夜空に触れたその日から、私は魔法少女だった

カエル帽子

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第1章

夜空に触れたその日から③

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目を開けると、千尋の周りには見たこともない風景が広がっていた。彼女は深い闇に包まれた草原のような場所に立っており、空には数えきれないほどの星が瞬いている。しかし、その星々の輝きはどこか冷たく、現実の夜空とは異なる不気味な光を放っていた。

「ここは……?」

千尋は戸惑いながらも、一歩踏み出す。草の間を歩くたびに、足元が不思議な光を放つ。その光が小さな波紋のように広がり、闇に飲み込まれていく様子は、どこか夢の中にいるような感覚を覚えさせた。

その時、彼女の視界に「何か」が動くのが見えた。遠くにぼんやりと浮かぶ影。それは輪郭が曖昧で、人の形をしているようでしていない、不定形の存在だった。彼女の背筋に冷たいものが走る。あの存在──ノクスの言葉が脳裏によぎる。

「君に与えられた力は、運命を変えるためのものだ」

自分に力があるのだと信じたい。けれど、その力がどんなもので、どのように使えばよいのか、千尋には全く分からなかった。ただ、その場で立ち尽くし、次第にこちらに向かってくる異形の存在を見つめることしかできない。

「どうすれば……」

恐怖に駆られ、無意識に手を握りしめたその瞬間、彼女の中で何かが「開かれた」感覚があった。手のひらから微かな温かさが溢れ出し、光が生まれる。それはまるで、彼女の心の中に眠っていたものが呼び覚まされたかのように自然に湧き出た力だった。

「これが……私の力……」

信じられない気持ちで両手を見つめる。小さな光が手のひらで弾け、やがてその光がゆっくりと広がり、千尋を包み込むように輝き始めた。彼女は恐怖と驚きの狭間で、何とか冷静さを保とうと必死だった。

目の前の異形が近づいてくる。千尋は反射的に手を伸ばし、その光を向けた。その瞬間、光が異形を弾き飛ばすように爆発し、闇の中に影が溶けていく。

「消えた……」

力を使った後、千尋はその場に立ち尽くしていた。自分の中で湧き上がった力は、信じられないほど温かくも、どこか危ういものに感じられた。ノクスの言葉が再び脳裏に響く。

「この力には、代償が伴う」

千尋は自分が何に巻き込まれたのかを少しずつ理解し始める。彼女は今、自分が見知らぬ世界にいること、そしてその世界で運命に導かれる存在としての「力」を与えられたことを悟った。

周囲には静寂が戻り、ただ冷たい風が彼女の頬を撫でていた。
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