夜空に触れたその日から、私は魔法少女だった

カエル帽子

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第1章

夜空に触れたその日④

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冷たい風が吹き抜ける中、千尋は深呼吸をした。手のひらに残る微かな温かさが、先ほどの出来事がただの夢ではないことを証明している。ここが現実なのか、それとも夢の中なのか分からないまま、彼女はただ立ち尽くしていた。

再び、頭の中にノクスの無機質な声が響く。

「今の力はほんの一部に過ぎない。だが、君が使うたびに、その代償が増していくことを忘れてはならない」

千尋は小さくうなずいたが、その言葉が意味することがどれほど重いのかはまだ理解できていなかった。ただ、力を得たことで自分に課せられたものがあることだけは確かだと感じていた。

「……代償って、どういうこと?」

千尋が問いかけても、ノクスは何も答えない。まるで声だけの存在で、彼女の背後から静かに見守っているように感じられるだけだった。彼は答えを与えるつもりなど最初からないのかもしれない、と千尋は思った。

ふと、周囲の風景がわずかに歪み始めた。闇の中で瞬いていた星々がゆっくりと薄れていき、彼女の視界がぼやけていく。世界が再び動き出し、現実に引き戻されるかのように、足元がぐらりと揺れた。

次の瞬間、千尋はふたたび目を覚ました。彼女の周囲は見慣れた風景に変わっていた。いつもの帰り道の路地、遠くには街の明かりが見える。

「……戻ってきた?」

現実に戻ったはずなのに、先ほどの出来事が強烈に胸に残っている。あれは幻だったのか、それとも──。千尋の中には不安と共に、言葉では言い表せないほどの静かな決意が芽生えていた。ノクスの言葉が脳裏に響き、彼女はその言葉が運命の引き金であることを理解し始める。

「君は運命に挑む存在となるだろう」

その意味が何であれ、千尋は自分の中に芽生えた力と共に、これから先に待ち受ける運命を歩んでいくしかないのだと思った。
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