行くと、2人揃って跪いてくれる。

 手枷のせいでちょっと変な格好になっちゃってるけど、それでも慣れた感じで、なんていうか絵になる雰囲気だ。

「僕の名前は、ハルマサ・サクラハラ。
 貴方がたの名前を教えてください」

 僕の言葉を聞いて、男性の方が顔を伏せたまま答える。

「私はクラウス・ビューナーと申します。
 隣におりますのは、妻のカミラでございます」

「クラウスさんとカミラさんですね。
 とりあえず顔を上げてください」

 言われたとおり素直に顔を上げて、僕たちを見るクラウスさんたち。

 近寄っていった時もそうだけど、僕らの有様を見ても眉ひとつ動かさないな、この2人。

 内心どう思ってるか分からないけど、少なくとも一切表には出さない。

 やっぱり、ちょっとイヴァンさんとヨハンナさんを思い出す。

「貴方がたは寮の使用人は出来ますか?」

 僕の言葉を聞いて、クラウスさんは数秒考えるような間を取ったあと口を開く。
 
「寮の使用人をした経験はございませんが、おそらく可能だと思います。
 私もカミラも20年ほどお屋敷の使用人をいたしておりましたので、一般的な事柄でしたら対応できるかと思います」

「あれ?20年だけなんですか?」

 見た目から考えると結構短かったので驚いた。

 転職組?

「その後、20年ほどは家令として家の取りまとめに従事しておりましたため、現場からは離れております。
 カミラも同じくここ20年ほどは使用人の取りまとめに回って、現場からは退いておりました」

 なるほど、そういうことか。

 しかし40年お屋敷づとめとは、大ベテランさんだ。

 ……だからこそ問題も出てくるな。

「もし僕が貴方がたを買った場合、現場に戻っていただいて、貴方がたから見れば孫のような年の家臣たちの指示を聞いていただくことになりますが、それは問題有りませんか?」

「問題ございません」

 今度は即答だった。

 やっぱり内心がどう思っているかは分からないけど、話を聞く限りは買っても問題ない気がする。

 ムーサくんの方をちらっと見ると、ムーサくんも頷いてくれる。

「貴方がたの他にご家族は?」

 年齢的にお子さんやお孫さんがいてもおかしくないけど、一緒に奴隷になったりしてないよね?

 なってるようならどうにか考えないと。

「…………我々に子供はおりませんし、ともに両親は亡くなっております」

 その割には、なんか変な沈黙があったな。

 答えづらい話って感じでもなかったし……。

「包み隠さずに言っていただけると嬉しいです」

 ストレートに聞いてみた。

 これでも隠すようなことなら、それ含めて買うかどうするか考えよう。

「………………」

 答えてくれないのかな?というくらい沈黙が続いたあと、クラウスさんが重い口を開いた。

「……勤めておりましたお家に孫のような年の若様がおりまして、その方の安否が気がかりでございます」

 あー、なるほど。

 お取り潰しになったって言ってたし、たしかにそれは心配かもしれない。

 こうなってくると子爵様とやらがどうなったのかは僕も気になるなぁ。

 ちょっと離れたところにいる奴隷商さんなら知っているかもと、顔を見てみるけど……。

「その話はまた後ほど……」

 知らないわけじゃないみたいだけど、答えてもらえなかった。

 これも『いわく』絡みなのかなぁ?

 少し話しただけだけど、落ち着いたしっかりした人みたいだし、問題はないと思う。

 奥さんの方とは話できなかったけど、やっぱり落ち着いた様子でパッと見不安になる要素はなかった。

 何より僕たちの有様を見ても表情ひとつ変えなかったのがいい。

 どちらにせよ、一緒に仕事してみないと性格なんてわからないし、第一印象は良い、ってところで満足しておこう。

「ありがとうございます。
 最後に質問ですが、当家に雇われてもいいと思ってくださいますか?」

「……」

 今度の沈黙も、子供のことを聞いたときほどじゃないけど、長かった。

 僕の方がお断りされるやつかーと思い出したところで、クラウスさんが口を開く。

「……お許しいただけますのならば」

 僕の質問への返事にしては少し変な感じだったけど、これも『いわく』絡みなんだろう。

 あとは、奴隷商さんから話を聞くしか無い。
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